ウルスメデスその10
それから、更に数年が経った。
この頃に、魔王軍が現れたと言う噂が出始めた。
噂が本当かどうか知らないが、あたしには関係ないと思っていた。
だけど、それは大間違いだったのだ。
最初の頃は、大儲かりだった。
戦争帰りの男どもが寄っていくからだ。
戦争帰りだけあって、滾った男どもの相手をするのは大変だった。
その状態が数年続いたのだけど、徐々に客足が減りだした。
理由は簡単だ。
戦争で人が減ったからだ。
街を歩いていても、男はてんでいやしない。
だから、あたしも客引きに外に出ねえといけなくなってしまった。
でねえといけねえといっても、別に体が悪いわけじゃない。
出る必要がなかっただけだ。
やはり、街を歩いていても、男どころか人自体が少ない。
戦いに行くのは男だけではないからな。
あたしは戦えないけど。
そんな時、随分と上等な服を着た男が目に映った。
今更残ってるって事は、どこぞの金持ちのぼんぼんだろう。
ついていると思った。
当然、あたしはすぐに声をかけたのだ。
「よう、兄さん。ちょっといいかい?」
後ろから声をかけたのだが、振り向いたその顔は、思ったよりも若く、とても整った顔をしていた。
まぁ、あたしは、客が若かろうが、顔が整っていようが、気にもしないけどな。
大抵の男はあたしを見ると、それはもうだらしのない顔になるのだが、この若い男は逆に厳しい目つきになり、まるで値踏みしているようだった。
しかし、胸を見ている時間が長かったような気はする。
「何か用ですか?」
声は平静だ。
この辺りで、これは駄目そうだなと感じ取ってしまった。
「ああ、大事な用だよ。どうだい?安くしとくよ?」
と言っても、一応聞くだけ聞いてみる。
しかし、若い男は相変わらず神妙な顔つきで、あたしを見ている。
やはり、胸で何回も目を止めているようだが、若い男と言うのはそういうものだ。
「なあ、頼むよ。男どもが減っちまって、このままじゃ生きていけないんだよ」
胸を寄せてあげて、若い男に縋りついてみる。
だけど、なんだか悪そうな顔をしながら、
「すまないね」
と言って、去っていってしまった。
やっぱり駄目だったかと言う感じだ。
だから、あたしは追いかけなかったし、すぐに別の男を捜しに行ったのだ。
♦
翌日になった。
あたしは相変わらず、街に客引きに出ていた。
そして、男を見つけて声をかける。
「よう、兄さん。ちょっといいかい?」
毎回同じ掛け声なのに理由はない。
別になんだっていいのだ。
あたしを見てもらえば、すぐに何かわかるから。
しかし、振り向いたその顔を見て、あたしはしまったと思った。
昨日断られた、若い男だったからだ。
だけど、妙ににこにことしている。
普通なら、またかと呆れるような顔をする場面だろう。
「なんだあんた。気が変わったのかい?」
つまり、そういうことなのだろう。
「そうだね。よろしく頼むよ」
やっぱりな、むっつりすけべなお坊ちゃんだと思ったのだ。あたしの豊満な胸ばかり見てくるしな。
キヒヒ。
あたしは心の中でだけ笑う。
客にあたしの下品な笑い顔を見せたら、引かれるかもしれないからな。
おっと忘れるところだった。
「そうかい。それじゃあよ」
あたしは金額を提示して、手を差し出す。
この仕事では大事なところだ。
若い男は特に出し渋る様子もなく、金を出してきた。
「毎度あり」
やっぱりあたしは幸運だ。これはまだ搾り取れるかもしれない。
娼館に連れ込んでしまえば、こっちのものである。
「すまないけど。僕の泊っている宿でいいかな?」
だけど、そう言われてしまった。
まあ、そう言う客もいるし、下手にごねて気を変えられるのは良くない。
「ああ、いいぜ」
だから、あっさりと受け入れてやることにした。




