第六十一話 サンダーバードの体毛を奪え! その4
“レーゲン島”は雨天島。島のすぐ外は晴れなのに、ここは雨が絶えない。
事前に調べた情報だと、深い森が島の中央の丘まで続いているらしい。その丘の上にサンダーバードは訪れるようだ。僕らはその中央の丘を目指す。
「オイラはここで釣りしてるから、なにかあったら『たすけてー』って叫べよ。一応、立場上は保護者だからなぁ。お前らになにかあったら困る」
コバヤシ副校長は左手に傘を、右手に釣り竿を持って船の上に鎮座する。
僕達はレインコートを着て上陸し、森の中に足を踏み入れた。
「今さらだけどよ、サンダーバードっておとなしく体毛くれるような幻獣なのか?」
「気性は荒いわよ。貰うのではなく、むしり取る覚悟で行くわ」
「雷を司る幻獣なんでしょ? そう簡単に毛を抜けるかな……?」
「ヒマリに透明にしてもらって、こっそり近づいて毛を採るんだろ?」
「“カヴァート”は雨の時は使えないわ」
「どうしてだよ?」
「そっか。僕らを透明化させても、雨が僕らにぶつかって居場所がバレちゃうんだね」
「それもあるし、“カヴァート”は上から透明の絵の具で塗色をしているようなものだから、水には弱いのよ」
「じゃあ結構リスクが高いね……」
「このレインコートってどれくらいの雷を防げるんだ……?」
「黄色までよ」
「黄色ぉ?」
ラントは首を傾げる。
「サンダーバードの雷には3色あるの。青、黄色、赤。青は一番弱い。生身で受けても重傷にはならない。黄色はこのレインコートを着ていればある程度は防げる」
「「赤は?」」
「赤は生身で受けたら即死よ。レインコートを着ていても防ぎきれないわ。いい、よく聞きなさい。雷の色が黄色になったら即逃げるわ。サンダーバードはしつこい幻獣ではないからある程度距離を取れば追いかけてこない」
「赤じゃなくて、どうして黄色で逃げるの?」
「雷の色は必ず青、黄色、赤の順番で変わっていく。黄色になったらもういつ赤になるのかわからないってこと。赤になってから逃げても逃げ切れないわ」
「なるほどな。青ならゴー、黄色もしくは赤ならエスケープな」
“レーゲン島”はそこまで大きな島ではなく、30分ほどで丘に辿り着いた。
丘のさらに中央にはサンダーバードの止まり木がある。サンダーバードはあの木で休憩するそうだ。
僕らは木の見える茂みで片膝をつく。
「これも持っておきなさい。レインコートと同じで耐電素材の手袋よ」
ヒマリはゴム質のピンク色の手袋を僕とラントに手渡した。
僕らは手袋を装備し、ジッとサンダーバードを待つ。
「あー、暇だなー。サンダーバードっていつ頃来るんだ?」
「文献で見たままなら、サンダーバードは昼頃に飛ぶのをやめて自分のお気に入りの止まり木で休憩するらしいわ」
「昼に休むのは人間と同じだね」
待つこと30分。
「こねぇな……」
未だサンダーバードの影はなし。
「お、ポケットの中にチョコ入ってた。シャルル、食うか?」
「うん、ありがとう」
「ヒマリ、お前もいるか?」
「一流の菓子職人が作った物でしょうね?」
「知らねぇよ。菓子屋で10オーロで買ったチョコなんだから」
「10オーロ!? そんなはした金で物が買えるの? 信じられないわ……」
「もういいよ、お前にはやんねぇから」
「いらないわよ、牛の糞とか入ってそうだし」
「入ってるわけねぇだろ!!」
「しっ! 2人共、上を見て」
白い雲が黒く染まる。
黒雲が渦のように巻いて、雲から雷が落ち、止まり木に落ちた。いや、雷じゃない。雷を纏った……鳥だ。
「アレがサンダーバード……!」
僕は驚きから声を上ずらせる。
鳥と聞いていたからてっきりカラスやハトぐらいの大きさをイメージしていたがとんでもない。人間を丸飲みにできるほどの怪鳥だ。赤い瞳で、水色の体毛をしている。雷の色は体毛より濃い青色だ。
あの大木を止まり木にしているのだからそれぐらいのサイズをイメージするべきだったな。凄まじい迫力だ。雲から落ちた雷が丘の上に降り注ぐ。
「こ、こえぇ~!!」
「今更ビビッてどうするの! 行くわよ。体毛を採ってさっさと退散するわ」
サンダーバードの視界に入らないように背後に回りこむ。
後ろをとって、音を立てずに歩く。匂いも音も雨のおかげで誤魔化せている。視界にさえ入らなければ問題ない。
息を殺して、存在感を消し、近づいていく。あと50メートル――40メートル――30メートル。心臓が潰れそうなプレッシャーの中、着実に距離を詰めていく。
だが、あと20メートルというところで、
――ドゴォン!!
鼓膜を叩くほどの音を立て、空からの雷が僕らのすぐ目の前に落ちた。
「うおっ!?」
「くっ!?」
「きゃっ!?」
僕らは声を殺していた。必死に抑え込んでいた。それでも、突然の落雷に驚き、決して小さくない声を上げてしまった。
グリン。とサンダーバードの首が回り、目が合った。
サンダーバードは僕らを視界に捉え、逸らそうとしない。
確実にサンダーバードは警戒態勢に入っていた。なぜなら奴の体毛は逆立ち、体毛の色は水色から薄い黄色に、雷の色は濃い黄色に変わったのだから。
「キエエエエエエエエエエエエエェェェェェェ!!!!!!!」
島中が揺れる咆哮。
ヒマリが右手を振って指示を出す。
「……黄色の雷!? 作戦失敗よ! 逃げるわ!!」
「おう!!」
ヒマリとラントが背を向け逃走する。だけど、僕は前を向いたままだった。
葛藤があった。
黄色の雷は危険だ。それでもまだレインコートで弾ける範囲。
赤色に変色する気配はない。
ここを逃せば次のチャンスは来週だ。来週にはもう、対抗戦は終わっている。
――ここは退けない。
死刑を殺すために、“聖堂魔術師”になるために、対抗戦に勝つために、退くわけにはいかない。
「お、おいシャルル! なにしてんだ!?」
「まさか……やめなさい! 馬鹿ッ!!」
僕はサンダーバードに向かって走り出した。




