クレネッソ・オーダムその1
私は朝起きると、まずは国を歩いて回る。
私以外の司教はこんなことはしないだろう。
私にとって、これは趣味のようなもの"だった"。
趣味はいつしか、日課となっていた。
今では、特に恵まれない信徒達を見て回るのに都合がいいため、そうしている部分もある。
特に今は、魔王軍との戦時下で、この国は前線に立っているのだ。
"何故だか"、最近は魔王軍からの攻撃もあまりないのだが、私が前線まで見回ってやらねばならない。
そして、私はいつも国のはずれまで見回りに行くのだ。
当然、1日では回り切れないので、区画ごとに回ることにしている。
そして実際に向かった際に、住民達は私を見つけると、私に駆け寄って来るのだ。
"不思議なものである"。
「あ!クレネッソ司教様だ!」
「おお!クレネッソ司教様。よくぞ、おいでになりました」
「聞いてくださいクレネッソ司教様!」
はずれの方は、どこに行ってもこうだ。
この国に住む人間は、全員教会の信徒ではあるのだが、あまり高位の人間に触れる機会がないからだろう。
だが、よく考えると、高位ではないころから、こうだったかもしれない。
やはり不思議なものだ。
そして、皆に奉られても、別に得意気になることはない。
"自分の為にしている"ことなのだから。
はずれまで来ても、司教としてやることは変わらない。
彼らの為に、一緒に祈りを捧げたり、困っていることがあれば聞くだけだ。
特に多いのは、やはりモンスター関連だ。
「ゴブリンが畑を荒らして困っています」
そう言われれば、ゴブリンを退治しに行くし、
「どうも、魔王軍が街を襲おうとしているのではないかって話なんだ」
そう言われれば、魔王軍の部隊を追い払いに行く。
"たまたま"魔法が得意な私は、大抵のモンスターは倒せてしまうのだ。
と言っても、魔王軍の部隊が迫っているのは嘘で、向かわされた先は、盗賊の住処だったのだがな。当たり前だ。
全員殺さずに捕えておいた。
それが済むと、今度は国の内地の方に戻り、やはり同じようにする。
と言っても、国の内地にはモンスターは出ないので、私に相談してくる内容もたいしたことはない。
例えば、だ
「息子が病気にかかってしまったんです!」
こんな話もあった。
それは私に言われても困るので、一緒に病院まで連れて行った。
もちろん、良くなるように祈りも捧げた。
ただ、たまにだが、私がはずれまで回る事を良く思わない人間もいる。
自分達の方が、教会に対する貢献が大きいというのだ。
そういう相手にも、私は態度は変えない。
腹が立つということがないからだ。
そして、規則正しく、時間となると、私は自分の住処へと戻る。
私は、"今は"この国の司教が集まっている大きい教会に住んでいる。
特に寄り道をせずに、そこへと帰ると、必ず通る道がある。
その道で、彼女に会った。
最近は、毎日のように会うのだ。
彼女は、私を待っているのだ。




