第三十七話 3つの紋章石
コバヤシ副校長に連れられ、ダーツ城の校長室の前に連れてこられた。
コバヤシ副校長は校長室の扉をノックする。
「アランロゴス校長。シャルル=アンリ・サンソンを連れてまいりました」
「入りなさい」と校長の返事が返ってくる。
コバヤシ副校長は扉を開け、僕に道を譲った。
僕は「失礼します」と言い、校長室へと足を入れる。
「やーやー! ご活躍だったね、シャルル君。コバヤシ副校長、君はもう下がりなさい」
校長の言葉にコバヤシ副校長は難色を示す。
「完全にパシリじゃないですか。オイラだって暇じゃないんですよ。この程度の任務、そこらのザコ教師に頼んでくださいよ」
「ハルマン副校長に気づかれず、シャルル君を連れてこれる人間は数えるほどしかいない。今度ラーメン奢るからサー、機嫌直してよ」
「へいへい。失礼します」
コバヤシ副校長は部屋を出る。これで部屋には僕とアランロゴス校長の2人だ。
「吾輩の用件はわかっているよネ?」
「はい……」
アランロゴス校長は手を組み、険しい表情をする。
「今回のガラドゥーンの件だ」
僕はなにを言われるよりも前に、頭を下げた。
「すみません。独断で動き、いらぬ被害を学園島にもたらしました」
僕がやったことは間違っている。
ガラドゥーンの正体に気づいた時点でハルマン副校長に連絡していれば多数の教師で囲み無血での決着が叶ったはずだ。魔獣を学園島に召喚させることもなく、他の人達に被害が出ることもなかった。
謹慎中なのに外に出たこともある。下手したら退学か……。
「顔を上げなさい」
アランロゴス校長のゆったりとした言葉を聞き、頭を上げる。
アランロゴス校長は白塗りの顔をニッコリと笑わせていた。
「確かに君が我々に協力を求めていたら被害は最小限に抑えられたであろう。君の選択は最善ではなかった、けれど最悪でもない。君という存在がこの島に居なかった場合の話をしよう。ガラドゥーンは遺跡エリアに入る直前で島中に魔獣を拡散、我々が魔獣に手を焼いている間に遺跡に侵入しケルヌンノスの遺体を探したであろう。君が居なくとも、ガラドゥーンが遺体を入手することを阻止することはできた。だが、君が居なければもう1時間は動乱終結まで時間を要したであろう」
僕を庇うわけではなく、アランロゴス校長は純然たる事実を述べている。
僕が居なくとも阻止はできたのか。それはそうか。ケルヌンノスの遺体をそう柔いセキュリティで守っているはずもない。
「1時間も魔獣が野放しになれば、死者も多数現れたはずだ」
「……今日、死者は出たのですか?」
「安心しなさい、死者は出なかった。負傷者は多数出たけどね。君がガラドゥーンを倒した時点で魔獣は全て消滅した。魔獣が現れてから、消えるまではたったの5分。これぐらいの時間なら非魔術師でも護身用の魔導具で逃げられる」
5分。ちょうど僕と奴の戦闘時間と同じだ。
ホッとした。もし死者が出てたら取り返しがつかなかった。
「君が居なければかなーり困った事態になっていた。最善でなくとも、君の功績は素晴らしいものだと言わざるを得ない。学園を代表して、礼を言いたい」
「そんな、褒められるようなことじゃありませんよ。僕は誰かを守るために戦ったわけじゃありません」
「今は感情抜きの話をしている。結果として、君は我々を救ってくれた。感謝しているよ、本当にね。謹慎を破った件も気にすることはない。報酬も用意させてもらったヨ」
アランロゴス校長は引き出しからなにやら豪奢で小さな箱を出した。ジュエリーケースだ。ケースは三つある。
「紋章石というものを知っているかな?」
「……生物に、魔導印を刻む石」
「そう。これを飲めば、君の体は紋章石に刻まれた魔術の魔導具となる」
不思議な魔力を感じる。
指がピクリと動いた。体が、あの石を求めている。気を抜いたら手を伸ばしてしまいそうだ。
「この三個の紋章石の内、一個を君に差し上げよう」
「……いいんですか? それだけの力を秘めた物なら、価値も相当高いですよね?」
「一個一億はするだろうネ」
「一、おく!?」
あまりの大金に声を上げてしまった。
つまり、僕の目の前にある紋章石の総額は――三億。
「吾輩の予測だと、君が居なかった場合の死者は100数名だ。彼らの命の価値と見れば、むしろ少ないぐらいだと思うけどね」
アランロゴス校長はケースを全て開ける。
右、赤色の宝石。
中央、白色の宝石。
左、青色の宝石。
どれも魔導印が刻まれている。
「赤の紋章石に刻まれている魔術は“静寂を愛する者”。詠唱封じの魔術だ。これを飲むと右か左、どちらかの瞳に紋章が刻まれ魔眼になる。“静寂を愛する者”の魔眼の視界に収めた相手は全て、声を発することができなくなる。難点は魔眼を開いている間、魔力が自動消費されるため日常生活では片方の瞳を塞いでいなくてはいけない。魔力消費も激しいから、戦闘時も決め時しか使えない」
詠唱封じ。
真っ当に強力だ。相手の詠唱、つまり魔術を封じれば肉弾戦に持ち込める。僕の土俵だ。
だが片目を封じて行動するのは嫌だな。死角は増えるし、遠近感が狂う。度重なる死刑の経験から、目の重要性は理解している。たとえ片目でも封じるのは嫌だな。
「白の紋章石に刻まれている魔術は“進軍せし者”。発動すると、一瞬だけ無敵になれる。これも魔力消費が多い。君なら使えて日に3度かな。たった一瞬とはいえ、発動している間はオーラを纏い全ての攻撃を弾く。カウンター魔術だネ」
無敵になれるとはいえ、たったの一瞬。使いどころを間違えれば無駄に魔力を消費する。安定して効果が見込める詠唱封じに比べるとピンキリな魔術に感じる。
「青の紋章石に刻まれている魔術は“指揮する者”。一定の条件を満たした対象と念話、つまりテレパシーができるようになる。単体ではあまり意味のない魔術だネ、連携重視の魔術だ。一度のテレパシーで消費する魔力は極小、他2つとは違って連発できる」
連携重視……悪くない魔術だけど、単体では効果がないという点が気になる。
いざという時は大抵一人だ。その時に頼りにならない能力は勘弁だ。
「さぁ、どれにする?」
敵にデメリットを与える赤。
自分にメリットを与える白。
味方にメリットを与える青。
この三択なら――
「白、“進軍せし者”の紋章石でお願いします」
「わかった」
アランロゴス校長はジュエリーケースを持って立ち上がり、手袋を付けた右手で僕の右手を掴み上げ、手のひらを上に向けさせてジュエリーケースを乗せた。
アランロゴス校長の手は手袋越しでもわかるぐらい冷たかった。
僕はジュエリーケースを握りしめる。
アランロゴス校長は机に戻った。
「死刑を殺す道、ケノス教徒を殲滅する道、どちらの道においても必ず役に立つ魔術だ。――おっと、もう1つの道を忘れていたね。その紋章石を売り、何億という金を手に入れ、死刑執行人としての君を知らないのどかな街で幸せに暮らすことも可能だ。明るい笑顔の婦人と恋仲になり、畑を買って作物を育てながら長くゆったりと人生を過ごす。きっと、君の大好きな人は……そう生きて欲しいんじゃないかな」
たしかに、アンリはきっと……。
「どう使うかは君次第だ。吾輩はどの道を選んでも応援するよ」
「……ありがたく、頂戴します」
「うむ。これで吾輩の用は終わりだ。君から話がないのなら、退出していいよ」
「はい。失礼しました」
アランロゴス校長はニッコリと笑う。
「おやすみ」
僕はジュエリーケースを持って校長室から出た。
“進軍せし者”は魔装、“静寂を愛する者”は魔眼、“指揮する者”は魔脳です。
ちなみにこの三択はポケモンの御三家選びから着想してます。皆様なら、どれにしますか? ちなみに僕はディリゲントです。




