第二十二話 自然エリア
翌日。
ベッドから体を起こし、支度をして寮から出る。空を見上げると飛竜がポチポチと見えた。ドラタクか、もしくは飛竜で登校している生徒だろう。
ポカポカの通学路。自然と欠伸が出てしまう。
今日は土曜日、午前中で授業は終わり。気楽だな。
不安があるとすれば今日のクラス学習だ。ハルマン副校長が突飛なことを言いださなきゃいいけど……。
「皆の衆! 遠足に行くぞー!!」
一時間目 クラス学習。
いつも通り葉巻を咥えて、上機嫌にハルマン副校長は腕を振り上げた。
モニカだけが気を使って「おー!」と拳を上げた。
「遠足って、えっと、どこへ?」
なにから聞くか迷って、そんな普通な質問を投げかけたヒマリであった。
「この学園には5つのエリアがある。学園エリア。商業エリア。居住地エリア。自然エリア。遺跡エリア。今日はその中の1つ、自然エリアに行く。自然エリアには秘薬の元となる薬草だったり動物だったりが多く存在する。君たちにはそれらを集めて、秘薬を作ってもらう。秘薬の出来でスコアを付け、成績に加算するというわけだ」
また僕には難しそうな授業だな……。
というか遠足とか言って、学園内から出ないじゃないか。
「……ラント、秘薬ってなに?」
「……魔術師に伝わる秘伝の薬のことだよ。お前、なんにも知らねぇのな」
表面上は秘薬学の勉強で、本命は自然エリアの見学だろうな。
「3人1組のグループを作ってくれ。自然エリアに着いたあとはそのグループで動き、グループ単位で秘薬を提出してもらう」
よし、好都合。
そうと決まれば秘薬学に詳しそうな人間と組もう。
「とりま、俺とお前は決定だよな」
「そ、そうだね……」
ラントか。秘薬学に詳しいとは到底思えないが、断れる空気でもない。
最後の1人に賭けるしかないな。
誰がいいか。個人的にはモニカかギャネット辺りがやりやすいが、どっちも人気者でもう取られている。
視界の隅にヒマリを発見。
ヒマリはチラチラとこっちに視線を送っている。
「ごほん」
咳払いまでしてきた。
そこまでするなら声をかけてくればいいだろとも思うが、自分から他人を誘うなんてヒマリのプライドが許さないのだろう。『どうして優秀な私を誰も誘わないのよ!』……と思っているに違いない。
「え~っと、ヒマリ。もしよかったら組まない?」
「ふんっ。別にいいわよ。足引っ張らないでね」
今日もヒマリは平常運転だ。
「グループが出来たらリーダーを決めてくれ。リーダーは採取用のナイフとカゴを取りに来るように」
なにも相談なく、ヒマリは採取用の装備一式を受け取った。当然と言わんばかりに彼女はリーダーになった。別にいいがな。でも1言ぐらいなにか言ってほしいものだ。
僕達は学園エリアを出て、大橋を越え、自然エリアに入った。
◆
自然エリアは本当に自然しかない。
森ばっかりだ。背の高い山もある。あの山のてっぺんからは学園が一望できるらしい。
見たことの無い植物が多くある。人間を飲み込みそうな食虫植物や、トランポリンのように跳ねられるキノコなどなど多種多様である。ラントは珍しい植物を発見する度遊びだすが、その都度ヒマリに注意されていた。
背負いカゴにヒマリが指示する植物を入れていく。ヒマリはもう作るべき秘薬を決めてある様子だ。ヒマリに任せておけば問題なく課題クリアできるだろう。
「な~、もうそろそろよくね? さっきからなに探してるんだよ」
「今ある材料じゃ平凡な秘薬しかできないわ。もっと珍しい物が欲しい」
「十分じゃないかな。そこまで凝った物作らなくても大丈夫だと思うけど」
「二流の発想ね。やるからにはトップを目指すわ。私と組んだからには妥協は許さないわよ」
ヒマリに付き合い、先へ先へと進んでいく。
すると、段々と森は無くなってきて、代わりに妙な建築物が見えるようになってきた。
「なに、ここ?」
土埃が舞う大地。
そこにあるのは古びた宮殿や広く平らな建築物。
人間が作った物であるのは確かだが、遥か昔に捨てたられたとわかる建物ばかりだ。
過去の人々が作り上げた建築物がまとまって存在し、それが時を越えて神秘的なオーラを纏った古代の痕跡。
人はそれを――遺跡と呼ぶ。
「おい、ここってまさか、立ち入り禁止の――」
「遺跡エリア……ね」
僕らはいつの間にか、踏み入れてはならぬ場所に居た。




