ウルスメデスその17
朝になると、あたしは目を覚ましてしまった。
覚ましてしまったというのは、起きる気がなかったからだ。
ひとまず戦争が終わったのだから、今日は昼頃まで――なんだったら昼過ぎまで起きる気もなかった。
実は昨日は、"少し待っていた"のだが、気が付いたら眠っていた。
それに、少し周りが"騒がしかった"し、習慣もあるのかもしれない。
とりあえず、あたしはちゃんと朝に起きてしまったのだ。
だけど、布団からは起きない。
久しぶりに、一日中休める日なのだから。
そんなあたしの耳に、
「すまないが、ウルスメデスを起こしてくれないか」
こんな台詞が入って来た。
声からすると、ウィグランドだろう。
いや、起きないぞ。
「は、はい!」
侍女の声も聞こえる。
はいではない。
そして、あたしの体が揺れ動かされる。
「ウルスメデス様、王様がお見えになりましたよ」
起きたくない。
今日くらいいいだろ。
長い戦いの夜明けなのだから。
といっても、あたしが来てからはそんなに経ってないけどな。
キヒヒ。
「いや、無理に起こすこともないだろう。またあとで来る」
目を開けていないが、ウィグランドは去る気なのだろう。
なんだろう。そう言われると、気になってしまう。
仕方がない。起きよう。
「お待ちください」
そして驚いた。
あたしだけではない。侍女もウィグランドも驚いている。
あたしは"ウルスメデスの声"を出したつもりだ。
しかし、出たのはあたしの素の声のような声である。
「まあ!ウルスメデス様!大丈夫ですか!」
別に変な事ではない。
昨日、死ぬほど歌ったからだろうな。
「ええ、昨日無理をし過ぎたようですね。じきに戻ります」
ここで、あたしは気付いてしまった。
休む口実が出来てしまったことにだ。
数日は、休めるんじゃないか?
「おい、大丈夫か?」
ウィグランドがそう言って来た。
それよりも、お前は何しに来たんだよ。
「宴を催そうと思い、誘いに来たのだが、無理なようだな」
上手い飯も酒も好きだ。
しかし、元より宴なんかに行く気はない。
だって、ウルスメデスで過ごさなければいけないから疲れるだろ。
「ええ、残念ながら……」
まあ、上手い飯も酒も、ここにいれば手に入る。
残念でも何でもない。
「そうか。邪魔したな」
ウィグランドはあっさりと去っていった。
あいつもあいつで忙しいのだろう。
同情はするよ。
「皆さんも、どうぞ今日はお休みなさってください」
もう食事の準備もしてあるようだし、今日は"ウルスメデスになる"必要もない。
侍女達がいたのでは、休まらないので、とっとと追い返すことにする。
「よろしいのですか?」
ああ、いいよいいよ。とっととどっか行け。
と言いそうになってしまった。
「はい。明日から、また、お願いいたします。」
油断は禁物である。
侍女達は、各々挨拶をして、部屋から出て行った。
あたしは朝食をとると、また布団に横たわる。
♦
そして、気が付いたら、眠ってしまっていたようだ。
扉を叩く音で目を覚ました。
ウィグランドが来て、侍女が帰って、あと来る人物がいるとしたら"二人"しかいない。
いや、片方は、人物かはわからないのだけど。
そして、今来たのは、"そっち"ではないだろう。
だから、あたしは居留守をつかった。
だって面倒だろ。
今日はせっかくの休みなんだ。
だけど、扉を叩いたそいつは勝手に入って来た。
一応確認するが、やっぱり"あっち"の方である。
「ああ、なんだお前か」
別に、もう片方の友人を期待していたわけではない。
「宴には行かないのかい?」
そういうお前だって行ってないだろ。
「声を出すのが辛いんだよ。そもそも宴に行ったら"ウルスメデス"にならないといけないだろうが」
ウルスメデスが嫌いなわけではない。
でも、あたしがウルスメデスになるには、あまりにも違いすぎるのだ。
「ちょっといいかな」
キルエスの奴は、なんだか強引だ。
いつもなら、察しってどっかに行くくせに。
「駄目に決まってるだろ」
一応そう言ってやる。
でも、引き下がったりはしないだろう。
「少しだけだからさ」
ほらな。
「昨日も言ったんだけどさ……本当にありがとう」
ウルスメデスをやっていれば、皆ありがとうって言ってくるよ。
だけど、
「そりゃ、どういたしまして」
こう改まって言われると、なんだか照れてしまう。
顔を見せてなくて良かった。
「それじゃ、行くね」
ウィグランドもそうだけど、キルエスもあっさりと帰ってしまう。
まあ、あたしが追い返してるんだけどさ。
「おう、またな」
キルエスは普通に帰って行った。
しかし、扉の外からどうにも声が聞こえてくる。
ウィグランドの声だ。
全く。男二人で"いちゃいちゃ"しやがってな。
あたしは一人寂しく休むとしよう。
そう思った時だった。
あたしの友人が、"上"から降ってきたのは。
「やあ」
そいつは、呑気に挨拶をしてきた。
「やあ。じゃねえよこの……」
悪態をつこうと思ったけど、やめた。
今は素直に喜ぶとしよう。




