第五話 死刑執行人の夢
なんというか、妙な展開になったな。
雪の降る路地。結界の外。ゴミ捨て場の前で葉巻を咥えた女性と一対一だ。
女性はゴミ捨て場に捨ててある着せ替え人形を手に取った。
「子供の頃さ、ゴミ捨て場に捨ててあった首のもげた人形に恋しちゃったんだよね。スクラップフェチってやつ? それからと言うもの、私は壊れた玩具が大好きになってしまった。壊れた玩具を直してピッカピカにした瞬間に生きがいを感じている」
女性の手にある人形はボロボロで、右腕の部分に酷い傷がある。
「……わざわざ試験会場に足を運んでよかった。初恋を思い出せたからね」
女性は人形の右腕に向かって30センチほどの長さの杖を振った。杖から飛び出た緑の光は、人形に衝突する。気づいた時には人形の右腕は治っていた。
女性は人形を懐に入れて、僕に目線を向けた。
「――首のない人形だ」
その言葉が自分に向いていることはわかった。
正直、苛立ちを覚えたが包み隠す。
また、いつも通りの笑顔を作り、建前を作る。
「あはは……随分と変わった人ですね」
「早々にその気色の悪い笑顔を外してくれると助かる。実に不愉快だ」
ふーっと煙を吐き、女性は突き刺す様に言い放った。
さすがは教育機関に属するだけはある。
僕の建前なんてお見通しか。
「気色悪いとは失敬な人だ。作り笑いの1つぐらい、誰だってするでしょう」
笑わず、声を高くせず、
無表情で、抑揚のない声で言う。
「……良い表情だ」
無表情を『良い表情』だと言う人間を初めて見た。
「自己紹介が遅れたね。私は〈ユンフェルノダーツ〉、副校長のレフィル=ハルマンだ」
「副校長……ハルマン――」
ヒマリ=ランファーが落とした手紙に、彼女の名前があった。さっき出会った女性試験官も彼女の名を口にしていたな。
超名門校の副校長。なるほど、どうやら地位に見合った曲者のようだ。雰囲気がさっきの会場に居た誰よりも異質だ。子供のような無邪気さと、人形のような無機質さを感じる。
「君の名前は?」
「……シャルル」
「出身は?」
「〈ランヴェルグ〉です」
「歳は?」
「14です」
「うん、やっぱり、私が想像する人物と相違ない」
ハルマン副校長は口角を上げる。
薄気味悪い笑顔だ。
「〈ランヴェルグ〉出身、そして14歳で洗礼術の使い手。千の頭を狩りし執行者、サンソン家の名も無き奴隷……それが君だろう?」
「副校長殿に知られるほど、有名人だと思いませんでした」
「才能ある若者は全てチェック済みさ。ただ、君については深く調査できていなくてね。我々が君に接触するのを誰かに阻まれていたんだ」
犯人は恐らくご主人様だろう。あの人は僕を雑に扱いながらも、何よりも手放したくないと願っていた。僕が居なくなると自分が処刑人をしなくてはならないからな。
「いずれ君の所へ行こうと思っていた、手間が省けてよかったよ。まどろっこしい話はなしだ。単刀直入に聞かせてもらう」
白い雪に、葉巻の灰を落とし、ハルマン副校長は僕の目を見る。
「我が校へ来る気はないかい? 首斬り執行人」
「僕が、魔術学園に……?」
本当に僕の立場を知ってて言っているのか? この女は。
「逆に聞きます。僕を〈ユンフェルノダーツ〉へ入れることは可能なのですか?」
「と、言うと?」
「僕には金がありません、学費なんて到底払えない。身分は奴隷、高尚な学びの場に相応しくないのでは?」
「本校は完全実力主義だ。身分など関係ない。学費についても心配はいらない。ウチには特待生制度という便利なモノがあってね」
「特待生?」
「年に3人、受験生から優秀な人間を選抜して特別待遇で迎え入れるのさ。特別待遇の中には学費の免除というものもある」
「僕が優秀な人間ですか」
「そうだなぁ、魔術の熟練度とか、知識量で言うなら君はむしろ最下位! びりっけつだろうね。けど」
ハルマン副校長はまた薄気味悪い笑顔をする。
「もしも、受験生同士で殺し合いをさせたら、君は間違いなく最後の3人まで生き残る」
「それは『優秀』ですか?」
「私にとっては『優秀』さ。さっきの対ケルベロス戦での君は凄まじかったよ。まさに処刑人って感じだった」
さっきの僕の戦いぶりを見れば、大半の人間は引くだろう。
だが、この女は違う。嬉しそうにしている。
ケルベロスを倒した時も他の教師が青ざめている中、彼女だけは愉快気にしていた。
やっぱり変だな。この女。
「で、答えはどうなんだい? 我が学園への無料切符、これで君を買おう。私に買われる気はあるかい? 執行人」
「……」
今日、死ぬはずだったんだけどな。
魔術学園――
そこに行けば、なにかが変わるのだろうか。
そこに行けば、あの、馬鹿みたいな夢も叶うのだろうか。
「僕には、1つだけ夢があります。とっくに諦めていた夢です。その夢は、魔術学園に入れば叶うのか教えてください」
「夢? 興味深いね。夢を抱くような人間だとは思ってなかった」
「……とある相手を殺したいんです」
僕の発言に、ハルマン副校長は初めて驚いたような表情をした。
「いきなり物騒だね。ま、一応、最後まで聞こうか。誰を殺したいんだい? 君を飼いならした『ご主人様』かな?」
「あんな小者はどうだっていい。僕が殺したいのは……」
少しだけ、ためらわれる。
なんせ、初めて他人に自分の夢を言うのだ。
とても、望まれない夢を。
「死刑です」
「はい?」
僕は小さく間を置いてはっきりと口にする。相手が聞き逃さないように。
「僕は、死刑を殺す力が欲しい。魔術学園に入れば手に入りますか?」




