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首斬り特待生  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 ようこそ学園島へ

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第十話 学園島〈ユンフェルノダーツ〉

 学園島に向かって伸びた線路を列車はなぞる。

 学園島、地上の駅に到着。


「お前、荷物それだけか?」


 布に包まれた絵画を見て、ラントは言う。


「うん。これだけ」

「ちょ、挑戦的だな……着替えとか全部現地調達かよ……」


「はい、新入生の皆さん。こちらに集まってください!」


 列車から降りた学生たちの前に立つは鼠を頭に乗せた女性教員。

 フワフワのパーマ気味の髪質、ニコニコ笑顔、仕草1つ1つが穏やかな教師だ。どこかで見たことがあると思ったら、入学試験の試験会場で門番をやっていた教員である。


「私はユンファ。入学式の会場までは私が案内します。3列に並んでね~あ! 君!」


 目を合わせた途端、ユンファ先生は駆け寄って来た。


「君、熱で倒れた子でしょ! 君を医務室まで運んだの私なんだけど、覚えてるかな?」

「はい。その節はどうも」


 ユンファ先生は耳元に唇を近づけ、僕以外の誰にも聞こえないように声を出す。


「君の素性は知ってるよ。執行人君」

「そのことは……」

「わかってるよ。ハルマン副校長が生徒には言わないよう口止めしてるから」


 『生徒には』、ということは教師には僕の素性は隠されていないということか。


「あの人に気に入られるなんて不幸だね」


 今度は声を抑えずにユンファ先生は言う。


「ハルマン副校長は暴君だよ~。生徒を玩具扱いするからね。私も元々あの人の生徒だったんだけど、それはもう酷い扱いでね……教師になった後もパシリにされるし……」


 ユンファ先生の顔から笑みが消えていく。

 わかってはいたが、やっぱりロクな教師じゃないんだな、あの人は。


「せんせー! 出発準備OKです!」


 ラントが言うと、ユンファ先生は新入生をけん引し、歩き始めた。


「じゃあ出発するよ!」


 駅から出ると、レンガで構築された街が視界を支配した。


 美しい街並みだ。そこらに生徒が歩いている。

 気になるのは生徒が着ている制服の柄だ。


「なんか、服にまとまりがありませんね」


 制服の柄はかなりばらつきがある。


 青い龍が背に描かれた制服。袖口が広く、丈がひざ下まである上着を腰の部分で紐を用いて留める……あの衣服の名前は法被だったか。


 朱色の鳥が背に描かれた制服はパーツが他より多い。白い手袋にボタンの多い長袖の上着に長ズボン。軍帽のような帽子もある。紳士的な制服だ。


「ウチはクラスごとに制服のデザインが変わるんだよ」とユンファ先生が教えてくれた。


 一見してどのクラスに所属する生徒かわかるわけか。

 だけど、クラスごとに制服を変えるなんて高くつきそうなものだが、超名門校である〈ユンフェルノダーツ〉には関係ないか。


 魔術の訓練をしているのか、ホウキに乗って浮き沈みしている生徒が見えた。他にも飛竜を飼育している生徒が居たり、他の生徒を石化させたり直したりして遊んでいる生徒が居たり、それらの生徒を見守る教師が居たりと、楽しそうな空気だ。


「ここはクラブ活動用の施設が多いね。気になるクラブがあったら頭に入れておくといいよ」


 そのクラブのエリアを抜けると、大橋が行く先に現れた。


「この大橋(だいきょう)を渡ると本校舎まですぐです」


 石造りの大橋。下は海峡だ。

 大橋の上から景色を楽しみ、大橋を渡ると目の前にとんでもない建物がきた。


「着きました。ここが学園エリアの中心です。本校舎、又の名を〈ダーツ(じょう)〉」


 さすがに、もう驚きはしないと思っていたが、驚きだ。


 城だ。

 それも受験会場よりも遥かに巨大な城だ。

 要塞と言った方がいいかもしれない。城壁もあれば門もある。見間違いかと思ったが大砲もあるぞ。戦闘力高そうだ。


「まず制服を配布します。名前を呼ばれた方から取りに来てください。制服を受け取ったらロッカールームに移動して荷物を置き、制服に着替えてください。着替えが終わり次第、3階のダンスホールに集合するように」


 名前を呼ばれ、紙バッグに入った制服を受け取る。

 次にロッカールーム。

 そこに荷物を置き、制服に着替える。


 白のワイシャツを着て、黒の長ズボンを履き、ひざ下まである白ローブを羽織る。ローブの背中には虎の絵が描かれている。


「うおーっ、かっけぇな! やっぱし、魔術師つったらローブだよなぁ……!」


 僕は制服を着た後、周囲を見渡す。

 服装がバラバラだ。

 僕とラントは同じだし、他にも同じ制服の人間もいるが、大抵はコンセプトからしてバラバラな服の人間ばかりである。


「なんだこりゃ。俺とお前以外、制服バラバラだな……」

「さっきユンファ先生に聞いたけど、クラスごとに制服が違うらしいよ」

「へぇー。ん? じゃあ俺とお前は同じクラスってことじゃねぇか! 運いいな!」

「そうだね」

「背中の模様まで違うな。俺とシャルルは白い虎なのに、他の奴は鳥だったり龍だったり尻尾が蛇の亀? いろいろだな。制服の種類ごとに模様は統一されてるみたいだけど」



 ◆



 着替えが終わった生徒たちは〈ダーツ城〉3階のダンスホールに集められた。

 1000人ぐらい平気で踊れそうな広さだ。床には高そうなマットが敷いてある。


 ぞろぞろと人が集まってくる。どれだけいるんだこれ……500人以上いるかもしれない。


「うへ~すげぇな。黒魔術師コースだけでこんなに居るのかよ」

「その言い方だと、黒魔術師コース以外にもコースがあるように聞こえるけど……」

「え、知らねぇのお前。他にも魔術に関係したコースが19もあるんだぜ、ここにはよ。他のコースはまた別日に入学式をやるらしいぞ」


 20あるコースの内、1コースの1学年でこの人数。

 〈ユンフェルノダーツ〉は6学年まであるから、1コース1学年が500人だと仮定して、500×20×6で……約6万人!? 信じられないな……。


「はいはい適当に並んで~! 校長先生の挨拶が始まるよ~」


 生徒は教師に整列を命じられ、適当に並んで立つ。

 教師は横一列で生徒の前に並んだ。教師の中には見覚えのある顔もちらほらいる。


 試験でケルベロスを使役していた男、ガラドゥーン先生。

 鼠を頭に乗せて、ニコニコと笑っているユンファ先生。

 列車でぶつかったあのグリーンヘアーの男、アントワーヌも居る。

 ハルマン副校長の姿は見えない。

 場が静まったところでピエロのような化粧を(ほどこ)した男が教師の列から出た。


吾輩(わがはい)が〈ユンフェルノダーツ〉校長のアランロゴスであル!」


 あれが、校長? 聞き間違いだと信じたい。


「……あんなピエロみたいなのが校長なのかよ。大丈夫か? この学校」


 僕と同じ心配をラントもしていたようだ。


「ごきげんよう、新入生諸君。みんな、吾輩の外見について気になっている事だろう。なぜ吾輩がピエロのような化粧をしているか! それを説明するにはまず吾輩の今日の朝食について――」

「……校長、話は簡潔にお願いします」


 キセルを咥えた教師が突っ込む。


「校長先生の話は無駄に長いのが常識デショ? まぁいっカ。メインイベントはこれじゃ無いしネ」


 校長先生はさっきまでとは打って変わり、真剣な表情をする。


「我が学園島には古今東西あらゆるモノが存在する! 動物と会話ができるようになれる翻訳の秘薬! 1億年前の出来事から今に至るまで、この世で起こった全てを記した歴史書を保有する万史(ばんし)図書館! 霜降り牛なんぞより遥かに美味な金毛牛も居るし、際限なくカボチャジュース沸き立つ泉なんかもある! 教員は世界トップレベルの者を揃えており、素晴らしい魔術の数々を教えてくれる。本校では全ての夢を叶えられる備えがある!!」


 校長の言葉を受け、顔を引き締める者、逆に綻ばせる者、様々だ。僕は……前者だ。

 それだけのモノが揃っているのなら、生徒にも相応のリターンを期待されているはず。


「本学園を卒業して夢を叶えられなかったらそれはもう才能もしくは努力不足であル! わかるかい? 環境のせいにはできないというわけダ! 言い訳は一切できない! 望む未来を掴むために、青臭く足掻け若人(わこうど)よ。我らも相応の試練を与えよう!! ……以上ダ♪」


 生徒の顔つきが変わった。

 どこか浮ついた心を、きっちりと地に足つける、言葉だった。アランロゴス校長は列に戻っていく。


「……」


 アランロゴス校長は列に戻る直前、こちらを一瞥した。僕を見たような気がするのは自意識過剰だろうか。


 入学式は挨拶から業務連絡に移行する。


「諸君のクラス分けはすでに終わっている。各クラスで集まってくれ」


 さっきアランロゴスにツッコミを入れたキセルを咥えた教師が指示を出す。


「クラスは制服の背中に描いてある模様を見て貰えればわかる。

 青色の龍の模様の生徒は“青龍(セイリュウ)組”、

 赤色の翼を広げた鳥の模様の生徒は“朱雀(スザク)組”、

 白色の虎の模様の生徒は“白虎(ビャッコ)組”――」


 僕とラントは“白虎(ビャッコ)組”か。


 それぞれ、同じ模様の生徒で集まる。

 集まった白虎の模様を持つ生徒は、合計で18人だった。他の組に比べると少ない。他は30人以上50人未満ぐらいの人口だ。


「集まったな。そんじゃ、これよりレクリエーションの説明を始める」


 レクリエーションと聞き、生徒たちの間でひそひそ話が飛び交った。


「レクリエーション、遊びってこと?」

「へぇ~! クラスメイトと仲良くなるために、ってやつでしょ?」

「おもしろそー!」

「えぇ~? ちょっとめんどくない?」


 レクリエーション、ね。

 生徒の様子を見るに告知なしのレクリエーションだ。嫌な予感がする。


「やることは簡単だ。これより8時間、17時までに自分の所属するクラスの専用校舎を見つけてくれ。本校ではクラスごとに校舎があるからな」


 なんという、大盤振る舞い。

 もう驚かなくなってきた。


「お前らの校舎は透明化の魔術によって隠されている。普通に歩きまわって探すのは不可能だ。校舎の位置を示すヒントは、オイラたちの後ろに用意された宝箱の中にある」


 キセル教師の後ろ、そこにはクラスの数と同じだけの宝箱がある。


「魔術の使用は許可する。ヒントと魔術を頼りにクラス校舎を探せ。――あ、そうそう。17時までにクラス校舎を見つけられなかったクラスは即刻全員退学だ。そんじゃ皆様、楽しんでくださいませ――」


 『あ、そうそう』の後の一文を聞いて、生徒たちは顔色を変えた。


「スタートだ」


 説明が終わるのと同じタイミングで、キセル教師は指を鳴らした。

 ダンスホール内に白煙が吹き荒れる。

 白煙が消える頃にはもう教師たちの姿は無かった。

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