ジェヌ・アーレその4
「はぁ……」
私はため息をつき、座り込む。
ちょうど談義が終わり、一息ついたところだ。
「どうかなされましたか?」
取り巻きの司祭が心配をしてきた。
どうかしたのかではない。見ればわかるだろう。疲れているのだ。
原因は当然、昨日の会議だ。あの糞爺どもの、どこにあんな元気があるやら。
付き合わされたこちらは、まだ昼だというのに、疲れで倒れそうである。
「ジェヌ司教様!」
そんな私の元に、一人の信徒が駆け寄って来た。
私はすぐに立ち上がり、笑顔を作る。
「どうなさいましたか?」
答えながら、この信徒の寄付額をか思い出す。
若い信徒で、あまり多くはなかったはずだ。
「実は近々、子供が生まれることになりまして、名前を承りたいのですが」
なるほど、この国では良くある話だ。
だが、大事な子供の名前なら自分で付けろよと思う。神から承るわけでもあるまいし。
「おお、それでしたら、私が名前を授けましょう」
しかし、そんな事は口が裂けても言えない。
名前は事前に百種類ほど考えて、備えてある。その中から一つ選ぶだけだ。百種類ほどだと被ってしまうこともあるが、別に気にしたことはない。
なんだったら、あそこの家と同じ名前ですよ、神によって近しいと定められた人間同士なのです。とでも言ってやればいい。
それが男女同士で、本当に結婚してしまったこともあるので笑える。
「ありがとうございます!」
それでも、信徒は嬉しそうに感謝をするのだ。
「ただ、私も忙しい身。子供が生まれた際には、この中の司祭の1人が行くこともあるかもしれません。その場合でも、私が定めた名前なので、大丈夫ですよ」
というか、この程度の寄付しかないものには、私が直接行くことは絶対にない。
「はい!ありがとうございます!」
だがやはり、それでも信徒は幸せそうにしているのだ。
私もこれくらい、頭を空っぽに出来たらいいと思うこともある。
しかし、それでは出世できない……か。
そして、信徒は去っていったのだが、次の信徒がやってきた。
談義を開くと、こうなってしまうこともある。
今日は特に勘弁してほしいものだが、困ったことに時間はまだある。
長い一日になりそうである。
♦
夜になり、部屋に戻ると、私はすぐに寝所へと滑り込んだ。
寝所の中で、やっと休めると安堵する。
そして、すぐに寝付ける――はずだったのだが、どうにも寝付けない。
歳をとると、こういうことがあるのだ。
どうしようもなく疲れていて、眠いのに、眠れない――そんなときが。
こういう時は、悪知恵を働かせるのだ。
当然今は、クレネッソにどうやって嫌がらせをしてやるかだ。
最近いつも考えるのは、近くにある建国祭のことだ。
司教が当日やることは――様々だ。
教会を回り、訪ねてくる信徒に神託を授けたり、舞台上で談義をしたり、法王と一緒に建国の祝いをしたり――色々だ。意識が――少し飛び始めた。
その時に、例えば――クレネッソがいなかったらだ。
何か理由をつけて、どこかに閉じ込めてしまうとか――そういう話だ。
だが、奴は――魔法が得意である。いったいどこにどうやって閉じ込めればいいのだろうか?
今からでも、その場所を考えておかなければならない。
そう、それは明日からでも――今は寝よう。
建国祭が楽しみで――私は寝る直前まで良い気分で――笑みが絶えることはなかった。