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首斬り特待生  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 白虎vs緑猿

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第四十四話 アルマ=カードニック その4

 同情心だけではない。僕が彼女を連れ出したい理由はもう1つある。


 来たるクラス対抗戦に備えて戦力が欲しいのだ。もしアルの能力が僕の想像通りのものなら、彼女は僕の弱点をカバーしてくれるかもしれない。僕とアルの能力は()()()()()可能性が高い。


 アルの部屋、203号室の扉の前で止まる。

 とりあえずノックしてみるも反応はない。


「アル、話があるんだ。開けてくれない?」


 話しかけるも、反応はない。

 だんまりを決め込む気だろう。悪いがそうはさせないぞ。


「寮長から合鍵借りてるから、なにも言わないなら勝手に入っちゃうよ」


 ガタゴトという音が部屋の中から聞こえた。


「だ、ダメです! はは、入ってきたらぶっ飛ばしますよ!」


 動揺混じりの声で警告してくる。

 結構遠くから声が聞こえた気がした。恐らくゴミ山の上から声を(はっ)しているのだろう。


「入ってほしくないなら、僕の話聞いてくれるかな?」


 10秒待つも返答はない。多少の苛立ちを覚える。

 僕は合鍵をポケットから出して、扉の鍵を開けた。


「アル、入るよ」


 扉を開き切ると、


「【ヴィント】!!」

「なっ!?」


 風の槍が飛んできた。僕は反射的に斜め前に飛び込んで躱す。


「うそぉ! 今の避けるんですか!?」


 ゴミ山の上でアル(たぬきモード)は杖を持っていた。

 あの布団たぬきめ、いきなり魔術攻撃をしてくるとは……。


「……そうくるなら、こっちも実力行使でいかせてもらうよ」

「そ、それ以上近づくともっと強力な魔術をおみまいしますよ!!」


 服についたゴミを払い、準備運動(伸脚)する。


「ま、ちょうどいい機会だね。君が対抗戦の駒として使えるか、試させてもらう」


 準備運動を続けながら、


「こういうのはどうかな? もしも僕が君にタッチできたら、君は学校に行く。もしも僕が君を捕まえられずに部屋から外に出たら、僕はもう君に関わらないと約束しよう」


 アルは自信があるのか、鼻で笑った。


「ふっふーん! アルのこと(あなど)ってますね。アルは引きこもりですけど、凄腕の魔術師! あなたなんかに負けませんよ、べーっだ!」


 アルはプニプニのたぬき頬っぺたを手で引っ張り、舌を出してくる。


「……OKってことでいいんだね」

「もちろんです!」


 アルマ=カードニックとの戦いが始まる。

 “白虎組”のナンバーツー魔術師だ、気合入れていこう。


「ふんっ!」


 ゴミを蹴り上げ、ゴミの壁で死角を作り、死角に身を潜める。アルは杖を振り、風を射出してゴミを弾く。


 アルがゴミに気を取られているうちにゴミ山に踏み込むが――


「ちっ!」


 ゴミ山は足場としては弱く、僕の体重が乗ると沈んでしまった。体勢が崩れたところへ風の塊が迫る。ゴミ山を転げ落ちて風を回避し、1息入れる。


「戦いの基本は上を取る事です。人は上からの攻撃には対応しづらいものですからね!」

「地形の利はそっちにあるようだね。だけど、それで勝負は決まらないよ」


 ゴミ山を登るのは不可能。

 ならば壁際にあるクローゼットからゴミ山の上まで飛ぶ。しかし、空中に行けば風は避けられない。


 アルの杖の魔導印を見る。魔導印の輝きの強さは魔術の残弾を示す。輝きは大分弱まっていた。あと2、3発といったところか。光が消えた瞬間に仕掛けよう。魔導印を付け直す瞬間の隙を狙う。


 風魔術が放たれる。それをよく見て躱す。速度は中々だが回避の態勢を作っていれば問題なく躱せる。もう1度、風を躱すと杖から光が消えた。


「使い果たしたな……」

「っ――!」


 歯を食いしばるアル。

 僕はクローゼットの上に飛び乗り、

 クローゼットを踏み壊し、ゴミ山の上を目指して飛び上がる。


「むふふ」


 アルが笑った。

 アルは体の影から杖を出した。魔導印が刻まれた杖だ。


「杖!?」



――やられた。杖を2本、持っていたのか!



 このたぬき、わざと隙を狙わせたな。(あらかじ)め魔導印を刻んだ杖を隠し持っていて、魔導印の更新を狙った僕をその杖で撃墜する構えだったんだ。


――受けるしかない……!


 腕を上げてガードを固める。

 さっきの風魔術なら生身でも受けきれる自信があった。


 しかし、空中に居る僕に放たれたのは風ではなく……雷だった。


 散々低威力低速度の風魔術を見せて、この場面で高速雷撃ッ!

 受けきれるか微妙だ。


――まずい……!


 『雷撃に耐える』。


 そう強く願った時、右眉の上――紋章が刻まれた部分が熱くなった。



「“進軍せし者(グラディウス)”ッ!!」



 全身から湧き立つ琥珀色の蒸気。

 蒸気は迫りくる雷撃を受け止め、散らした。


「え!?」


 驚いたようなアルの声。

 蒸気は1秒ともたず消失する。

 僕はゴミ山の上に着地する。アルとの距離は1メートル未満だ。この間合いまでくれば勝負は決まったようなもの。


「今のは……」


 自分の体を見る。

 ダメージなし。あの雷撃を受けて無傷だ。

 さっきの蒸気、アレがアランロゴス校長が言っていたオーラというものだろうか。


 “進軍せし者(グラディウス)” の力、紋章の力が僕の意思に反応してオーラで体を守ってくれたのだろう。それ以外で説明がつかない。本当に一瞬だけ、無敵になれるんだな。体感にして0.6秒。消費魔力は“テロスバプティズマ”の3倍ほどだ。


「な、なんですか今の魔術……アル、あんなの知りません!! 反則です!!」


 アルの知識の中に“進軍せし者(グラディウス)”はなかったようだ。杖を持つアルの手は震えている。

 コイツ、普通に強かったな。魔術の命中精度も威力も申し分なし。戦術を練る頭もありそうだ。


「合格だ……」


 風の魔術と雷の魔術と変化の魔術、最低でも3つの魔術を使えるのは確定だ。魔術面ではヒマリと同レベルの印象。ヒマリの方が肉体面では勝る。


 すっ、と右足を出すと、アルは頭を下げてゴミ山に擦りつけた。


「ギブです!」

「……じゃあ、学校に来てくれるよね」

「い、嫌です!」

「約束でしょ。僕が勝ったら登校するって……」

「でも、無理です……怖いもん」


 泣き出しそうな声だ。体は小刻みに震えている。


「いじめを受けていたらしいね……寮長から聞いてるよ」

「あのバカ兄! 勝手に話して……!」

「そんなにひどいいじめを受けたの?」


 アルは背中を向け、震えた声で語り出す。


「アルはなにもしていないのに、教科書を破られたり、水をかけられたり、物置に閉じ込められて危うく死にかけたこともあります……」


 なんだ、そんなものか。大したことないな。

 いや待て、僕を基準にして考えちゃだめだな。ここで『大したことない』なんて言うのは悪手だ。


「酷いな。可哀そうに……気持ちはわからなくもない。だけど……」

「あなたにアルの気持ちがわかるはずがありません! いじめられっ子の気持ちは、いじめられっ子にしかわかりませんよ!」


 アルは怒ってしまった。

 こういう時、アンリならうまくやるんだろうな……ってそんなこと考えても仕方ない。僕にしかできない説得方法(戦い方)もあるはずだ。


「僕も昔はいじめられていた」 


 アルは「え」と声を出し、顔を上げて僕の顔を見る。

 僕は腰を落ち着けて、部屋の天井を見ながら話す。


「街を歩けば『気持ちが悪い』、『醜い』と言われて石を投げられた。良いことをしても、なにもしなくても責められた。なにか事件があれば大抵僕のせいにされたよ」


 死刑執行人は忌み嫌われる存在。

 人の首を斬ることを生業(なりわい)としている人間を誰が好くものか。

 

 1人を除いて、僕に味方なんていなかった。


「……アルの同情を誘おうと、嘘を言っている顔ではありませんね」


 肩を肉球がタップする。


「まぁまぁ元気出してください。生きていればいいことがありますよ」


 アルがペチペチと肩を叩いてくる。


「どうして僕が慰められなければいけないんだ……まったく」


 僕はゴミ山を下りる。


「最初は授業に出る必要はない」

「どういうことですか?」

「僕のバッグに入って、授業の雰囲気やクラスの雰囲気を見ていればいいよ。そのサイズならバッグに詰め込める」

「バッグに入ってるだけでいいんですか?」

「そう」


 アルは腕を組んで「う~ん」と唸る。


「でも、やっぱり……怖いです」

「大丈夫。もしも君をいじめるような人間がいたら、僕がぶん殴るから」


 笑顔で言うと、アルは恐る恐る顔をあげてくれた。


「見た目によらず野蛮な人ですね……わかりました。その条件なら、学校に行ってあげます!」

「それじゃ、明日7時半に迎えにくるから。寝坊しないでね」

「はい。よろしくお願いします。シャルルさん」


 そして次の日の朝。

 僕はアルの部屋を訪ねた。アルは目を擦りながら扉を開けた。いつものたぬきの姿だ。


「ふにゃ~。引きこもりにこの時間はきついです……」


 僕はバッグを床に置く。

 アルはのそのそとバッグに潜り込んだ。それから談話室へ降りて、


「寮長、いってきます」


 寮長に挨拶する。

 寮長はバッグから頭だけ出したアルの姿を見て笑った。

 寮長はエプロン姿でおたまを振りながら声をかけてくる。



「夕飯は楽しみにしておけよ~!」


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