第三十話 はじめての日曜日 その2
「着いたぞ~!!」
紅い杖や蒼い杖が店頭に並んでいる杖専門ショップ〈シュトック〉。
女性もの、男性もの、パジャマから戦闘服まで網羅した衣服店〈ハイネット〉。
飛竜やユニコーン用の鞍、使い魔用の衣服やらが売っている使い魔専門ショップ〈ハウスター〉。
色んなショップがあるな。
外観も華やかで、造りも様々だ。悪く言えば統一感がない。良く言えばバラエティに富んだ街並みだ。
人の数も凄く多い。生徒のみならず教師や商人も居る。
「うじゃうじゃと鬱陶しい……」
「いーじゃんいーじゃん! こういう賑やかなの好きだなぁ~」
ヒマリは人の多さに呆れ、ラントは楽しそうに目を輝かした。
「そんじゃ、早速シャルルの杖選んじまうか!」
杖専門ショップ〈シュトック〉に入り、並んでいる杖を見る。杖は“耐久性”、“コントロール”、“威力”の3点で評価されており、合計点が高いほど値段も高い。
「これなんかどうだ? 威力星5だ!」
「うーん……威力よりも、耐久性を重視したいかな。ヒマリ、おすすめはある?」
ヒマリは真剣な顔で杖を眺めていた。その眼差しは鑑定士顔負けの迫力だった。
「そうね。これなんてどうかしら」
ヒマリが手に取ったのは黒色の杖。名前は“ダルフネス”。
耐久性☆☆☆☆☆ コントロール☆☆ 威力☆☆☆
耐久性重視の杖のようだ。
「貴方たち貧乏人が手を出せる範囲ならこれが一番よ」
「うん。ギリギリ買える値段だ」
「お! いいじゃないか! その杖は私もおすすめだ」
ラントでも、ヒマリの声でもない。
休日には聞きたくない声が聞こえた。
「あれ? ハルマン副校長じゃないっすか」
ラントの声の行き先、レジカウンターの方からハルマン副校長が歩いてきた。
「おはよう諸君。こんなところで奇遇だね」
ハルマン副校長は僕の頭を掴み、唇を耳に寄せてくる。
「……その杖なら君の洗礼術にも、1発ぐらいなら耐えられる。買って損はないよ」
「……どうしてここに?」
「……それはほんっとに偶然」
小さな会話を終えると、ハルマン副校長はショップから出ていった。
「初めての休日、楽しみたまえ~」
毎日楽しそうだなあの人は。
しかし、あの人のおかげで気持ちは決まった。
ヒマリ&ハルマン副校長のおすすめなら、まず間違いないだろう。
「これにしよう」
ヒマリは僕に杖を手渡すと、今度は自分の杖を探し始めたのか、高級な杖を見に行った。僕じゃとても手を出せない値段の杖たちだ。でも値段に負けないぐらい性能も高い。チラッと目に入った杖は耐久性☆☆☆☆☆☆ コントロール☆☆☆☆☆ 威力☆☆☆☆☆☆☆という破格の性能だった。アレを見てしまうと自分の杖が弱く見えて購買欲が薄れる。僕は高額杖から目線を外し、レジに足を向けた。
気を取り直してダルフネスを買い上げる。マイステッキゲットだ。長い付き合いになるといいな。
「次は私の買い物に付き合ってもらうわよ」
それからヒマリの買い物に付き合った。衣服店だ。
「これとこれとこれ、あとアレもね」
ヒマリが買い上げた服は紙バッグに詰められ、僕とラントの元へ運ばれてくる。僕とラントの両手は紙バッグで埋まった。
「おい、コイツが俺達の誘いに乗ったのって」
「……荷物持ちをさせるためだね」
「これと、あのドレスもいいわね……」
学園でドレスなんて着るタイミングないだろう……。
「しゃ~るる~。お前の責任だぞ~」
「ほら、早く来なさい下民ズ。次の店行くわよ!」
「へいへい、女王様」
「ま、まだ行くの?」
街道を歩くと、
――『見ろよあの赤毛の子、すげぇ美人』
――『新入生かな。声かけるか?』
――『くっそぉ、後ろの男2人が邪魔だぜ』
ヒマリはとにかく視線を集めた。
ヒマリは外見だけなら非の打ち所がない。陽光を浴びて輝いて見える紅蓮の髪と白い肌、体は出るべきところは出ていてへこむべきところはへこんでいる。完璧すぎて、逆に近寄りがたい気もするのがヒマリという女性をよく表している。
男たちは『付き合いたい』という恋愛対象として、女たちは『ああなりたい』という憧れの対象として、ヒマリを見る。
ヒマリは顔にこそ出さないけど、誉め言葉が聞こえる度、足をスキップ気味に浮かせた。
「……ヒマリと10秒も話せばお近づきになりたいなんて思わないよな」とラントが耳打ちしてくる。
「……10秒は言いすぎだよ。30秒はもつ」と僕は返した。
――『ねぇ、あの白髪の子、ちょっと良くない?』
――『あ、私も思った。かっこいいよね~』
――『かっこいいより可愛いって感じでしょ』
おっと、ヒマリのおこぼれで僕も褒められた。
とりあえず、僕を褒めてくれた女性に笑顔を送ってみる。
「けっ! どいつもこいつもよ」
「あら、それって嫉妬? みっともないわよ」
「テメェは嫌味な奴だなマジで!」
「先に嫌味を言ったのはそっちでしょ!」
ヒマリ、さっきの僕とラントの会話聞こえてたのか。
「ふ、2人共……喧嘩はやめよう」
――『ねぇ、あの金髪の子、カッコいいわよね!』
――『きゃ~! ほんとね。声かけちゃおうかしら!』
ラントを褒める声が聞こえた。
「ほらラント! 君のことを褒めてる人も――」
声の方を見ると、筋肉が凄いことになってるお姉さん(♂)が居た。
「……俺のことは放っておいてくれ」
「……そうするね」




