第六十四話 反撃の糸口
「シシオ! テメェ!!」
ラントはシシオに近づき、怒りから胸倉を掴み上げる。
「おっと、暴力か? 正式な決闘でもないのに暴力を振るえば立場を悪くするぞ?」
「ラント、落ち着いて!」
僕はラントの肩を掴む。
ラントは肩の力を抜き、シシオを放した。
「それは貴方にも言えることよね? 私達をここで潰すつもり?」
「そんなわけないだろう。俺は裏技は使うがルール違反はしない男だ。今回は、害獣を駆除しに来ただけだ」
「害獣だと……!」
僕は怒りから声を震わせた。
シシオは口封じにベルモンドを焼いたのだ。
なんの躊躇いなく、あっさりと。
「利用するだけ利用して、いらなくなったらあっさり殺すのかよ!」
ラントが叫ぶ。
腹の底から沸々と怒りが湧いてくる。
ベルモンドは生きていた。感情があったんだ。いたずらに殺していい存在ではないのだ。
「そ、そんな……どうして、あなたが……!?」
僕の肩の上で、アルが震えている。
シシオはアルを見つけると、ニヤッと笑った。
「その声……その姿! お前、アルマ=カードニックか! ひっさびさだなぁ、おい! 相変わらずそんなちっぽけな恰好で現実逃避してんのかよ!」
「し、シシオ、さん……」
「おいおいおい、そんな態度はねぇだろう? 昔、あんなに仲良くしてやったじゃねぇか? もう忘れたのか?」
アルは僕の髪をぎゅっと握った。
「まさか、前の学校で君をいじめたのは……」
アルは俯いた。つまり、YESということだ。
「さてさてどうするよ! ヒマリちゃんよぉ! 頼みの綱は灰になった。テメェらに俺たちの策を防ぐ手段はねぇ。――言っておくが、もう降伏は受け付けないぞ? まぁアレだ、お前が俺の奴隷になるなら、考えてやってもいいけどなぁ! 美人大貴族様の脱衣ショーでも開けば、良い金になるだろうしなぁ!!」
「貴方……! ほんっとうにクズね!」
「人として終わってやがる。こんな手を使って恥ずかしくねぇのか!」
「敗北より恥ずかしいことがあるかよ! 徹底的にやるのが俺の主義だ。震えて待ってな、テメェら全員、悪夢に沈めてやるからよ!! キキッ!」
思わず、僕はシシオを睨んでしまった。
いつもの、愛想のいいシャルルではなく、処刑人の顔で、感情のない瞳で、シシオを見る。シシオは僕の視線に気づき、一歩足を引いた。
「……お前らのやり方はよくわかった。これから僕らも手段を選ばないぞ。先に一線を越えたのはそっちだ」
冷淡な声で言う。
シシオは笑顔を引きつりながら、言葉を返す。
「あと5日でなにができるってんだ! もうテメェらは終わりなの! ジ・エンド! 反撃の糸口はいま、無くなった!!」
舌を出して、シシオは挑発する。シシオに同調するように、“緑猿”の連中は嘲笑する。僕らはなにかできるはずもなく、拳を握ったまま森を後にした。
◆
月曜日、4月26日。天気は大雨だ。
傘を差して通学路を歩く。気分は空と同じく雨模様だった。
クラスに着く。ヒマリから招集がかかることもなく、ホームルームが始まった。ホームルームが終わり、授業が始まる。
あっという間に昼休みだ。食堂でラントと肩を並べて昼食をとる。
メニューはブドウジュースにピザにトマトサラダだ。コーンスープもある。これだけ食べてもタダだ。夕食がいらないぐらい食べてしまおうと、さらにベーコンを山盛り持ってきた。
「うっめうっめ! 食堂は天国だな~」
暗い気持ちを払拭しようとしているのか、ラントは大げさに喜んでいた。
「隣、いいかしら?」
「……天国が地獄に早変わり」
返事をする前に僕のピザの隣にトレイを置いて、ヒマリが左隣に座ってきた。
「なにか言ったかしら?」
「いいえ、なんでもございませぬ」
「どうしたの? 食堂で声を掛けてくるなんて珍しい」
ヒマリはいつも食堂の端っこで1人で食べていた。だがその姿に孤独とかマイナスのイメージは抱けず、言うなれば孤高。気高き1人ぼっちだった。
僕とラントはヒマリに期待した。なにか策があって、それを伝えに来たと思ったのだ。けれど、
「別になにか用があるわけじゃないわ……1人で考えてもなにも浮かばなくて……」
ヒマリも手詰まりのようだ。
「もういっそ、“緑猿”の奴らぶっ飛ばしちゃダメなのか? 奴らの校舎に殴り込みに行こうぜ!」
「それをして、学校側にバレれば、対抗戦で黒星が1つ付くだけじゃなく、もっと大きなペナルティを貰う可能性がある。あまりに危険よ。なにか彼らの口止めができる方法でもない限り、賛成はできないわ」
「でもアイツらは“バクスネーク”を使って、俺達を潰しにきてるじゃねぇか!」
「野生の“バクスネーク”が学園島に居る可能性はゼロじゃない。私達が必死に訴えても、自然災害で片付けられるのがオチよ」
どうしようもないな。
シシオは徹底的に僕らを潰しにくるだろう。水曜日から徐々に“白虎組”の生徒を削りにくるはずだ。
徹底的に……。
「徹底的……」
反撃する気が起きないほどに、徹底的に“緑猿組”を潰せればいいのにな……。
奴らの精神を、心を、破滅させるほどに追い込めれば――
――そこで、僕は思いついた。
「そうだ。徹底的にやればいいんだ」




