表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首斬り特待生  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
序章 死刑執行人シャルル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/77

第六話 首斬り特待生

 その言葉を受けて目の前の女性がどう反応するか頭の中で考えた。

 だが、彼女の反応は僕の頭の中で考えたどれとも違った。


 ハルマン副校長は口を開き、こぼれそうになった葉巻を右手で支える。


「死刑を……殺す? それって、死刑制度の撤廃(てっぱい)ってこと? おいおい、頭おかしいんじゃないか? それは、死刑制度支持派である現皇帝にたてつくと言うことだぞ?」


 頭おかしい人に頭おかしいと言われた。

 ちょっとショックだ。


「ふふ……ははははははははっ!!!」


 ハルマン副校長は腹を抱えて笑い出した。

 顔に血が上る。話すんじゃなかった。


「いいねぇ!! すっごく面白いよ! ソレ!!」

「はぁ?」

「いやはや、どうやら私は君の事を大好きになってしまったらしい。その願いを叶えられるとは断言できない。けれど、1%にはなる。今のままじゃ、君の理想は叶わない。絶対にね。我が学園へ入り、学び、卒業できれば、1%にはなるさ」

「1%……」

「魔術が世に浸透し、全盛となった今、当然政治と魔術も大きな結びつきを得ている。魔術を身に着けることは死刑を殺すことへの第一歩と言っていい」


 曖昧な返答に顔をしかめる。

 ハルマン副校長は僕の表情を見て、「逸るな」と言葉を繋ぐ。


「君は“聖堂(せいどう)魔術師(まじゅつし)”というのを知ってるかい?」

「いいえ、聞いたことないです」

「“聖堂魔術師”は皇帝つきの魔術師のことだ。皇帝直属の親衛隊というやつさ」

「皇帝――!」


 死刑を殺す上で、避けられない存在!

 その直属の兵となれば、皇帝と直接会話する機会ができる。死刑を撤廃するよう、直談判できる。


「卒業時、学年でトップの成績を修め、且つ、校長と3人の副校長に推薦を受けた生徒は“聖堂魔術師”になれる、“聖堂魔術師”の権力はそこらの政治家より上だ。もしも“聖堂魔術師”になれれば……君の夢が叶う可能性は10%ぐらいにはなるかな」


 “聖堂魔術師”、そこに至るまでの道のりが相当に険しいことはわかる。魔術に関して洗礼術以外の知識がない僕はスタートからして他の生徒よりも大幅に遅れている。


 『死刑を殺す』、この夢がはるか遠くにある事実は変わらない。


 学園に入ったとしても、すぐに落ちこぼれて無駄に時間を浪費するかもしれない。仕事を捨て、学園に行ったとして、その先で退学になったら路頭に迷うことは間違いなしだ。


「それにウチにはね、有力貴族の御曹司やら御令嬢やらがいっぱい居る。彼らと良好な関係を築ければさらに確率はあがる」


 有力貴族。

 そういえば、早速それっぽい奴には会ったな。


「ヒマリ=ランファー。彼女も有力貴族ですか?」

「お、彼女を知ってるのかい? そうだよ、彼女は大貴族ランファー家の次女……いや、今は長女か」


 1%になる。

 ただ卒業できれば0%が1%になるんだ。さらに“聖堂魔術師”になれれば10%……貴族の子供たちと関係を築ければさらに上昇する。


 霞がかっていた夢が、はっきりと見えてくる。


「簡単な道ではないよ。学園を卒業するだけでも相当に難しいとだけは言っておこう。特に君はね」


 変わらずはるか遠くにある夢だ。

 けれども、さっきまでと違ってそこに至るまでの道のりが見える。


 なにを、なにを迷っているのだろう。

 僕は恐れているのか、血に汚れた自分が清く正しい学び場に行くことに――


「奴隷め!!! ようやく見つけたぞ!!!!」


 聞き慣れた声に、思わず背筋を震わせる。


「ご、ご主人様……!」


 雪の道に大きな足跡を作りながら、ご主人様はやってくる。

 僕に近づくなり胸倉を引っ張り、連れて行こうとする。


「もう逃がさんぞ! 今から処刑台に直行だ。仕事をしてもらう!」

「ま、待ってください! まだ、この人と話が……!」

「外部の人間との会話を許可した記憶はない! 奴隷は奴隷らしく、主人の言うことを聞け!」


 助け舟を求めてハルマン副校長を見るも、

 彼女はポケットに手を突っ込んで、静観を決め込んでいた。


「ここで決めなさい」


 鋭い目つきが突き刺さる。


「処刑台に戻る道に行くか、処刑台を壊す道へ行くか、ここで決めなさい」


 ここで……!?


 そんな急に決められるものか。人生を左右する問題だぞ。

 処刑台に戻るのは嫌だ。

 処刑台を壊す道だって、正しいか決断できない。一生かけて、一歩も進めず終わるかもしれない。


 無駄に時間を浪費するぐらいなら、とっとと死んで輪廻転生に希望を託す方が得策だ。

 そうだ、死んでしまうのが一番、僕にとって楽な選択――




『シャルル』




 彼女の声が、アンリの声が、聞こえた。


『大丈夫だよ。シャルル。大丈夫……』


 いつも、僕が(つら)そうな顔をすると、決まってそう声を掛けてくれた。

 そうだ、僕は許すわけにはいかない。

 死刑なんてものが無ければ、アンリは今だって生きていたはずなんだ。


 例えどれだけ険しい道のりでも、

 僕は……死刑を許すわけにはいかない。


 僕は足で踏ん張り、抵抗する。


「貴様……!」

「ご主人様。僕は処刑人です」

「ならば……!」

「僕には処刑しないといけない存在がいる。処刑台(あそこ)に戻る必要はない。僕が殺すべき存在は、そこにはいないのだから……!」


 右拳を握る。

 ふと、視界に入ったハルマン副校長は笑っていた。

 ふん。いいさ、望み通りの展開にしてやる。


「さようなら」

「なっ――!?」


 鼻っ柱をへし折る勢いで、拳を突き出した。

 僕にとって、とてもとても大きな存在であったご主人様は、いとも簡単にはぶっ飛んでしまった。こんなにも、軽いとは思わなかった。


「覚悟はいいかい? もう、後戻りはできないよ」

「あなたこそ覚悟はいいか? この不良品、もう返品はできないぞ」

「はっはっは! 上等だ」


 こうして、僕はハルマン副校長に買われた。

 処刑人を辞めたつもりはない。

 僕の最後の処刑は、ここから始まるのだ。


「僕は“聖堂魔術師”になる。そして、死刑を殺す」

「歓迎するよ、首斬り特待生」


 そんなハルマン副校長の言葉が響くと共に、

 雪が――止んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ