第二十九話 はじめての日曜日 その1
激動の土曜日を越えて、今日は日曜日。
学生生活初の休日だ。
カーテン越しに朝陽を感じる。
僕は膝に布団をかぶせたまま、上半身をベッドから起こす。頭の中にはあのくすんだ緑眼がこびりついていた。
ミルク売りの男、ベレー帽の男、遺跡に侵入した魔術師の男、
奴らは全て同一人物だ。
奴が、学園島に居る。奴が――
「……馬鹿なことを考えるな」
学園島にどれだけの人間がいると思ってる?
1人1人、片っ端から調べることは不可能だ。
奇跡でも起きない限り、僕が例の魔術師に辿り着くことはない。
復讐なんて――考えてはダメだ。
僕はベッドに横たわり、布団をかけ直す。
「しゃ、っるる、くん! あっ、そっ、ぼっ!!!」
……。
なんだか、窓の先から野太い声に呼ばれた気がするが、気のせい気のせい。
「しゃ~~るる~~~くぅん!!! あっ、そっ、ぼっ!!!!!」
これ以上、惰眠を貪れば他の寮生から苦情が来そうだ。
脳を全力で起こし、カーテンを開けて窓の外を見る。ラントがこちらを見上げていた。制服を着ている。
窓を開き、引きつりつつも笑顔を作る。
「どうしたのラント? なにか用?」
「しゃーるる。もう傷大丈夫なんだろ? 商業エリアに遊びに行こうぜ~」
にっこり笑顔でラントは言う。
商業エリアか。まだちゃんと見たことはない。学園島に着いた時、軽く眺めた程度だ。
めんどくさい気持ちもあるが、気分転換にはちょうどいいか。一応、ラントは友人だからな。せっかくここまで来てくれたのに断るのは気が引ける。
付き合おう。
「わかった! いま行くよ!」
制服に着替え、支度を終える。
部屋を出て通路を歩き、階段を降りて一階の談話室に行く。
「よっ。おはようさん」
茶色い髪のお兄さん、寮長が居た。
寮長の他にも寮生が6人居る。アフロン先輩とリゼット先輩はトランプで遊んでいる。
「外に居るのは友達か?」
寮長が聞いてくる。
「はい」
「聞こえたぜ、商業エリアに行くんだろ? 楽しんでこい。くれぐれも、遅くならないようにな」
「わかりました。行ってきます!」
談話室から外へ出る。
「お待たせ」
「おう」
ラントと一緒に坂を下っていく。
「商業エリアに行くって言ってたけど、なにか目的はあるの?」
「杖を買おうぜ、お前のな」
「僕の?」
「だってお前、自分の杖持ってないだろ? 授業の時も遺跡に入った時も手ぶらだったし」
「杖って必須な物?」
「持ってない奴も居るには居るけど、よっぽどのこだわりが無い限り持っておいた方がいいだろ」
「そっか。ねぇラント、もう1人誘いたい相手が居るんだけど……」
僕が誘いたい相手の名前を言うと、ラントは露骨に嫌な顔をした。
◆
「「ひっ、まり、ちゃん! あっ、そっ、ぼっ!!」」
声を重ねて叫ぶ。
僕達は四階建ての豪華な外装の寮の前に居た。まさに貴族のための寮って感じだ。
第21寮。まだ新しい。
ここには彼女、ヒマリ=ランファーが住んでいるらしい(ラント情報)。
寮の入り口扉を開け、ヒマリが現れた。髪はボサボサで、慌てて来たのがわかる。
「ようヒマリ、商業エリアに行こうぜ。シャルルの杖を選ぶんだ」
「どうして私が、下民の買い物に付き合わなきゃいけないの?」
「「言うと思った」」
ヒマリは僕に一度視線を送った後、頷いた。
「まぁいいわ、行ってあげる。その代わり、私の買い物にも付き合ってもらうわよ。いま、すぐに準備してくるわ。待ってなさい」
すぐに。と言うには長い45分という時間をかけて、制服を着てヒマリはやってきた。
「ここから商業エリアまでは時間がかかるわね」
「だったらさ――」
「ドラタクは使わねぇぞ! 絶対!」
空から落とされたのが余程トラウマになっているようだ。
「馬車を使うわよ」
「今時馬車ぁ?」
「馬車は馬車でもユニコーンの馬車よ。魔導車より速度が出るわ」
「ユニコーンかぁ……いいね。面白そう」
ユニコーンタクシー、略してユニタクにて商業エリアに向かう。
ユニタクはヒマリの言う通り速く、数秒おきに石かなにかに躓いて跳ね上がった。
「うわ! これ、転倒したりしないよね?」
「うひょー! すっげぇスピード!!」
「ちょ、ちょっと速すぎないかしら……きゃっ!?」
ラントはテンションを上げて、ヒマリはあまりの速度に戸惑っていた。




