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リフィア・ジェールその3

 私はいつも通り仕事を終わらせ、いつも通りエルミとシエスカと帰路を辿っていた。


「ねえリフィア。今日なんか機嫌いいね」


 話の途中に、急にエルミがそう言いだした。


「そうですね。何かあるのでしょうか?」


 シエスカもそれに続いてくる。


「何かあるというわけではありませんけど……」


 "特別な事"があるわけではない。


「そう?どうせ、クレネッソ司教様関連の事でしょう?」


 確かに、今日はクレネッソが家に来る日だ。

 だけど、クレネッソが家にいることは、特別な事ではないのだ。


「今日はクレネッソが家に来るのです」

「へぇー」

「それで、リフィアは機嫌が良かったのですね」


 エルミもシエスタも特別驚いたりはしない。

 彼女たちは知っているからだ。

 クレネッソが、私の家に元々住んでいたことを。


「教会の屋根の修理をしに来るだけですよ?それくらいは私でなくても、頼まれてやっていることもあると思います」


 司教は何でも屋ではないが、クレネッソは何でも願いを聞いてしまう節がある。

 そういうところは、とても心配である。


「でも、クレネッソ司教様が来るのは、この後なんでしょ?」

「つまり、お泊りなのではないのですか?」


 食事までは考えていたけど、そこまでは考えていなかった。


「そうかもしれませんね」


 でも、それも普通の事だ。騒ぐようなことでもない。


「はぁ~駄目だわこの子」

「将来が心配ですね」


 エルミとシエスタは二人して肩をすくめた。


 二人は勘違いをしているのだ。クレネッソはただの家族なのだから。


 

     ♦



 そうして、二人と別れて家に戻ると、すぐに私は夕飯の準備を始める。

 朝のうちに出来ることはしてあるし、お母様も少しだけ準備をしてくれていた。

 それに、思ったより早く帰ってこれたので、余裕がありそうだ。

 

 私は準備をしながら、窓の外をちらちらと確認する。

 クレネッソは司教だ。

 だから、遅くなるかもしれない。

 ちゃんと来れるか心配だ。


 だけど、そんな心配は杞憂で、時間通りにクレネッソは現われたのだ。

 私は、料理をいったん止めて、家を飛び出した。


 そして、クレネッソに駆け寄ると、いつも通り挨拶をする。


「お疲れ様です、クレネッソ」


 と言っても、疲れている様子はない。

 いつもこうだ。例え疲れていたとしても、涼しい顔をしていのだ。


「いや、疲れてはいない。すぐに教会の屋根を修理する」


 そう言うと思っていた。


「そうですか。でしたら、お父様を呼んできますね」


 だから私は、すぐに家へと戻り、お父様とお母様に声をかけた。


「お父様、お母様。クレネッソが来ましたよ」


 私はそう言うが、既にお父様は大工用品を片手に立ちあがっているし、お母様もその隣で微笑んでいる。


「おう!お前がそんな勢いで飛び出して行きゃあ嫌でもわかるってもんよ」

「よっぽど嬉しかったんでしょうね!」


 そんなことはないはずである。


「それはいいのです。クレネッソが待っていますよ」


 私は二人を連れて外に出た

 クレネッソは一歩も動かずに待っている。

 そんなクレネッソに、お父様とお母様は、"ずけずけ"と近寄っていく。


「おう!来たかクレネッソ!少し大きくなったか?」


 そんなことはない。

 

「もう!そんなはずないでしょう!ふふ!」


 お母様がそう言った。

 少し元気すぎるけど、息があった夫婦だとは思う。


「暗くならないうちに始めていいか?」


 確かに、暗くなったら危ない。


「おう、そうだな。それじゃあ悪いけど頼むぜ」


 そう言って、お父様は大工道具をクレネッソに渡した。


「それじゃあ、私達は夕飯の準備をしますね」


 料理はもうほとんど出来上がっている。

 あとは仕上げと、盛り付けだ。

 ちょうどよく、準備を終えることが出来るだろう。

 私はお母様と一緒に、料理の続きをしに、家へと戻る。


 しかし、お父様の大きな声は、家の中にいても聞こえる。


「あら、お父さんたら、声が大きいわね」


 お母様は呑気なものだ。


「なあ!クレネッソよ!男二人になったらよ!何話すかわかるか?」


 私にはわからない。

 一体何を話すのだろうか?


「一体何を話すんでしょうね」


 お母様が、私の考えと同じ事を口にした。

 だけど、お父様と違い、クレネッソの声は聞こえてこない。


 そんな時だった。


「リフィアとはどうだ?もう口付けくらいしたか?」


 どうやってそんな話になったのだろうか?

 私とクレネッソがく、くち、口付けだなんて。

 家族ではそんなことは――あれ?するのだろうか?


「したの?」


 お母様が私に聞いてくる。


「していません!」


 クレネッソは弟のようなものだ。

 そういうのではないのだ。


「ええ!お前よく我慢できるなあ!うちの母ちゃんに似て美人だし、なにより――」


 やはり、お父様の声はずっと聞こえてくる。

 私が美人だなんて、そんなことはない。

 でも、お母様は美人だ。

 そんな美人なお母様は、顔を赤くしている。


 それにしても、"なにより"なんなのだろう。


「ぼいんぼいんだぞ?」


 クレネッソに何てことを言っているのだろう、私のお父様は……。

 顔から火が出るほど恥ずかしい。

 でも、もしかしたら、クレネッソもそういう事に興味があるのだろうか?

 少し、窓の方へと近づき、どうにかしてクレネッソの声を聞こうとしてみる。

 しかし、クレネッソの声は、全くと言って良いほど聞こえなかった。


 そんな私に対して、お母様が肩に手を置いた。


「お父さんはあとで懲らしめておくわ。でも大丈夫よ、それを嫌いな男はいないわ!」


 そうなのだろうか?

 でもクレネッソは、普通の男性とは違うと思う。

 

「あら、終わったみたいね」


 お母様の声に釣られて外を見ると、クレネッソはもうこちらへと向かっていた。

 失敗してしまった。外に気を取られて、料理の準備が終わっていない。

 私は急いで、料理の準備を再開したのだった。

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