第二十三話 禁断の地
「遺跡! 大遺跡だ! 探検しようぜ探検っ!」
「ふざけないで」
ヒマリがラントの言葉を一刀両断する。
「どういう理由で立ち入り禁止かは知らないけど、ここに入ったことが学校側にバレたら面倒よ。引き返すわ」
「でもよ、でもよ! ここになら、森にはなかった珍しい素材ってやつもあるんじゃないのか?」
「それは……」
「トップ狙うならよ、行くしかないべ!」
少年心全開のラント。
成績のために、遺跡を探検するのはアリと考えるヒマリ。
そして僕は――
「僕は反対だよ」
ここで妙なリスクを負うのはご免だ。
ここは僕が説得して2人を連れ戻す。
「みんなのところへ戻ろう。授業終わりまで時間がない。秘薬を作成するのにも時間はかかるでしょ? 素材はいっぱい集まってるし、帰り際に珍しい素材が見つかる可能性もある。なによりここは危険――」
隣を見ると、ヒマリとラントの姿はもう無かった。
彼らはすでに、目の前の巨大遺跡の入り口に足を踏み入れていた。
「おーい! 早く来いよ~!」
「しっ! 大声出さないで!」
「まったく……」
仕方ないな……。
◆
遺跡の中は迷路のようだった。
一定距離ごとにたいまつの火があるものの、薄暗い。10メートル先は見えない。通路の幅は縦にも横にも広く、分かれ道は多岐にわたる。道はきちんとヒマリが覚えているので、戻る際に迷うことはないだろう。
「あった!」
ヒマリは通路の途中で、端っこに生える紫の花を見つけて近寄り、切り取った。
「“シュラーフブルーム”。眠気を誘う花よ。これがあればドラゴンすら昏倒させる秘薬を作れるわ」
つまりは睡眠薬か。
「お、お前、そんな恐ろしいモン作ろうとしてたのか……」
ドラゴンが昏倒する睡眠薬。それ、人が飲んだら死ぬのでは?
「目的を達成したなら引き上げよう」
「そうね」
「ちぇー、俺はもうちょっと進みたかったけどな」
通路を引き返そうとした時、
「君たち! そこでなにをしている!!」
正面から人影が歩いてきた。
男性の教師だ。手に杖を持って、僕達に向けてきている。
「やっべ……!?」
「これはもう、どうしようもないね……」
諦める僕とラント。
ヒマリは凛とした面持ちで、男性教師の前に出る。
「すみません。自然エリアからここへ迷い込んでしまって。誰か居ないか探していたところなのです」
「む? それは本当か?」
「はい。いつの間にかここへ出ていて……」
ズシン。ズシン。と大きな音が聞こえる。
なんだろう? この音。近づいてきているような。
「そうか。自然エリアから遺跡エリアにかけてはわかりやすい仕切りがないからな。他のエリア間と違って橋が架かってるわけでもないし、結界も故障中だ……君たちは一学年か。わかった。そういうことなら大目に見よう。速やかに出ていきなさい――」
巨大な拳が目の前を通った。
教師の体が吹き飛び、壁に打ち付けられた。
「にひっ」
6本の腕を持った人型の巨大モンスターが、現れた。
黒色の目、苔だらけの汚い体。
ギョロリと1つしかない巨眼が見下ろしてきた。
「きょ、巨人!?」
ラントの声が迷路に響く。
巨人、トロール。それも多腕のトロールだ。
「そんな、どうして……」
ヒマリは後ずさりながら、トロールではなく吹き飛んだ教師を見た。
壁に叩きつけられ、地面に落ちた教師は力無く横たわっている。
素人なら気を失っているだけに見えるかもしれない。
けど、僕にはハッキリとわかる。
落ち切らない瞼、拍動しない体、
――何度も見てきた、死人の顔色……!!
「逃げろォ!!!」
本気の声で、僕は叫んだ。




