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クレネッソ・オーダムその11

 私は木にもたれかかり、少し休んでいた。

 少し、少しだけだ。

 もう少し休んだら行かなければいかない。

 また戦いに行かなければならないのだ。

 だが、体が動かない。

 這ってでも行かなければならないというのに。

 リフィアを守りに。


 魔族に、神の加護を授かれるわけがなかった。

 私は、目の前の敵に"勝利した"ものの、私自身も相応に傷を負ってしまった。

 片腕と両脚は失ってしまったし、体も穴だらけだ。

 いくら魔族とはいえ、このままだと死ぬだろう。

 だが、"敵"はまだいるのだ。

 それでも、リフィアだけは守りに行かなければならないのだ。


 私は、"少しの休み"を終えると、地べたを這い出した。

 這ってでも、行かなければならないから。


「間に合わなかったか……」


 そんな私の目の前に、そいつは静かに、しかし急に現れた。

 死にゆく私の目の前に現れた神の遣い――というわけではないだろう。

 神の遣いが、こんな"ふざけた仮面"をしていたら、おかしくて仕方がない。

 

 それに、私はこのピエロの仮面を被った奴に一度会っている。

 だが――


「人間と言うのは……そんな状態で生きていられる生き物だったか?」


 そのピエロは、私に負けず劣らずなほど"ボロボロ"だった。

 もちろん、人間であるなら生きていられない程。


「流石に今回は大変だったね」


 ピエロは、とても傷だらけとは思えない声色で喋る。

 私は喋るだけでも、息も絶え絶えだというのに。

 だから、私はピエロにも返事をせずに、這い続けた。

 とても間に合うような速さではないが、それでも這い続けた。


「そんなことをしなくても大丈夫だよ。もう"敵"は来ないんだ」


 実は、薄々そんな気はしていた。

 こんなにボロボロになるまで、このピエロは"何"と戦って来たのかと。

 そう考えていた。


 だが、それは願望だ。

 そもそも、このピエロだって死に際の幻想かもしれない。

 だが、それでもいい。


「私の最後の願いを聞いてくれないか?」


 私の願いを聞き入れてもらえるなら。


「構わないよ」


 どうも今日の私は運が良いようだ。


「私の死体を一目のつかないところに捨ててくれ」


 私が死ねば、私が魔族だと判明するだろう。

 その時、リフィアにあらぬ疑いがかけられてしまう。

 それは避けねばならない。


「この国が見渡せる。見晴らしのいいところに埋めておくよ」


 理由を聞かないどころか、余分な事までしてくれるようだ。

 そこまで要求してはいないが、別に制止する理由もないだろう。


「もう一ついいか?」

「何個でも」


 随分と気前がいい事だ。

 もしかしたら本当に、"神の遣い"なのかもしれない。

 だが、あと一つだけでいい。


「あの国に私を待っている女性がいるんだ」

「知ってる」


 何故知っているのか聞く必要もないだろう。

 そんなことは、死にゆく私にはどうでもいいのだから。


「リフィアに――」


 なんと伝えればいいだろう。

 色々と考えが巡り、時間が過ぎる。

 しかし、もう時間はないのだ。


「"ありがとう"と」


 考え抜いて出した答えはこれだった。

 私達の間にそんなに多くの言葉はいらない。

 これだけでいい。


「君も素直じゃないね」


 そうかもしれない。

 だが、これでいいのだ。


 私の意識はそのまま沈んでいき――そして、いつしかなくなった。

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