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エインダルトその9

 私は待っている。

 何をかと言えば、当然戦が始まるのを、だ。

 準備は整えた。

 ただ広いだけの平原に軍を集めた。

 これで、アジェーレ軍は、ただ全力で戦うしかないわけだ。


 砦は捨てた。

 そもそも、あそこを占領されても困らないし、アジェーレ軍にはそんな余力もないだろう。

 私に必要なものは、剣と鎧と酒だけだ。

 

 そして、私の思惑通りに、アジェーレ軍はやってきた。


「楽しそうですね」


 私の有能な副官であるベリッドが、私の様子を見て、そう言って来た。

 それはそうだろう。

 私は戦が好きなのだから。

 規模はむしろ今までよりも小さい、お互い満身創痍といったところだろう。

 しかし、特別な戦なのだ。


 それに、


「お前だって楽しそうではないか」


 ベリッドだって同じなのである。

 こいつは私と同じで、戦が好きだから私といるのだ。


「そうですね。笑いだしそうなくらい楽しいです」


 無表情でそう言われたが、ベリッドが笑っているところなど見たことはない。

 しかし、冗談なのか冗談ではないのか区別がつかない。本当に愉快な奴である。

 

「準備が整ったようだな」


 アジェーレ軍の動きが止まった。

 それを見ながら、私は開戦の合図を待っているのだ。

 開戦の合図より前に動く気はない。

 それでは、つまらないから。


「見ろ。歌姫とやらも連れて来たぞ」


 敵の後方に、大量の兵士が固まっている。

 あの部分に歌姫とやらがいるのだろう。


「予想通りですな」


 予想というよりは願望だ。

 その方が、戦が面白くなるだろう。


 そして、戦場が急に騒がしくなった。

 戦が始まったのだ。


「よし!行くぞベリッド!」


 私は、酒の入った杯を投げ捨てると、すぐに馬へと飛び乗った。


「はっ!」


 ベリッドも私についてくる。

 戦が始まったのであれば、手加減はしないし、手加減も必要ないだろう。

 死ぬ気であらがってくれるはずだ。


 私たちは本陣を飛び出した。

 狙う先は敵本陣ではない。

 狙う先は歌姫である。


 

     ♦



 最初から、私の前を切り開く部隊は、下に準備してある。

 本陣は元から、ほぼもぬけの殻だ。

 我々だけで本陣を抜けるので、相手も察せられないだろう。

 そして、私はその部隊と合流すると、迂回して目的地へと向かっていた。


「なあ、ベリッドよ。ウィグランドは本陣を目指してくるぞ」


 走りながら、私は言った。


「どうして、そう思うのですか?」


 ベリッドは理解できないようだ。


「なんでだと思う?」


 ならば、私は問うてみる。


「勘ですか?」


 なるほど、確かに勘は大事だ。

 だが、


「予測だよベリッド。勘で動くのは"愚か者"がすることだ」


 不正解である。


「ならば、攻撃の手を緩めますか?」


 歌姫を襲うのには二つ理由がある。

 一つは、戦術的な話だ。

 歌姫を倒せば、戦場は終わりだろう。

 魔族にはよくわからないが、人間には信仰というものがある。

 その信仰にも近いものがなくなれば、残るのは絶望だけである。


 もう一つは、私情だ。

 私情だなんて、まるで人間だな。

 ここまで戦を楽しくしてくれた人間を見ずに、戦が終わるのはつまらないだろう。

 だから、生きているうちに見に行ってやろうと思ったのだ。


 つまるところ、ベリッドは簡単に終わっては、つまらないと言っているのだ。


「いや、その必要はない」


 戦が始まったのであれば、真剣にやらねばな。


「申し訳ありません」


 ベリッドが頭を下げる。


「良い。今日の私は気分がいい」


 それは、言うまでもないことではある。

 

 迂回しているとはいえ、敵は立ちふさがり続ける。

 しかし、私の部隊はそれを簡単に退けてしまう。

 部下の魔族の質は変わらないが、特別強いモンスターを集めたからな。


 だから、すぐに辿り着いてしまった。

 まだ見えてこないが、もう歌姫とやらは目と鼻の先である。


 そして、すぐに敵兵を蹴散らし、歌姫とやらが見えて来た。


「とりあえず、周りの兵を片付けるか」

「はっ!」


 そう、指示を出した直後の事だった。


 私にとびかかってきた何かが、私に激突したのは。

 当然剣で防いだのだが、普通なら斬り飛ばしているところである。

 しかし、それは速すぎた。

 防ぎはしたものの、落馬してしまう。

 

「やあ、また会ったね」


 まるで、旧友と偶然会った時にするような挨拶をする。

 そいつは、ピエロの仮面をした"あいつ"であった。

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