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首斬り特待生  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 白虎vs緑猿

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第五十三話 翻訳の秘薬を作ろう

 “翻訳の秘薬”の材料を復習しよう。


・コウモリの羽

・サンダーバードの体毛

・セイレーンの鱗

・翻訳したい生物の歯(バクスネークの牙)

・秘薬を飲む人の血液(僕らの誰かの血液)


 放課後、僕とヒマリとラントは校舎の廊下を並んで歩く。


「コウモリは自然エリアの洞窟にいたはず。“バクスネーク”の牙は採集済み。血液は後でいいとして、問題はサンダーバードの体毛とセイレーンの鱗ね」


「サンダーバードの体毛ってのはどこで手に入れるんだ?」


「知らないわ」


「セイレーンの鱗は?」


「知らないわ」


「なんだよおめぇ、全然知らねぇじゃん」


「……っ!!」


「ヒマリ、無言で杖をラントに向けるのはやめて。ラントもあまり無神経なことは言わないように……!」


 ヒマリは書庫に入った。僕とラントも後に続く。

 ヒマリは本棚に見える幻獣系の本を手当たり次第に出して、机にばら撒いた。「貴方達、暇なら手がかりを探して」とヒマリが指示を飛ばす。僕とラントは指示に従って本を片っ端から読んでいく。


 僕とヒマリは立ちながら黙々と読んでいく。ラントは開始数十分で飽きたようで、本をパタンと倒して、テーブルにもたれかかった。


「はー、無理。俺、こういうの向いてない。つーかよ、お前なら家の金でどっちも買えねぇの?」

「学園島の外から取り寄せる形も考えたけど、時間がどれだけかかるかわからないのよ」


 “チェスゲーム”まではあと2週間。

 “悪夢病”にかかれば最低でも3日は悪夢にうなされるわけだから、“緑猿”が全力で僕らを潰してくるのは“チェスゲーム”の3日前~4日前と予測できる。つまり10日後だ。あと10日以内に“バクスネーク”は処理したいところ……島の外にセイレーンの鱗とサンダーバードの体毛を発注したとして、10日以内にここへ届くかは微妙なところだ。なんせ孤島だからな。


「……ヒマリとラントはこのまま本を調べて。僕はハルマン副校長にセイレーンとサンダーバードのことを聞いてみるよ」


「了解よ」


 書庫を出て、教員室へ向かう。



◆教員室◆



 ノックして中に入る。

 ハルマン副校長は葉巻を咥え、ソファーに横たわってダラダラとしていた。


「あー、暇だ。お金はないし、面白いことは起きないし。時間が過ぎるのが長く感じる~」


「……クラスの一大事になにをしているんですか、あなたは」


「あまり私が出張っても君らのためにならんだろう。でも質問に答えるぐらいはしてやる。はてさてシャルル君、一体何用かな?」


「セイレーンの鱗とサンダーバードの体毛を10日以内に入手する方法はありますか?」


「その2つが欲しいということは、目当ては“翻訳の秘薬”か。サンダーバードなら、学園島近くにある年中雨天の“レーゲン(とう)”に週に一度日曜日にだけ現れるぞ。しかしセイレーンは10日以内に行ける場所にはいないな」


「そうですか……」


「あー、でも、セイレーンの鱗は〈ダーツ城〉の禁庫(きんこ)にあるなぁ」


「それなら!」


「がしかし、あそこは生徒立ち入り禁止だ。私も入ることはできない。禁庫への入室が許可されているのは校長と“秘薬学”の教員だけだ。ちなみに“秘薬学”の連中は君らの事情を聞いたとして、絶対にセイレーンの鱗を渡すことはない。禁庫の中の物は“秘薬学”の研究以外には使ってはならないとされているからね」


「それじゃ、“翻訳の秘薬”は無理ですね……」


「だね。諦めた方がいい」


 僕は「失礼します」と頭を下げ、教員室を出る。

 それから書庫に戻って、ヒマリとラントに教員室で話したことをそのまま伝える。すると、


「よかったわね。それなら10日以内に秘薬を作れる」

「えっと、ヒマリ、話聞いてた? セイレーンの鱗は禁庫にあるんだから、僕らが手に入れるのは無理だって」

「セイレーンの鱗は禁庫から盗むわ」

「お、お前なぁ……」

「大丈夫。セイレーンの鱗は実家に発注して、対抗戦が終わった後にでも補充するわ。それまでの間にバレる可能性は低いでしょ」


 シシオほどではないにしろ、ヒマリも目的のためならなんでもするタイプだな……。


「どうする? ラント」

「俺達下民に拒否権があるかよ……俺達が断っても、この女王様は1人で突っ走るぜ」

「だろうね」


 僕とラントは渋々承諾した。


「サンダーバードとセイレーン、どっちから片付けるんだ?」

「サンダーバードは一週間に一度、日曜日にだけ“レーゲン島”に現れるって話だよ。今日は金曜日だから明後日だ」

「今日と明日でサンダーバードの対策をするのは不可能よ。先にセイレーンを片付けちゃうわ。まずやるべきことはダーツ城の見取り図を入手することね」


 ぐぅ~っと腹の鳴る音がラントの方から聞こえた。


「あ~、もうダメだ。腹減ったぜ」

「どこか食事ができる場所で打ち合わせの続きしようか」

「……仕方ないわね」

「お! 校舎の前にちょうどドラゴントレインが来てるぜ! 商業エリアまで乗せてもらおう」


 ドラゴントレインは列車の役割を担っているドラゴンのこと。首と腰から鎖をぶら下げており、鎖の先には列車の1車両を丸々抜き取った物が繋がっている。車両の中に入って移動する。コンビニドラゴンに似た感じだ。


 校舎を出て、ドラゴントレインで商業エリアに行く。


 商業エリアの広間で降ろしてもらい、食事処を探す。すると、どの店に入るかでヒマリとラントが揉め始めた。


「絶対こっちのがいいって!」

「そんな騒がしくて下品な店、お断りよ。こっちの静かで優雅なレストランにするべきよ」

「こっちこそ、そんな息が詰まるような店お断りだ!」


 ラントが推薦するは笑い声飛び交う料理店〈バンビ―×バンビ―〉。料理のジャンルに制限はなく、色々な物を出している。酒場のような空気だ。


 ヒマリが推薦するは明らかに高そうな物しか出さない料理店〈カエサル〉。客層もネクタイを締めた大人が主だ。


 性格が出るな……正直、僕はどっちでもいいのだが。


「よーし、ならシャルルに決めてもらおうぜ!」

「望むところよ」


 2人の視線が僕に向けられる。面倒な役目を背負ってしまった。


「え~と……どっちかっていうと、ラントの方かな」

「ほいきた!」


 ヒマリが強烈な睨みをおみまいしてくる。

 貴族思考のヒマリと平民思考のラント、どちらが僕の感性と近いかなんてわかりきったことだろうに。


 そんなわけで、〈バンビ―×バンビ―〉に入店。

 くだらない恋愛話をしている男子生徒や、仕事終わりではっちゃけている大人の間を縫い歩き席につく。ラントが適当に注文した大皿料理(コロッケ、エビフライ、チャーハン、フランクフルト、申し訳程度のキャベツ、色々な種類のパン)が次々と運ばれてくる。ヒマリはそれを見て溜息をつき、ラントは目を輝かせた。


「食べる前から胃がもたれるわ……」


 最後に運ばれてきたのはジョッキに入った紫色の液体三杯だ。


「すみません」


 ヒマリが店員を呼び止める。


「はい、なんでしょうか?」

「この紫色の液体はなんですか?」

「それは先ほど金髪のお客様が頼まれました()()()()()のぶどうジュースです」


 僕とヒマリは首を傾げる。店員はそれだけ伝えて去ってしまった。

 僕は「試しに」とジョッキに注がれた液体に口をつける。すると渋みのある味が口に広がった。微かにフルーティーな甘みがあるけど、飲めたモンじゃない。


「……なんだこれ」


 苦笑いしながら言う。

 ヒマリもワイン味のぶどうジュースを味わい、顔をしかめた。


「カラクリがわかったわ」


 ヒマリはジョッキに描かれた魔導印を僕に向ける。


「魔術で味を変えてるってこと?」

「間違いないわ。このジョッキは注がれた液体を赤ワインの味に変える魔導具なのよ」

「うげぇ、まっじぃ! これホントにワインの味か? こんなもん大人はうまそうに飲んでるのかよ……信じらんねぇ」


 僕は店員さんにコップを注文する。

 運ばれてきたガラスのコップに、ジョッキの中身を移し、飲むと甘くて酸味のある味――ぶどうジュースの味が味覚を刺激した。


「こうすれば飲めるね」

「ジョッキから液体が離れて数秒で味は元に戻るみたいね。面白い魔術だわ」


 ヒマリは時間が経つにつれ、賑わっていく店内の様子を呆れながら見ていた。


「この空気で作戦会議はできないわね……」

「そうだね。普通にご飯を楽しもうか」

「食お! 食お! マジで腹減ったぜ~!」


 結局、この後特に進展なく一日が終わった。

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