表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

159/228

オージェリン・ヴァスティーナその1

 ヴァスティーナという国は、この辺りでは一番大きい国だ。

 大きいのだから、当然一番権力も大きいと言っても過言ではない。

 私はその国の、第三皇女として生まれた。

 それが20年前の話である。つまり、私は今20歳になったのだ。


 一番大きい国に生まれたのは運が良い事だが、第三皇女というのは頂けないと思う。

 どうせなら、第一王子として生まれたかった。

 何故なら、第一王子なら、王座が簡単に手に入るから――。

 

 だけど、生まれを嘆いても仕方がない。

 農民に生まれなかっただけ"マシ"だろう。

 農民にのような下賤な民に生まれたのなら、今よりももっと越えなければいけない壁が多かったのだから。



     ♦



 私は朝になり目を覚ますと、まず父の元へと向かった。

 これは日課である。

 私の父は、病で床に伏し、ながらく寝所から動けない生活を送っているのだ。

 

 そんな父が、私は心配で心配で――なんて馬鹿な事は思わない。

 私は城内では、完璧な皇女を演じているから、毎朝父のお見舞いに行っているだけである。

 まあ、今死なれたら困るのも確かだ。

 死ぬなら死ぬで構わないのだが、準備が終わってから死んでもらわないと困る。

 

 私が父の部屋へ行くと、偶然兄に出くわした。


「やあオージェリン。毎日熱心だね」


 私の大嫌いな兄のレーンだ。

 嫌いなのは、こいつが第一王子だからだ。


「あら、お兄様だってそうじゃない?」


 嫌いと言っても、私はそんな様子はおくびにも出さない。


「ふっ、俺は忙しいからたまにしか来んよ。オージェリンが毎朝来てくれて助かる」


 この妙に良い性格もむかつくのだ。

 だから、長々と話すつもりもない。


「では、私はお父様に会ってまいりますので」


 私はそう言うと、そそくさと部屋へと入った。


 部屋の中では、いつも通り多くの従者と母、そしてその中心で寝所で寝ている父がいた。


「おはようございます。お母様」

「おはよう、オージェリン」


 私は挨拶を手短に済ますと、父の元へとすぐに向かう。

 こんなところで時間をかけているわけにはいかないのだ。


「お父様。おはようございます」


 父は眠っていることもあれば、起きている時もある。

 しかし、私としては眠っている方が都合がいい。

 その方がめんどくさくないからだ。


「おお、オージェリン。いつもすまないな」


 だが、父は起きていた。

 眠って置けよと思う。


「いえ、私、お父様の事が心配で心配で……」


 ある意味心配なのは本当だ。

 まだくたばってもらっては困る。


「お前の様な親孝行な娘を持って、私は幸せ者だよ」


 それはそうだろう。私の様な出来た娘をもってお前は幸せ者だよ。


「ずっとここに居れたらよいのですが……」


 もちろんそんなつもりはないが。


「お前にだってやる事が多かろう。私の事はいいから行きなさい」


 そう、私にはやる事は多いのだ。


「ええ、それでは、また明日来ます」


 そう言って、私は"名残惜しそうに"父から離れた。


「それでは、お母様。失礼いたします」

「ええ、今日も行くのですね?」


 母はどこにとは言わない。

 私が行く場所は決まっているからだ。


「はい」

「そうですか。あなたに限って何かあることはないと思うのですが、気を付けるのですよ」


 もちろん言われなくても気を付ける。

 本性がばれないようにな。


 そして、私は部屋を出ると、そのまま城を出て、元々手配して会った馬車へと乗った。

 私が向かう先は、私の婚約者がいる、ハレスレダ王国だ。

 当然、婚約者に会う為に、私はそこへ向かうのだ。



     ♦



 ハレスレダ王国は、この辺りでは、2番目に大きい国である。

 私は、その国の第一王子と婚約しているわけだ。

 つまり、我が国とかの国は良好な関係を築いているというわけである。

 

 長い時間をかけて馬車に揺られ続ける。

 国自体は遠いと言うほどのものでもないが、それでも行き来するのには時間がかかる。こればっかりは仕方のない事だ。

 そしていつしか、ハレスレダ王国へと辿り着いた。

 

 私が馬車から降りたところで、ハレスレダ王国の王子と出くわした。


「あら、ごきげんよう」

 

 と言っても、第一王子であるセレームではない。

 第二王子であるゼンドリックだ。


 ゼンドリックは私の事を良く思ってない様である。

 実際に今も、私に会ってしまい、嫌そうな顔を一瞬したのだ。

 ただ、思い当た節はない。


「これは義姉さん。兄さんの"見舞い"ですか。毎日ありがとうございます。それでは」


 そう言って、ゼンドリックはさっさと城の外へと出て行ってしまう。

 放蕩息子と言わているだけの事はある。護衛もつけずに一人で城を出て行ってしまうだなんて。


 しかし、ゼンドリックの言った通り"見舞い"である。

 私の婚約者もまた父と同じように、病に伏してしまっているのだった。


 もちろん始めからではない。

 都合が悪い事に、婚約した後に病に伏してしまったのだ。

 本当に忌々しい事だが、それは仕方がない。まだ病で死ぬと決まったわけではないし、やりようはあるだろう。


「それじゃあ行きましょうか」


 私は従者たちを連れて、城の中へと入っていった。


 この国には何度も来ているし、城の中も勝手知ったるものだ。

 私が歩けば、兵達も頭を下げる。

 そんな中を歩き、私は婚約者の元へと辿り着いた。


 第一王子であるセレームは、私の父と同じように多くの人間に囲まれ、寝所に寝かされていた。

 顔色は常に悪く、苦しそうな顔をしているのだ。


「オージェリン!」


 しかし、私が来たのがわかると、顔は明るくなり、大きな声だってだすのだこいつは。

 尻尾があるなら、尻尾だって振るのだろう。

 私が長年かけて"調教"してやったからな。


「こんにちは、セレーム。元気そうじゃない」


 私が近くによると、セレームは体だけ起こして、私に抱き着き、顔を私の豊満な胸に押し付けた。

 周りに従者がいるというのにお構いなしだ。


「君がいないと寂しくて寂しくて……」


 なんと情けない男だろう。本当にちんこがついているのだろうか?


「あらあら、赤ん坊みたいね」


 だけど、私は頭を撫でて甘やかしてやる。

 男って言うのは、こうしてわたしに"はまって"いくのだ。

 と言っても、こいつはもう抜けられない程はまっているので今更だけど。


「ああ……オージェリン……」


 病で弱っているのだろう。いつもこうだ。

 そしていつしか、私の胸の中でセレームは眠っていくのだ。

 そして私は、彼が眠るまで、頭を撫でてやるのだ。


 こんな単純な事で、国の王子一人を堕とせるのだから簡単なものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ