第三話 入学試験
「……ここで合っているのか?」
両開きドアに行きついた。それも鉄製だ。
ここを開けば外に出れるはずだけど、なんか、ザワザワした声が扉の向こうから聞こえる。
さっきの保健医が嘘を言うはずもないし、僕は扉を開けた。
扉の先は外では無かった。正面にステージが見える。ここは屋根付きの闘技場だろうか。ステージの周りには観客席も見える。
ステージの上には黒マントを羽織った男性が居た。こけた頬、油を沁み込ませたような、潤いすぎている長い黒髪。蛇のような目つきは威圧感がある。しめた、あの人に改めて道を尋ねよう。
僕はステージの上に足を踏み入れた。
「すみません、出口はど――」
「来たかね。受験番号022、ラント=テイラー君。早速、試験を始めさせてもらう」
「え」
「私は実技試験を担当する魔獣使いのガラドゥーンだ。君の相手は私の使い魔がする」
ステージの上から周囲を見渡す。
観客席には険しい顔をした大人がぽつぽつと居る。そして、ガラドゥーンと名乗った男性の遥か後方には――首輪を付けられた三つ首の獣が居た。
あの獣の名は知っている。
魔獣、ケルベロス……!
「試験時間は5分。ステージの上でケルベロス相手にどれだけ逃げられるかを見る試験だ。もちろん、倒す必要はない。君が戦闘不能になったらその時点で試験は終了だ」
「ま、待ってください! 僕は――」
「恐れることはない。いくら怪我してもすぐに治癒できる用意はある。思う存分、力を発揮するといい」
「話を聞け!」
いつの間にか、ガラドゥーン試験官はステージの外に移動していた。
瞬間移動……! 今のも魔法か!
「それでは、実技試験スタートだ!」
「なっ!?」
首輪が外され、ケルベロスがステージの上にあがる。
ふざけるな! どうして僕がこんな化物の相手をしなくちゃならない!
早く逃げ――
「オオオオオオオオオオオォォォォンッッ!!!!」
「……ッ!?」
突風の如き突進。
僕は背中の大剣を両手で握り、自分の体躯の何倍もある巨体を剣身で受けた。
「こ、のッ!」
半端な体勢で受けたせいで、力を受け止めきれない!
ケルベロスの頭突きは容易く僕を突き飛ばした。
ステージの端まで転がる。叩き飛ばされた大剣はすぐ目の前に着地した。
「なんだ、もう終わりか」
「話になりませんな」
「やれやれ……」
「あれ? ラント=テイラーはあんな白髪の子だったか?」
お疲れ様ムードの会場。葉巻を咥えた女性だけが僕を訝し気に見ている。
目の前には、勝った気で吠えるケルベロス。
「はぁ、まったく、なんにもうまくいかない……!」
腹が立つ。
ムカつく。
どうして僕は、毎度毎度理不尽に晒されるのだろうか。神様は僕になにか恨みでもあるのだろうか。
脳天から流れる血の川が鼻の上を通っていく。
「両親には売られて、売られた先では死刑執行人をやらされて、恋人を斬り殺すはめになって……挙句の果てにはケルベロスの相手か。――ふざけるなよ、くそったれ……!」
あぁ、ほんっとに、イラついてきた……!
「オオオォン! オォォォォンッッ!!」
「おい」
重い声色で呟くと、ケルベロスが目を合わせてきた。
僕の瞳の奥になにを見たのかわからないが、ケルベロスは焦った様子で距離を取った。
「……調子に乗るなよ」
どうせ今日死ぬ予定だったから、このままやられてもいいやと思いもしたが、気が変わった。
「子犬風情が」
いいだろう。生涯最後の処刑だ。




