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首斬り特待生  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 白虎vs緑猿

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第四十五話 アルマ=カードニック その5

 教室に入るとバラバラの会話が耳に飛び込んでいた。


 今日はいつもより賑やかだ……と、この感想を抱くのはもう何度目だろうか。日に日に朝の教室は騒がしくなっている。理由は至って単純で、クラス内で続々と仲良しグループが出来上がっているからだ。

 今日は4月12日。入学式から10日以上が経過している。絆が深まる頃合いなのだろう。

 と言っても、中には当然、孤高な人間もいる。一番前の席で勉学に励んでいるヒマリとか。彼女は教室が賑やかになるにつれて眉間にシワを寄せている気がする。


 挨拶に返事しつつ自分の席に向かう。


 アルの入ったバッグを机の端に置き、席に座るとちょうどハルマン副校長が前の扉から入ってきた。


「それじゃあホームルームを始めるぞぉ~、ん?」


 ハルマン副校長は僕の方を見て、「へぇ」と笑った。視線を正確になぞると僕から少しだけ外れているのがわかる。ハルマン副校長の視線に先にあるのは僕の机に乗ったカバンだ。気配かなにかでアルの存在に気づいた可能性が高い。


 ハルマン副校長は特筆するようなことは言わずにホームルームを終えた。


 ベルの音が響く。授業が始まった。

 1限目は秘薬学Ⅰだ。錬金釜やらビーカーやらがいっぱいある研究室で(おこな)う。


「お前なんでカバン持ってきてんだ?」


 ラントからの質問。


「教科書が多いからだよ」と僕は返す。


 秘薬学Ⅰは秘薬という魔術師にのみ伝わっている強力な薬品について解説してくれる授業である。延々と薬の調合の仕方とか薬の効果とかを説明してくれる。


 担当はヴァレンタイン先生。寝ぐせの凄い女性だ。丸眼鏡を掛けている。

 段取りよく解説してくれるけど、ちょっと早口で、気を抜くと解説を聞き逃す。


「今日は“翻訳の秘薬”について解説しましょう」


 今日の授業で説明してくれるのは“翻訳の秘薬”。なんと他種族の生物と会話ができるようになるらしい。教科書には載ってない秘薬だ。

 こういう僕の中にある常識からかけ離れた秘薬の話は面白い。


「“翻訳の秘薬”を飲むと犬や猫と言った言葉の通じない相手とも言葉を交わすことができますではシャルル君この秘薬の素材はわかるかな?」


「はい。えっと……」


 困ったな、さっぱりわからない。

 まぁ別に、答えられないから成績を下げるとか、そういうことをする先生ではないから『わかりません』と返していいんだが――


「……コウモリの羽、サンダーバードの体毛、セイレーンの鱗、翻訳したい生物の歯と、秘薬を飲む人の血液です」


 バッグの中からアルが助言してくれた。

 心の内で感謝しつつ、僕はアルの言葉を復唱する。


「コウモリの羽、サンダーバードの体毛、セイレーンの鱗、翻訳したい生物の歯と、秘薬を飲む人の血液です」


 『うおぉ~!』と声が上がった。意外な歓声に驚き、肩を跳ねらせてしまった。

 ただ一問答えただけでなぜこんなに視線が集まっているのだろう? あのヒマリまで驚いたような顔でこっちを見てきている。


「正解です! それにしてもよくわかりましたねこれはつい最近調合法が確立されたばかりの秘薬です常に最新の秘薬学の情報を追っていないと答えられないでしょう!」


 ヴァレンタイン先生はいつもよりも早口になっている。嬉しそうだ。僕を秘薬好き仲間とでも思っているのだろうか。

 ミスったな。今のは答えられなくて当然の問題だったか。これから過大評価されないかが心配だ。


「素晴らしい! 今のはきちんと成績に加算させておきますねシャルル君」


 それはありがたい。ヒマリは悔しそうだが……。


「は、はい。ありがとうございます」


 多分、ヒマリですらわからなかった問題だ。それをアルはすぐに答えを出した。やはり、成績がクラス2位なだけあって、魔術の知識は相当なものなのだろう。


「……ありがとうアル、助かった」

「ふっふっふー! 引きこもりの情報網を舐めちゃいけませんよ!」

「……馬鹿! 大声出しちゃダメだ!」


 横を見ると、ラントが心配そうな目で僕を見ていた。


「お前、大丈夫か? さっきから独り言ひでぇぞ」


 よかった。アルの声は聞こえていないみたいだ。


「う、うん。大丈夫だよ……」


 笑いながら、僕はバッグのチャックを4分の3ほど閉めて床に置いた。

 昼休み。

 ぐぐっと背筋を伸ばし、バッグに視線を落とすとチャックが開き切っていた。バッグの中からアルが消えている。


「アル、一体どこに……」


 トイレにでも行ったのか?


「腹減ったー! 食堂行こうぜ!」


 僕はチャックを開けたままバッグを床に放置し、ラントの言葉に頷く。


「うん。わかった」


 ラントと一緒に食堂へ向かって階段を下りていく。

 歩きながら、アルの姿がないか周囲を確認する。


「……リンゴを1個、お願いします」


 食堂に入ると、赤毛の少女ヒマリがパットさん(“白虎(ビャッコ)組”校舎の専属コックの男性)に話しかけている姿が目に入った。


「リンゴ、丸ごとでいいの?」

「はい。大丈夫だと思います」


 ヒマリはリンゴを丸ごと1個受け取り、食堂を出て行った。


「なぁなぁ、なんか変じゃねアイツ」

「どこが?」

「だって、リンゴを丸ごと持って行ったぜ」

「そのままかじりつくんでしょ?」

「アイツがリンゴにかじりつくようなタイプかよ。食うにしても絶対切ってから食うだろ。怪しい……追いかけるぞシャルル! 面白そうな匂いがする!」

「はいはい……」


 ラントと一緒にヒマリの後を追う。

 ヒマリはキョロキョロと首を回しながら裏口から外へ出た。

 ラントの言う通り怪しいな。


「裏口に出た! 追うぞ!」


 裏口扉に近寄る。



「……慌てないで。いまあげるから……ふふっ、こんなところにたぬきなんているのね。驚いたわ」



 裏口扉の向こうから楽し気なヒマリの声が聞こえる。いつも声に張りを出すヒマリにしては珍しい、年頃の柔らかい声だ。


 扉を開けると――


「……っ!」


 屈んだ状態でヒマリは僕達の方を振り向いた。なぜか顔が赤くなっている。


「なにやってんだお前?」

「いや、これはその……」


 ヒマリの背中の向こう、そこには地面に転がったリンゴを貪る獣が1匹。


「むしゃむしゃむしゃむしゃ!!」


――たぬきだ。


 布団を被ったたぬきだ。というかアルマ=カードニックだ。

 両手でリンゴを抑え、一心不乱にリンゴにかじりつくアル。

 アル、お前はそれでいいのか? 人として。


「おー! たぬきじゃん! かわいーいな」


 ラントはアルを見つけると小走りで近づいた。


「ん? なんでコイツ布団なんか被ってるんだ?」


 ラントがアルの被っている布団を奪い取る。するとアルは人型に戻った。

 突然出現したパジャマ茶髪少女。アルとラントは目線を合わせ――


「むぎゃあああああああーーーーーっっ!?」

「うおわあああああああああああっっ!?」


 アルの叫びとラントの叫びが交差する。

 声こそ出さないがヒマリも目をぱちぱちさせている。


「た、たぬきが人間になった!?」

「返してください! アルのお布団!」


 アルはラントから布団を奪取し、布団を被る。するとまたたぬきに変身した。


「体格を……ここまで変化させるなんて――!?」

「そんなに凄いことなの?」

「当たり前でしょ! 普通の変装・変化・変身系統の魔術は体重までは変化させることはできないわ! 種族の壁を超えることもできない!」

「そ、そうなんだ」


 そういえば、ガラドゥーンも変装術を使っていたが、同じ体格で同じ種族(人間)にしか化けれてなかったな。


「おいシャルル、この子たぬきは一体誰なんだよ?」

「アルマ=カードニック。僕達のクラスメイトで不登校生の1人だよ」

「アルマ=カードニック……! クラス2位の人間ね!」


 ヒマリはキッとアルを睨む。対抗心がメラメラと燃え上がっているのが表情からわかる。

 アルはヒマリより上の成績だからな、プライドの高いヒマリにとって自分より優れている同級生はそれだけで敵なのだ。


「アルマ! 貴方には負けな――」


 ヒマリは宣戦布告しようとして、言葉を止めた。

 アルは潤んだ瞳でヒマリを見上げる。小動物の姿を最大限利用した愛くるしい視線だ。


「くっ……! 私は、こんな小動物に……」


 気持ちはわかるぞ、ヒマリ。

 ヒマリはアルの視線に屈し、観念したようにアルの頭を撫でた。


「また面白そうな奴が出てきたな。よろしくな! アルマ!」


 ラントがアルに向かって右手を差し伸べる。

 アルはラントの毒の無い笑顔を見て、戸惑っている様子だ。アルの過去を考えると無理もない。


「よ、よろしくです」


 アルの小さな手がラントの人差し指を掴んだ。


「その子、どうしてたぬきの恰好してるの?」

「極度の人見知りで、たぬきの姿じゃないと他人とまともに会話できないんだよ」


 アルは僕の体を駆けあがり、右肩に乗った。


「シャルルさん。アルはお腹が空きました。ご飯を所望します!」


 胃袋のサイズは人間のままのようだ。

 食堂でアルの姿を晒すと、すぐさま女子たちの目線を集め、一躍クラスのマスコットになった。


「きゃーっ! なにこの子! くぁわい~い~!」


 ネストール(男性)はアルをギューッと抱きしめる。


「むぎゃあ!? 苦しいですよぉ!!」


 女子たちがネストールの服を引っ張り「次は私!」と主張する。アルは女子の人気を独り占めにした(1人男子も混じっているが)。

 最初こそ“白虎(ビャッコ)組”の面々に対して緊張していたアルだったが、段々と緊張をほぐし、自分らしさを発揮していった。


 それから午後の授業を終えて、放課後。

 夕焼けでオレンジに染まる道を歩く。肩にはアルが乗っている。


「学校はどうだった?」

「前に(かよ)っていた学校よりはマシです」

「いじめをするような学校と比べられてもなぁ……」

「そうですね、言い方が悪かったです。皆さん優しくて、個性的で、楽しかったです」

「なら次は人間の姿で登校してみる?」

「そうですね。いつか……できればいいですね」


 想定外のことが多く起きたが、結果的には満点の出来だな。

 これなら、僕の手を借りず、アルが外に出る日も遠くなさそうだ。



――次の日の朝。



 アルの部屋のドアノブは鎖でガッチガチに固められていた。

 扉には『月曜~日曜日は定休日』と書かれた張り紙が貼ってある。


「あのたぬき……」


 鎖を破壊して部屋に入ったところでまた魔術戦が始まるだろう。

 寮長を呼ぶか? どっちみち長くなるな。下手したら遅刻する。今日は昨日と違って時間に余裕がない。なにより面倒だ。


「昨日のはなんだったんだ……はぁ」


 僕はアルを放って寮を出た。

月曜 一時間目 秘薬学Ⅰ 二時間目 魔術基礎Ⅰ 三時間目 魔術実習 四時間目 エーテル学Ⅰ

火曜 魔獣使役学Ⅰ 魔術基礎Ⅰ 魔術史Ⅰ 運動訓練Ⅰ

水曜 騎乗訓練Ⅰ 運動訓練Ⅰ 数学Ⅰ 魔術史Ⅰ

木曜 魔術基礎Ⅰ 魔術実習 騎乗訓練Ⅰ エーテル学Ⅰ

金曜 魔術基礎Ⅰ 魔術実習 魔術史Ⅰ 数学Ⅰ

土曜 クラス学習 クラス学習


一時間目 9:00~10:30

二時間目 10:40~12:10

三時間目 12:50~14:20

四時間目 14:30~16:00

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