リフィア・ジェールその1
教会は静寂に包まれている。
陽は落ちかけ、教会の窓から赤い光が射している。
その光に照らされて、私は一人で祈りを捧げている。
今日が特別な日なわけではない。
毎日、仕事が終わった後には、祈っているのだ。
「そろそろ行きませんと」
時間を確認し、私は立ち上がった。
すると、すぐ側に二人の友人達がいた。
「あら……」
彼女たちはこの教会で一緒に働く修道女だ。
エルミとシエスカと言う。
「ふふっ……あんまりにも熱心に祈っているものだから」
と言ったのはエルミだ。
彼女はとてもおしとやかで、お姉さんのような存在だ。
「ほんと毎日よくやるよね。仕事も終わったって言うのにさ」
そして、そう言ったのがシエスカの方だ。
彼女はとても活発で、お姉さんのような存在だ。
二人とも年上なのである。
この教会では、私が一番年下だ。
でも、背は一番高い。
この二人と比べてではなくて、教会の中では一番高い。
ここは女性しかいない教会だから。
正直に言うと、それが少し嫌に感じることもある。
「お待たせして申し訳ありません」
この二人は、いつも私の事を待ってくれているのだ。
と言っても、いつもはこんなに近くでは待っていないので、今日は少し驚いてしまった。
「いいんですよ」
「いいよいいよ」
彼女たちは、口々に喋る。
「それでは帰りましょうか」
時間的にはまだ早いが、この教会はもう閉めてしまう。
だから、人気もなかったのだ。
この国には教会はたくさんある。
だから、この教会が早く閉まっても困りはしない。
「ええ、行きましょう」
戸締りは、この教会の持ち主である司祭様がやってくれるので、私たちは働き場である教会を後にした。
私の家は教会なので、教会から教会へと帰る形になる。
この国では、それほど珍しい事ではない。
神学校を出た後、しばらく自宅ではない教会で経験を積む人間はたくさんいる。
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「あー、疲れたねー」
シエスカが、手をあげて、体を伸ばす。
「そうですね」
私は相槌を打った。
修道女もやる事は多い。
そんな中で、特に大変なのは掃除だ。やはり大きい教会を綺麗に保つのは大変だ。
しかし、教会を綺麗にすることは、神様の為にする大事な事だ。
特に女神様の像などは、埃一つついてはいけない。
「いやねエルミ。リフィアなんて私たちの2倍は働いているわよ」
「そんなことは……」
全員が、真面目に仕事をしている。
「ありますなあ」
エルミの言葉に、シエスカも頷く。
「あなたほど信心深い人間もいないわよ」
褒められるのは悪い事ではないが、恥ずかしいし、言い過ぎだと思う。
「それは言い過ぎです。信心深さで言うなら、法王様が一番でしょうし、司教様や司祭様だっています」
私はただの修道女だ。
何故だか、エルミが"にやにや"としだした。
「それって、例えば――クレネッソ司教様とか?」
確かにクレネッソは信心深い。しかし、クレネッソだけというわけではない。
「あらあら、またリフィアのクレネッソ司教様自慢が始まるわよ」
確かにクレネッソは自慢ではある。
「ぞっこんだもんねー」
しかし、そう言うのではない。
「クレネッソは家族ですよ?」
兄と言いたいところだが、どちらかというと、弟のような存在だ。
「はぁ~。でも今日もクレネッソ司教様に会いに行くんでしょう?」
エルミがため息をつきながら言った。
「最近はずっとですものね」
クレネッソが司教になってから、しばらく会えない日々が続いていた。
だけど、最近、この仕事が終わった時間になんとか会えるようにしたのだ。
「家族ですからね」
私は、クレネッソが心配なのだ。
「本当に困った子ですね……」
「ほんとほんと」
そう言われても、私も困ってしまう。
「おっと、そろそろですな」
エルミがそう言う。
もうそろそろ、二人とは別れる道だ。
そして、私の家に行く道ではなく、クレネッソに会いに行く道である。
「ええ、それではエルミ、シエスカ、さようなら」
「ええ、リフィア。また明日」
「リフィア。それじゃあね!」
そうして、二人と別れて、私は一人で歩き出した。