エンディング
「君の歌をもう一度聴きたくてね」
僕がそう言うと、ウルスメデスはなんだか変な顔をした。
"困ったような、怒ったような"顔だ。
そして、彼女はため息をついた。
「おいおい、わかるだろ?声が枯れてんだよ?」
そうは言われても、僕は彼女の素の声しか聞いたことがない。
「なあ、歌くらい"いつでも"歌ってやるからよ。今日は勘弁してくれ」
「でも、今日聴きたいんだ」
頑なに譲らない僕の態度に、ウルスメデスは考え込むような姿勢を取る。
「あああ!わかったよ!その代わり茶化すなよ」
ウルスメデスは、観念したように言うと、歌い始めた。
「~~~」
僕にしか聴こえないような、小さい歌声だ。
でも、僕にだけ聴こえればいい。
「~~~」
聞き慣れた、しゃがれた声だ。
でも、それでいいのだ。
「~~~」
ウルスメデスの歌だ。
でも、違うのだ。
そして、やがて歌が終わった。
彼女は何も言わずに、僕の言葉を待っている。
「やっぱり偽物だね」
僕は言い切った。
「おいおい、茶化すなって言ったろ」
彼女は、怒りこそしなかったが、悲しそうに言った。
「これは君の歌だよ。君にしか歌えない、"本物"の君の歌だよ」
それはきっと、ウルスメデスにも出せない音なのだ。
彼女はそれを聞いて、驚き、照れた。
「嬉しいこと言いやがって」
そして照れ隠しに、僕の肩をバンバンと叩いてくる。一応怪我してるんだけどな。"たいした怪我ではない"けど。
「素晴らしい歌だったよ。ありがとう」
僕はそう言って、彼女に背を向ける。
当然、ここから去るために。
「やっぱりか。そんな気はしてたんだ」
てっきり止められるかと思ったけど、そうではなかった。
「うん。短い間だったけど、楽しかったよ」
でも、僕にはやる事があるのだ。
「最後にいいか?」
「なんだっていいよ」
大したことができない僕に出来る範囲なら。
「あたしの名前は――って言うんだ」
それが、彼女の本当の名前なのだろう。
きっと、彼女しか知らない名前だ。
「それじゃあ」
僕は少し間を置く。
「またね――」
そして、彼女の名前を呼んだ。
「ああ、また、いつか必ずな」
その言葉を最後に聞いて、僕はこの国を去ったのだった。




