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キルエス・ガーレムその6

 ウルスメデスの部屋に来訪者がいるのは、あまりにも予想外過ぎた。

 だってこんな夜中なのだし、彼女は"ウルスメデスをやめて"一人で休んでいると思っていたから。

 もしかしたら、こんな夜中だからなのかもしれない。だって変な仮面を被ってはいるが、"男"のようだし。


 とはいえ、これは困る。

 そもそも、部屋に簡単に人を招かない様にも注意だってしていた。

 特に男だなんて、変な噂がたっても困るのだから。

 

「どうしたんだよ?そんな顔して」


 そんな顔と言うのは驚いている顔なのだろう。

 そして、ウルスメデスの口調は平然としたものだった。

 彼女からしてみれば、困った状況ではないという事だろうか?


「い、いや、困るよ。勝手に部屋に人を入れたりして」

「あ?」


 今度はウルスメデスが驚いた顔をした。

 そして、ウルスメデスは勢いよく後ろを振り返る。

 まるで、そこに誰かがいるのがおかしいかのような反応だ。


「おい!なんで隠れてねーんだよ!」


 ウルスメデスの口調から察するに、ピエロの仮面は知り合いのようだ。

 余りにも異質なので、もしかしたら僕にしか見えていない何かなのかと考え始めていたくらいだ。


「隠れないといけなかったのかい?」


 ピエロの声も平坦だ。

 普通は、少しは動揺しそうなものだけど。


 隠れて勝手に話を聞かれるのは困るので、僕からしてみると、隠れていなくて助かったが。


「お前なあ……こないだは隠れてたじゃねぇかよ」


 どうにも話から察するに、あのピエロは常習的にこの部屋に来ているようだ。

 それはとても困るのだけど、僕の耳に入って来ていないのも不自然だ。

 

 とはいえ、それはともかくである。


「ちょっといいかな。事態は呑み込めないんだけど……悪いんだけど、ウルスメデスと話したいんだ。出て言ってくれないかな?」


 これから話すことは大事な話だ。

 例え、信頼のできる兵士でも聞いて欲しくはない。

 もちろん、こんな得体の知れない変人に聞かせるなどもってのほかである。


「構わな――」

「ああ?別にいいじゃねぇかよ」


 ウルスメデスが口を挟んできた。

 というか、今間違いなく、構わないと言いかけただろう。

 変な仮面を被ってはいるが、常識があって助かると思ったのに、なんて余計な事をしてくれたのだ。


「いや、大事な話だからさ」

「じゃあ、あたしは聞かねえぞ」


 ああ、駄目だ。こうなるとめんどくさい。

 もう夜も遅いし、時間はない。

 諦める方がいいだろう。


「わかったよ」


 そして、僕は座る。

 机を挟んで、右側にはウルスメデス。そして左側には、全く知らない異様な風体のピエロだ。

 いったいどういう状況なのだろう。


「ああ、僕の事は気にしなくてもいいよ。口だって堅いんだ」


 口が堅い人間は、自分で口が堅いとは言わない。

 それに、このピエロは、思っていた以上に饒舌に感じる。

 全然関係ない僕が入って来ても、構わずにこれだけ喋るのだから。


 いや、やめよう。気にしない事にしよう。


「それじゃあ、いいかな?」


 言ってから後悔した。


「駄目に決まってんだろ」


 黙って始めるべきだった。


 当然、ウルスメデスの駄目は軽口だ。

 実際に、にやにやと笑っている。


「……じゃあ始めるからね。実を言うと、このままだと我が軍は負ける」

「だろうね」


 意外にも、相槌をうってきたのはピエロだ。

 一体この不審者に何がわかるというのだろうか。

 いや、もしかして、この国にいるという事は一兵卒なのか?顔を隠すために変な仮面をつけているだけなのかもしれない。

 そう考えると、意外と中身は普通の人なのかもしれない。

 

 おっと……気にしないことに決めたのだった。


「それ言われたの二回目なんだけど?でも、こいつが言うなら間違いねえかな?」


 ウルスメデスの方はそう言って、ピエロの肩を叩いた。

 そんなに信用できるのか?


「そこで、新しい作戦を始めることにした」

「ふーん。いいじゃねえの?」


 別に許可を求めに来たわけではない。


「その作戦に君も参加して欲しいんだ」


 つまるところ、この話をしにきたのだ。

 なんだか"余計な事"に気を取られて、随分と遠回りしてしまったが。


「いや、いつも参加してるじゃねえか」


 ウルスメデスがそう言ったのは、いつも歌って軍を鼓舞してやってるだろという話だ。

 もちろん、そう言う意味で言ったわけではないし、ウルスメデスだってわかってて言ったのだろう。


「戦場に参加して欲しいんだ」


 わかっているのだろうけど、僕は一応言い直した。

 それを聞いて、ウルスメデスは舌打ちをして黙る。

 

「へぇ、いいじゃないか。そうしなよ」


 意外な所から援軍がきた。

 ずっと黙っていたピエロだ。


「お前なあ……」


 ウルスメデスが何か言おうとしたけど、駄目押しが入る。


「駄目なのかい?」


 ウルスメデスは、ため息をついた。


「いや、わかったよ。構わねーよ」


 なんだか、当事者のはずの僕が蚊帳の外だったけど、ウルスメデスの了承は取れた。


「それじゃあ頼むね。軍を再編成したらすぐだから」

「へいへい」


 ウルスメデスは適当に返事をすると、再び僕を追い払うような仕草をした。

 そんな事をされなくても、僕は忙しいのだからもう出ていくさ。


 僕は望み通りに、すぐに立ち上がると、ウルスメデスの部屋から出ていった。

 これから、軍の配置を考えないといけない。これが大変なのだ。

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