第二十話 奇跡
ど、どうなるんだ?
杖の性質は“射出・付与”。
剣の性質は“斬撃”。
ならば風船はなんだ?
駄目だ。さっぱりわからない。
ラントに『教えてくれ』と目配せをする。
『わからない』というアイコンタクトが返ってきた。
ヒマリに至ってはこっちを見てすらない。
こうなれば適当に言うしかないか……と思ったところで、口を健気にパクパクさせる少女が目に入った。
モニカだ。
小さい口を開いたり、閉じたりしている。
なんと言ってるんだ? 2文字というのはわかるが……。
“お”、“ん”?
「……ぼ、む」
小さく聞こえた声。
それで僕は答えを察した。
……ボムか!
「爆弾になります」
「……正解だ。【フレーミー】」
ガラドゥーンは風船に魔導印を刻み、風船を空に飛ばした。
さっき“フレーミー”を刻んだ杖を振って、風船に火の球を当てた。風船は破裂。爆発音が鳴り、風船から爆炎が散った。
「風船の性質は“炸裂”。破裂した際に、刻まれた魔術を高威力で発散させる。トラップなどによく使うものだ」
ただの風船が詠唱1つで凶器に早変わりだな……。
同じ火炎魔術でも、宿す対象が杖か剣か風船かでここまで効果が変わるんだな。
「モニカ=シルディス」
「は、はい!」
「甘さは弱さ、優しさは強さだ。この違いをよく考えておくように」
「はい……」
モニカが助け舟を出したのを、ガラドゥーンは見逃さなかった。
ごめん、と手振りすると、大丈夫、とモニカは言ってくれた。
「では、“フレーミー”の実習に入りたまえ」
支給された木造りの杖。
こう杖を握ると、いよいよ魔術師という感じだな。
「【フレーミー】」
唱え、魔導印を刻む。
杖を振ると、ぷしゅーと腑抜けた音がなり、黒い煙が杖の先から出た。
うん、失敗したようだ。
「センスねぇな」
「そういうラントはできるの?」
「もちろんだ。【フレーミー】!」
ラントが杖を振ると、ぱしゃーと腑抜けた音が鳴り、火花が小さく散った。
失敗だな。
「【フレーミー】」
一方注目を集めるはヒマリの“フレーミー”だ。
杖の先から射出された炎の球は人間の頭ぐらい大きく、数十メートル先の的を焼きぬいた。
「さすがはランファー家のお嬢様。別格だな」
「そうだね……」
あんなの当たったらひとたまりもない。
僕も負けじと“フレーミー”を実践するも、結果は実らず。
5回振ると魔導印は光を失い消え去った。
良い機会だ。ついでにアレを、
「試してみるか……」
武器によって術の発動形が変わるのなら、洗礼術も大剣に使うのと杖に使うのでは発動形が変わるはず。洗礼術は邪悪なる存在以外には効かない。暴発しても問題はない。
「……【テロスバプティスマ】」
バゴッ!
杖は根元から焼き切れ、弾けとんだ。
「おいおいシャルル、そりゃないべ」
ラントが笑いかけてくる。
僕の杖の先に居たガラドゥーン先生が近づいてきて、僕から杖を取り上げ、三度杖を見た後、「ふむ」と顎を撫でた。
「やはり君は、レベルが違いすぎるらしい」
ガラドゥーンは微笑む。
「……すみません」
ガラドゥーン先生は杖を没収し、僕に背中を向けた。
「あそこまで言わなくてもいいじゃん。なぁ、シャルル」
「別にいいよ。本当のことだし」
どうして上手くいかなかったのだろう。大剣と杖で同じ詠唱じゃダメなのか? 後でハルマン副校長にでも聞いてみるか。
クラスの半数も火炎を出せないまま、二時間目は終わった。




