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幼馴染が夢の中で姫で勇者だった

作者: らりるら


「えっ、お前、バレー部辞めたの?」


前の席にいた翔太(しょうた)は、イチゴミルクのパック片手に口を開いた。


「まぁな。このまま続けてても、レギュラーになれそうじゃ無かったし。試合に出ても大して上にもいけないし。受験のこと考えると、そろそろ見切りの付け所かなって」


「へぇ、俺からすると余裕で上手いのにな。ていうか、お前がダメなら岩崎なんてどうなるんだよ」


翔太は、半笑いで教室の左端にいる生徒を指す。その子は何やらトレーニング本らしきものを熱心に覗いている。


「アイツ、バレー以前に運動自体出来ないからな。確か先輩からも役立たず過ぎて煙たがられてるんだろ?その癖、バレーの授業中、無茶なボールにもやたらと突っ込んだりするし。この前それで全身擦りむいてて、流石の女子もドン引きしてたわ。頑張ってる姿見せたいんだろうけど逆に痛々しいっつーか。部活だって続けたところで万年ベンチだろうによ。その点自分を客観視して早めに見切りつけたお前は賢いのかもな」


「まぁ、岩崎にも考えがあるんだろ」


「うわぁ、テキトー」


大して話題に興味もなさそうな俺に、翔平は目を細めて呟く。



「春乃、今日の髪型めっちゃ似合ってるっ!」


「ホントだ。女優みたいっ!」



その時、女子たちの騒がしい声が聞こえた。

髪の毛を染めた化粧濃いめのキャピキャピとしたグループ。


その中心に彼女はいた。赤みがかった茶髪から見える雪のように白い肌。取り巻きが可哀想になる程の小さな頭。おまけに、同じ生き物なのか考えさせられるほどスラリとした細い足。


そんなテレビの中から飛び出してきたような少女は、太陽のように今日も皆んなの前で笑っている。


「春乃は、今日も絶賛輝き中だな」


それを見ていた翔太が呟く。


「だな」


「俺、春乃のこと好きかも」


「なんのカミングアウト?」


「告っていけると思う?」


「やって見たら?」


「やだよ。振られたくないし」


「賢明だな」


自虐気味に笑う彼に俺はそう告げた。


その時、俺と少女の目があった。

すると、向こうからニッコリと手を振ってきた。

俺は静かに手を振りかえす。


その一連の光景を、翔平は羨ましそうに見ていた。


「その点お前はいいよなぁ。ザ・凡人みたいなスペックでも、運が良ければあんな可愛い幼馴染が出来るんだもんな」


皮肉まじりに彼は言った。


そう、俺には異性の幼馴染がいる。夏目 春乃(なつめ はるの)。夏なのか春なのか、ただ明るそうな名前を持つ彼女との出会いは小学生の頃にまで遡る。当時、春乃は、クラスでは浮いた存在だった。というのも、あの時のアイツは病弱で、学校より病院での生活の方が長かったからだ。


ある日、先生から彼女に宿題を渡すように頼まれた。普段は先生が渡しに行っているらしいがその日はどうしても外せない用事があったらしい。どうして俺が?とはあまり疑問に思わなかった。その病院から俺が一番近いっってこともあったが、それ以上に当時の俺はクラスで中心的な存在だった。理由は忘れた。多分、足が速かったとか、当時流行りのカードゲームが強かったとか、今ではどうでも良いものだったと思う。ただその時の俺は自分自身の可能性と自信に満ち溢れていた。


初対面の彼女の印象は何ていうか、幽霊みたいっだった。服装は白かったし。肌も白い、無駄な肉は無く全体的に生気自体が無いようだった。


初めまして。クラスメイト宝田 蓮(たからだ れん)です。今日は先生の代わりに宿題持って来た、そう尋ねるも、彼女は口元をシーツで隠して身体を竦めていた。


よくわからない奴だ、まぁ、当分学校には来ないだろうし今後関わることは無いだろう、そう思って、”じゃあ、この机の上に置いとくから”と言い残し立ち去ろうとした。


その時、彼女のベットの足元に付けられた小さな机には、スペースの半分を埋め尽くす程のスケッチブックが置かれてあった。


ー何これ?


俺は宿題といれかえてそれを手に取る。


「あっ、それはっ!?」


初めて彼女は声を挙げた。しかし、それよりも早く俺はページを捲っていた。


「…え?」


思わず声が詰まったのを覚えている。そこには、病院の窓から見えるものと瓜二つの景色が描かれていた。いや、それ以上だった。目で見るより鮮やかに彩られた空と建物は、本物以上に本物を見ているかのようだった。


他のページには、アニメで見たことのあるキャラクターなども描かれていた。その全ては静止画なのに今にも動き出しそうな躍動感があった。


「これお前が書いたのか?」


興奮冷めやらぬうちに俺は尋ねた。しかし、彼女は口まで隠していたシーツを全身まで被っていた。


これでは幽霊では無く、お化けだ。


すると、皺の寄った小さな隙間から声が聞こえる。


「…うん」


「まじかっ!」


「…笑わないの?」


「いやいや、笑う要素無いってっ!寧ろ、感動。ていうか、プロじゃん」


「なぁ、俺リクエストして良い?」


「…リクエスト?」


「そそ。今度俺の好きなキャラクター描いてよ。それ学校の友達に自慢するから」


「それは、ちょっと…」


少女は言葉を濁す。恥ずかしがっているのだろうか。勿体ない。


俺は何か彼女のやる気を沸かせようと頭を回らした。

その時、窓越しの本棚に沢山の漫画が敷き詰められていることに気づいた。


「お前、漫画好きなのか」


俺の問いに彼女はビクッと肩を振るわせた。その後少しの間黙っていたが、勘弁したのか静かに首を縦に振った。


ニヤリと頬が釣り上がる。そして、彼女との距離を一気に詰めた。


「なら、俺が面白い漫画たくさん紹介してやるよ。俺の兄ちゃん、たくさん買ってくるからさ。その代わり俺の為に絵を描いてよ。これで俺もお前も楽しめる」


今思うと、何て傲慢な奴だったんだと恥ずかしく思う。今同じことをやったら、間違いなくドン引きされる自信がある。


しかし、それで通ってしまうのが子供というものだったのだろう。俺は自ら先生に頼み病院に宿題を届けにいくようになり(ついでに漫画も),その際に、互いの色々なことを話すようになった。


まさかその関係が小学校の間ずっと続くとは、当時は思っても見なかっただろう。


小六の時に大きな手術を乗り越えた彼女は、中学から普通の学生として過ごせるようになった。俺たちの関係に変化が生じ始めたとしたら、この時だ。


初めて気づいたが、春乃は周りの同年代よりも遥かに美人だった。頭は周りよりも一段と小さく、手足は触れれば折れてしまいそうなほど細かった。まつ毛はシャーペンが乗りそうな程長く、それぞれのパーツが精密に作り込まれた人形のように整っている。


そんな姿の癖に、春乃は明るい性格だった。というより、俺が熱血少年漫画ばかりを勧めまくっているうちに、自然とそうなっていた。


傍若無人で、自由人。それでいて、誰とでも壁を作らず、誰にだって優しい。おまけに、絵以外のことも大抵はなんでも出来てしまう。


可憐さと華麗さを兼ね揃えた彼女が学校のマドンナと呼ばれるようになるのは至極必然的なものだったのだろう。


対する俺は、どうやら早熟タイプだったようで運動も勉強も大抵のことは並に落ち着いていた。


過去の栄光とはよく言ったもので、クラスのカースト中位と上位を行ったり来たりするのが関の山であった。


同じ高校に進学しても、お互いの立ち位置は変わらなかった。


客観的に見ても、彼女の眩しさに、到底今の俺は釣り合っていなかった。


そんな俺が彼女の初めての友人になれたのは実はとてつもない幸運だったのではないか、なんて実感の湧かないことまで最近では考えるようになっている。


ーだから、俺は


「蓮、今日この後暇?」


放課後、校門で待っていた春乃が訪ねてくる。


「まぁ、用事ないけど」


「じゃあ、久しぶりに一緒に帰ろうよ」


こうして、俺は春乃と二人きりの校をした。久しぶりのはずなのに、つい昨日も同じようにしていた気がする。そして、気まずくなることなく自然と話す言葉が湧き上がる。


「絵の方は順調なのか」


「うーん、取り敢えず、前テキトーに描いたのは何処かの有名な場所で飾られるみたいだけどあまり分かんない」


「テキトーにやってそれって、流石才能がある奴は違うな」


「何それ嫌味ー?言っとくけど、私が目指してるのは画家じゃなく漫画家。確かに画力は重要だけど、それだけで売れるほど甘くないんだから」


「へいへい、そんで、描くならどんな話を描くんだ」


「なんだろ。ちゃんと考えたことないけど、勇者が魔王と倒す話とか」


「それ、女子が描く作品なのか」


「別に良いじゃんっ!私小学生の夢は世界を救う勇者になることだったし」


「間違いなく、俺が貸した漫画の影響だな」


「だから、せめて、物語の主人公ちゃんには夢を叶えてもらいたいわけですよ」


「ちゃん、ってことは女の子?」


「もち。ばりばり自己投影」


「欲望丸出しの作品は読んでて痛々しいぞ」


「そうならないようにするのも作家の技術なのですよ」


昔ながらの大して中身のないやり取りを繰り返す。だけど、俺はこの時間が好きだった。昔ほど一緒にいる時間が減ったとしても、俺はこうして春乃の側に居る。世間の立ち位置が変わろうとも、俺と彼女の距離は昔から少しも変わっていない。


そうこの瞬間まではーー


「そう言えばさ。私、上条先輩に来週屋上に呼び出された」


さり気なく放たれた言葉に、一瞬、脚が止まった。その苗字には俺も聞き覚えがある。


「...上条って」


「そそ。サッカー部のエース、超イケメン」


それを聞いて、身体が不自然に緊張しだす。


「へぇ...サッカーボールでも借りたのか」


「ふっ、なにそれ。蓮って天然なボケかますキャラだっけ?普通に考えて分かるでしょ」


軽快なステップとともに振り向いた彼女の髪を、何処からともなく吹いた風が揺らした。その瞳は夕陽に染まり宝石のように輝いている。


「告白だよ。告白、私告白されるの」


「告白って。先輩がそう言ったのかよ」


「言われてはないけど、もう女の子から色々話聞いてるし。私も薄々そんな感じてたし」


「女子の情報網怖ぇ..」


「後は、まぁ、長年の感?」


「場数を踏むのはこれで23回目か」


「中学を含めると51回目」


「モテすぎないんだよなぁ」


何度も繰り返した掛け合い。そろそろコントが出来そうなまである。しかし、そのくらい春乃はモテる。側から見てても、納得してしまうくらいの力が彼女にはある。


「で、今回はどうやって逃れんの」


「何が?」


「告白。これまでと同じように上手いこと言って断るんだろ」


「いや、今回はオッケーしようかなって思ってる」


「そっかぁ....はっ!?」


思わぬ衝撃に、心臓が大きく跳ねた。俺は目を丸くして驚きの声を上げる。


「だって、もう高2だしさ。周りも恋人いて楽しそうだし。ほら、上条先輩となら写真も映えるし、頭も良いし、運動も出来るし。周りもお似合いだって言ってくれるんだよね」


ベラベラと彼女は言葉を並べる。しかし、半分も頭に入ってこない。考えがまとまらないまま俺は反射的に口を開く。


「いや、でも、そんな軽く決めていいもんじゃないだろ」


「軽くはないよ。それなりに悩んだし」


「じゃなくても、もっと他に良いやつ探すとかさ」


「じゃあ、誰ならいいの?」


真っ直ぐな瞳で彼女は告げる。


俺は今日、彼女との会話で初めて言葉に詰まった。


二人の間に沈黙が流れる。その後、春乃は口元を綻ばせた。


「私、これが初めての恋愛なの。だから、応援してよ」


「.....」


「もう前に進むからさ。最初の友達として、たった一人の幼馴染として、応援してよ」


二つ目の言葉は、彼女らしく無い落ち着いた声だった。


分かった、そう一言告げた。


一体何を分かったのか、きっと、何も分かってはいなかった。まるで大人が子供を宥めるかのような声に、俺は知らず知らずに頷いていた。


駅で春乃と別れてからは胸の奥に大きな風穴が空いたような無気力感に襲われた。


頭では理解していた。いつかこの関係に終わりは来る。だけど、それはもっと先だと思っていた。


家に帰ると、俺は何にも目をくれずベッドへとダイブした。


次第に虚無感はやり場のない苛立ちに変わる。信じていた何かに裏切られたような、それでいて、大事なものを奪われたような。


だけど、その理由が分からなかった。自分が何をしたいのかも、どうすれば、この気持ちが落ち着くのかも。俺が何をしなければいけないのかも分からない。


怒りの感情は徐々に孤独へと変わっていく。外ではいつのまにか雨音が響き渡り、二階まである家には俺以外の誰もいない。


怖かった。このまま感情の渦に飲まれてしまうのが。


ー俺は、俺は...


瞬間、泥のような睡魔が襲った。全てを忘れたい俺にとって、それを受け入れてしまうのはあまりにも簡単だった。



ーーーーー


「やべっ、もう朝か...」


半開きの目を擦って立ち上がる。何だか周りが煩い。母さんか?またトイレでゴキブリでも出たのだろうか。


無理やり起きたせいか目覚めが悪い。頭蓋骨に痛みがガンガン響く。


「母さん、静かにしつっ!っ?!」


ベチャッ!と顔に生暖かい感触が付着した。何度か嗅いだことのある鉄の匂い。


恐る恐る自分の顔を手で拭う。


視点が徐々に定まっていく。すると、俺の腕は鮮やかなくらい真っ赤に染まっていた。


そして、周りの光景に目を見張る。


そこはレンガの家が立ち並ぶ集落だった。そして、逃げ惑う人々を襲う緑色のモンスターの姿。


俺はそれをゲームや漫画で何度も見たことがある。


ゴブリンだ。ゴブリンが人間のように剣を持ち人々を襲っている。


「...は?」


間の抜けた声が出た。それを聞いたゴブリンの一体がすかさず俺の元へ向かってくる。


瞬間、視界が走馬灯のように遅くなる。何だこれ。もしかしなくても、夢か。おいおい、現実逃避したいから寝たっていうのに、此処でも痛い目に遭うのかよ...。


最早抵抗する気も起きない。はは、マジでついてない。ここはもうさっさと殺されてリセットしよう。


「どいてっ!!」


声と共に迫ってきたゴブリンが宙を舞った。俺の前には白銀に輝く剣を構える少女の姿があった。


「怪我は無かったっ!?」


その子が振り向いて俺に問いかける。息を呑むほど整った顔立ちの美形。だが、その顔には強烈な既視感があった。


「...春乃?」


「ハルノ?誰それ」


「何言ってんの。てか、何その格好っ!?コスプレ?」


「はぁ?ちょっと意味わからないんだけど」


「姫っ!!」


訳がわからずいると、青年が一人近づいてきた。

背は俺より一回り高く、髪は女の子のようなサラリとした金色で、背中には紫のマントが付けられている。


おまけに腰には何かの紋章が刻まれた鞘。みてそのまま、騎士のようだった。


「ロックス、良かった。無事だったのね」


「はい、残すところはここだけです」


ロックスと呼ばれる青年の目がこちらに向く。


「彼は?」


「さぁ、なんか私を誰かと勘違いしてるみたい。とりあえず、危ないから守ってあげてて」


「お前、何する気だよ?」


「何って。街を守るの」


「守るって...」


「良いから見ておけ。姫の美しき剣裁きを」


剣裁きって、コイツら頭大丈夫か...。


そう呆れていた時だった。


「はぁっ!!」


青いボディースーツに包まれた彼女の剣先から、閃光が放たれた。


それは一瞬のうちに、目の前にいたゴブリンたちを腹から真っ二つにしてしまった。


一人勝ち誇るように立ち尽くす少女。それを祝福するかのように雲の隙間から光が差し込んだ。


「...すげぇ...」


余りの圧巻さに素直に驚きの声が出た。


それを聞いて、隣の騎士が呟く。


「当たり前だ。何せ、姫様は、この国を救う勇者なのだから」


ーーーーーーーーーー


ゴブリン討伐後。俺は戦士一団からこの世界について軽く説明された。


簡潔に言うと、1000年に1度の魔王が復活し、今は魔族との戦争中とのことだ。


地球上で散々使い古されたような設定。自分の夢ながら笑ってしまう。しかし、ここまで精巧に世界を投影出来るのはある種の才能なのでは無いだろうか。


「それでお前は生まれてから今日までの記憶が全く無いのか」


「はい、気づいたらここにいて。マジで一体何が起きてるんすかね」


「それはこっちのセリフだ。姫、この者の処分どうします」


皆の言う姫と呼ばれる少女は腕を組みながら、俺を見た。


「君、私を誰かと間違えたよね?」


「あー、ちょっと知り合いに似てて」


似てるどころか、本人そのものなんだが。


「記憶無いんじゃなかったの?」


「...似てる気がしなくも無くもないかなぁーって...」


「ふーん、まぁ、何でもいいや。ねぇ、私たちと一緒に来ない?」


「は?」


「姫様っ!?」「正気ですかっ!?」


突然の提案に俺だけじゃなく、周りの仲間らしき人たちも驚きの声を上げる。


「だって、ここに置いていくわけにもいかないし。まだ私たちといる方が安全でしょ」


「それはそうかもしれませんが」


顔を顰める長身の青年を他所に、少女は俺に近づき考える素振りで全身を見る。


「でも、何もやらせないわけにはいかないから。そうだ。君の役職は荷物持ちね」


「荷物持ちって、俺まだ何にも言ってないんだけど」


「確かに。名前なんだっけ」


「名前は、蓮。じゃなくて、荷物持ちをやるなんて一言も言ってないだろっ!」


「コイツ、姫様に何て口の聞き方!」


「気に食わんなぁ、一回首切っとこか」


左右の男どもが激怒してる。何これ、怖い..。


「ロックス、クロム、落ち着いて。レン、君はどうしたいのかな」


「どうしたいって...別に...」


「君が望むなら、ここに残っても良いんだよ。でも、この有様だから誰も君の分の食糧を用意する余裕はなさそうだし。寝床も無理かなぁ」


わざとらしい仕草で横目に見てくる。


何だこれ...


ーー


「ほら、さっさと歩け」


「精々腰痛めんようになぁ」


さっきから二人の男が分かりやすく罵声を飛ばしてくる。何が悲しくて重い荷物も持ちながら文句言われなくちゃ行けないのか。


これは俺の夢だろ。何でこうも自分に厳しいんだよ。おまけに、春乃に戦士コスプレさせるって...妄想を体現するのもここまで来ると呆れるしか無い。


「半分持とうか?」


ぜぇぜぇと息を吐いていた俺の隣に春乃と瓜二つの少女が来た。本当は渡したいが、俺にも意地というものがある。


「...いいっすよ。女の子に負担かけるわけにはいかないんで」


「ふーん、あんな姿見ても私を女の子として見てくれるんだ」


「まぁ、どう見たって女だし...」


自然と視線が胸にいく。唯一、春乃と違うのはこの戦いずらそうな大きな胸くらいだ。


「あはは、レンって面白いねぇ。笑わせてくれた褒美に私を姫って呼ぶことを許そう」


「それって本名?」


「まさか。だけど、君にはまだ秘密」


「何で?」


「だって、まだあったばかりだし。それに、皆んなも私のことを姫って呼んでるから統一した方がいいでしょ」


「はぁ。まぁ、何でも良いですけど」


「でも、君すごいね。私と初対面でここまで堂々と話せる人中々居ないよ?」


ニヤニヤと顔を近づけてくる。堂々と話すも何も、ここは俺の夢で、この人は、言わば春乃のコピー。今更緊張する訳もない。


ふと、その時、誰かが言っていた言葉を思い出した。


「なぁ、アンタは勇者なんだよな」


「そうそう。一国の第一王女にして、世界を救う使命を受けた勇者」


「すげぇな」


「凄い?」


「いや、すげぇでしょ。あんな沢山の敵も一瞬で倒しちゃうし。それでいて、メチャクチャ美人だし」


「それは褒め言葉として受け取っちゃっても良いのかな」


「最早、褒め言葉でしかないですよ。...ったく、向こうも向こうならこっちもこっちだ....」


夢でも現実でも春乃は春乃だ。俺とは違う何かをたくさん持ってて、俺とは違うステージに立っている。


何処まで行っても釣り合わない。それこそ、勇者とただの荷物持ちのように。


これまで実感の湧かなかった彼女との距離。それを初めて知ったのはまさかの夢の中だった。


ーーーーーーーーーー


次の日、目覚めると見慣れた天井があった。


カーテンの隙間から朝日が挿す。


そして、ドンドンっと廊下に響く足跡の後にバタッとドアが空いた。


「レンくん、今日は朝ごはん食べるの?」


そう母さんが聞いていきた。俺は、いらない、と答えると、りょーかい、とドアが閉まった。


電子時計を見るとそこには土曜日と表示されている。


はぁ、と安堵の息をつく。どうやら、ちゃんと夢だったらしい。


夢の中で、俺は散々な目にあった。ゴブリンに襲われ、助かったかと思うと、勇者とか名乗る変な一行に20キロくらいある荷物を持たされ、その合間には、何回もモンスターに襲われ死ぬ気のダッシュを余儀なくされた。


おまけに、日にちによってはシャワーどころか水浴びさえ出来ない日もあり、寝るのはそこら辺の草の上が当たり前。そのせいか中々寝付けず、5日目にしてやっと向こうの世界と意識を切ることが出来た。


マジでリアル過ぎて本当の異世界転移かと思い始めていた。転生したら荷物持ちついでに腰痛持ちにもなっちゃった件、とか流石に笑えねぇ..。


時間は朝の8時。今日一日何かをするには充分な時間がある。


もう時期高2の後半だ。そろそろ、通う予備校でも決めるとするか。


まずは進学する大学。大して拘りは無いが、Fランは嫌だ。普通に就活を考えるなら偏差値60くらいの場所がいい。といっても、七教科勉強するモチベもやる勇気も無いので、消去法的に私立文系か。


まぁ、今から始めれば割と余裕を持って受かるはずだ。学費は少し高いが、奨学金を借りればどうとでもなる。


取り敢えず、志望校はざっくりこんな感じで、まずは必須科目の英語でも勉強するとするか。


と、思っていたのが今日の朝。


夜10時。俺は朝と変わらずベッドの上でゴロゴロしていた。勉強はしようと思った。ただ参考書を開くと直ぐに頭が痛くなった。仕方ないので、気分転換に外に出ようと思ったが、いく場所も見つからずだらだら思考を巡らしているうちに夜になっていた。


折角の休日だっていうのに完全に一日無駄にした。


天井の明かりを見上げていると、次第に眠気が襲ってきた。長時間スマホでネットサーフィンしていたせいか、何もしてないのに疲れはきちんと身体に来る。


ぼぉっとしていると再び脳裏に春乃の姿が過ぎる。途端、忘れかけていた痛みが胸に徐々に伝わっていく。


ーもう今日はいいや。明日、明日こそちゃんと効率的に時間を使おう...。


俺は迫り来る眠気に今日も身を任せた。


ーーーー


“....ン”. “...レ…”


微睡の中で声が聞こえた。俺の真上に誰かがいる。この声は確か...。


ぼやけた視界が定まっていく。


そこには赤い髪の毛の少女が仰向けの俺に覆い被さるように見ていた。そして、柔らかそうな唇がゆっくりと動く。


「おはよう」


「はぁ!?」


奇声と共に飛び上がった。


「ビックリした。そんな驚く?」


「え?え、え、え、ここって?」


色々な動揺が合わさって、頭が回らない。ダメだ、ここは一旦深呼吸だ。深呼吸。


「どうしたの、まさかまた記憶喪失になっちゃった?」


春乃にそっくりな少女は、笑って小首を傾げる。


大きく息を吸った俺は一度周り一面を見た。


何処までも広がる草原。生き物のように空気中を通過している風。そして、俺の身体からする、こびり付いた汗くささ。


間違いない。ここは前の夢の世界の続きだ。


「えぇーっ!!!」


この日から、俺は寝るたびに、夢の続きを見るようになった。



ーーーーーーーーーーーーーー


「お前、なんか顔疲れてない?もしかして、寝てねぇの?」


怪訝な表情をする翔太。その視線の先には、目の下に大きなクマの出来た俺がいた。


「いや、めっちゃ寝た。ただ最近の夢見が最悪すぎて…」


「悪夢かよ。てか、顔がやつれるてどんなレベルだ」


冗談交じりな口調の翔太。生憎、こっちは全然冗談じゃ済まされない。現実世界では、土日を挟んだ二日しか立っていない。だが、俺は夢の世界で既に10日の日々を過ごした。相変わらず、重い荷物を持たされ、モンスターに襲われ、寝るときは、草むらか汚い布の上。そして、今回もびっくりするくらいあっちでは眠気が来なかった。前回と同じく5日にしてやっと現実へと戻って来れた。


偶然か、何か因果関係があるのか。とにかく、このまま続くようでは身が持たない。帰りにアウトレットにでも寄ってお守りでも買っていくか…。


「春乃、上条先輩に呼び出されたんだってっ!?」


朝の教室に、甲高い声が響いた。


「うん、今週の金曜の放課後に来て欲しいって」


そう皆の視線の先の春乃が返す。


「それ絶対告白じゃん」


「いいなーいいなー。上条先輩と付き合えるとか羨ましすぎる」


「でも、絶対お似合いだよ。美男美女最強カップル爆誕」


春乃の話題は、既にクラス中に広まっていたようで彼女の登場と共に室内は騒がしさを増していく。


「遂に難攻不落だった春乃も落ちたか」


「…まぁ、いつかはこういう日も来るだろ」


「お前は良いの」


「は?何が」


「だって、幼馴染とは言えアイツが付き合い始めたら今までみたいな感じは無理だろ。ほら、噂では上条先輩って束縛激しいらしいし」


「知らね。なるようになるんじゃねぇの」


半ば投げやり言い返して、眠そうな素振りで机に顔を埋めた。


「ふーん。でも、まぁ、俺もキッパリ諦めついたわ。幾ら何でも学校1の金持ちイケメンが相手じゃなぁ。生まれながらに持ってるものが違いすぎるんだよ。な、俺たち負け戦なんて無駄なことはしないもんな」


悟ったような翔太の声が聞こえた。


”無駄なこと”


その言葉が頭の中を駈けずり回る。そんなこと理解している。俺が何をしたってクラス1のイケメンになれる訳も無い。本当の意味で春乃の隣に並べるようになるわけでも無い。


親の資金力。外見。そして、才能。人生の価値ってのは生まれながらに決まってしまっているとつくづく思う。


春乃も、上条とかいう男も。夢の中の勇者にも、俺は成れない…。


怠い身体が更にどっと重くなる。胸の中に残ったのは行き場のないやるせ無さだった。


ーーー


その夜。俺は性懲りもなく例の夢の中にいた。


そして、今回の夢は中々覚めることがなく、気付いた時には一ヶ月が経過したいた。その途中戦いは一層激しさを増して行った。中には魔王軍幹部と呼ばれるものまでいて、その度に、団員は傷つきながらも、最後には必ず勝利をし、前へと進んでいった。


まさに漫画やアニメで見尽くした王道展開。一見困難に見えるピンチを乗り越えていく姿も、勝つと分かっていれば茶番でしかない。


このまま物語は世界を救ってハッピーエンドに向かっていくのだろうか。そしたら、この人たちは英雄と称えられて、周りからチヤホヤされて、本当羨ましい限りだ。


「出たぞっ!魔物だっ!」


釜のような爪を持つ巨大な狼人。


その全身から放たれる瘴気に周りは警戒体制に入る。


最初はビビっていたモンスターたちにももう慣れた。どれだけ手強い敵でもこの勇者御一行は必ず倒してしまうのだから。


「レン、そこから離れてっ!」


姫の声が聞こえた。だけど、俺はその場に立ち動かない。


「レン?」


この夢は言わばテレビの中で見ているアニメと同じ。内容は、才能と力に恵まれた者たちが困難を乗り越え魔王を倒して英雄になるってところだ。


コイツらはその決まったレールを歩いているに過ぎない。綺麗事を並べて最後には友情と正義を振りかざして勝つ。


全くつまらないにも程がある。


「グォォォオオっ!!」


雄叫びと共に魔物の爪が迫ってくる。


「レンっっっ!!!!?」


それを見て、姫が走り出した。


予想通り。どうせ最後には勝つんだ。これで彼女がダメージを負えば、少しは接戦の演出にもなるだろ。


万が一、俺が死んだって所詮は夢の世界。つまり、何のデメリットもっ。


グサッ!!


肉に刃物を通すような音がした。しかし、俺の胸に痛みはない。


そして、俺の身体には生暖かい血がベッタリと付着した。


そこには心臓を一刺しされた金髪の青年がいた。


「...全く、だから、コイツを連れていくのは反対だと言ったの...ぐほっ...」


言葉を言い切ることなく青年はその場に崩れ落ちた。


その瞬間、姫の顔が悲痛に浮かんだ。


「ロックスっ!!?」


叫び声と共に、姫は青年の元に駆け寄っていく。


「ロックス、しっかりしてっ!ロックスっ!!」


「くっ、姫は戦える状況じゃない。俺たちで倒すぞっ!」


「分かった!後ろで援護しますっ!」


そう言って、大槌使いと回復術師が巨大な鉤爪を持つ魔物に応戦する。


必死に戦う同行たち。そして、冷たくなっていく仲間に涙を流す姫。


俺は全てが終わるまでただ立ち尽くして見ていることしか出来なかった。


ーーーー


その日の夜。近くの森でロックスの葬儀が行われた。


この世界で死体を放置しておくと、死霊に乗っ取られることがあるとかで、日本のように火葬が行われた。


悲観に暮れる勇者一行を俺は木の影から見ていた。


「もっと近くで弔わんのか」


暗闇から現れたのはまるで侍のような袴を着た男だった。

確か、名前はクロム..だった気がする。


「別に。俺はアンタたちと出会って大して時間経って無いし。それに、あの人たちだって俺がいると気分悪いだろ」


「ふーん、分かっとるやないか。で、なんであの時指示を無視したんや」


「それは...」


「黙るのは無しやで。俺らも大切な仲間を一人失ったんや。理由によっては俺がこの手でお前を」


クロムの手が腰の鞘に触れる。それを見て俺の中で押さえていたものが爆発した。


「殺すってか?あぁ、いいぜ?やれよっ!そもそも、俺はさっさと死にたかったんだ。なのに、横から割り込んできて、勝手に死んで。あれか、ここら辺で感動展開挟んどこうって魂胆か」


壊れたように怒鳴り散らす俺に、ロックスはドン引きしたように顔を固めていた。


「...お前、マジで何いうとるんや?」


「もう何でもいいだろ...どうせアンタらは魔王を倒して英雄になるんだ。あの姫だって何日か経てば人間一人の死くらい簡単に乗り越えるだろ。なにせ、世界から選ばれた勇者だからな」


ドンッ!と背中が後ろの木に叩きつけられる。俺は首元を掴むクロムを睨んだ。


「何だよ...」


「別に、お前が周りをどう思おうが俺はちっとも興味がない。人の価値観に干渉するなんてそれこそ時間の無駄や。やけどな。流石に周り見えてなさすぎやぞ」


腕に力が籠められ首が閉まる。その手は歪なほど震えていた。


「俺たちは英雄になんてなるつもりない。毎日死ぬ気で戦っとるんや。許されるなら今すぐにでも逃げとるわ」


「じゃあ、逃げればいいだろ。てか、アンタがそうでも、アンタらの姫様は好きで冒険してるんずっ..」


再び強く木に叩きつけられた。完全に癇に障った俺は目に力を込めて睨みつけた。


だが、それはより強い眼力によって飲まれた。ロックスが放っていたのは刀のような鋭くも静かな怒りだった。


「お前、知った気な顔すんのも大概にせぇよ..いいか?付き添いの俺でさえそう感じるんやっ!姫様の背中には、数百万の人々と世界の命運が掛かっとる。たった16の小娘がやぞ?いくら強くて、力があるからってな。それがどんだけ恐ろしく残酷なことか分からんのかっ!」


「っ...」


その声で俺は言葉を失った。だって、そんなこと今まで想像したことも無かったから。


「何が勇者じゃ。世界最凶の貧乏くじやぞ。ただ荷物を運んで側から傍観してるだけのお前には分からんやろうけどなっ!」


クロムは木に押し付けた俺をそのまま投げ飛ばした。更に追い討ちをかける勢いだってが、無抵抗な俺を見て髪を掻きむしった。


「はぁ、お前と話ししても苛立つだけやわ。死にたいなら人様に迷惑ならんように死んでくれ」


そう言い残し、クロムは去っていった。俺は体が冷え切るまでその場所を動くことが出来なかった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


夜中、俺はいく当てもなく森を彷徨っていた。相変わらず眠気が来ない。横になるだけでも幾分か疲れは取れるのだろうが、あの人たちの近くにいるのは互いの気に触る。


どのくらい歩いたのかわからなくなった時、ふと目の前に小さな足が映った。


「アンタは…」


紫の帽子とマントを被った小学生のような少女。確か、勇者団の魔法使い。


無口で戦闘中は愚か日常でさえ話しているところを見たことない。


気まづい…そう思った時、彼女の小さな指が十数メートル先の崖を指した。


そっちを見ろってことか、恐る恐る視線を動かす。


「っ!」


崖端に一つ出っ張っている岩がある。その先に体を丸めて蹲る姿があった。


「...ロックス、何で私を置いて行ったの、ずっと一緒にいるって言ってくれたのに..何で...」


赤い髪が月の光に照らされる。その様子を見て魔法使いが呟いた。


「姫、いつも泣いてる」


「いつもって…」


言葉を失う。その先にいたのはいつも平然と笑っている彼女とはかけ離れていたから。


「私は姫の母親と友人だった」


「友人って。まさかその身なりで四十だっ!…」


膝に痛みが伝わる。魔法使いは何事もなかったかのように話を続ける。


「あの子の母親は、子供を産んでその日に死んだ。父親は、王としての職務が忙しく殆ど会うことが無かった。そんな彼女の側にいつもいたのが、騎士長の息子であったロックスだった」


ロックス。彼女の口からは今は亡き青年の名前が出た。


「あの子にとってロックスは、従者であり、友人であり、兄でもあり、同時に父親だった。姫が勇者として世界から選ばれ、不安に暮れていた時もずっと近くにいたのが彼だった。いつも、泣いている姫の背中にはロックスがいた」


その声は相変わらず無感情ながらも、少しだけ懐かしんでいるように聞こえた。しかし、彼女の表情には直ぐに陰りが刺す。


「でも、もう居ない。あの子を支えてあげれる人はいない」


「…そんなこと俺に言って一体何になるんすか…」


「貴方はまだ何も見ようとしてない。姫だけじゃなく、私たちも。だから、一回ちゃんと話すべき」


「ちゃんと話すって言われても」


「大丈夫。任せて」


その時、魔法使いの身体はみるみるうちに狼へと変わっていった。


「ウオーンッ!!」


夜の森に獣の雄叫びが響き渡る。


「魔物っ!?」


それに直ぐ様反応するように姫がこちらに振り向いた。


「レン?」


見られた。隣を見るとさっきまでいたはずの狼は跡形も無く消えている。


…完全にしてやられた。


「うわ、その盗み見るつもりじゃなくてっ、これはっ」


焦りに焦る俺に、彼女は切羽詰まった顔で迫る。


ヤバイ。怒られるっ!


「どうしたの、その顔!?」


「えっ?」


「傷だらけだし。それに、手も凄く冷たい」


飛んできたのは罵倒でも、拳でも無く、心配する優しい声と暖かい手の感触だった。


舞い上がっていた感情が馬鹿みたいに冷めていく。


「...こんな時でも、姫は誰かの心配をするんだな」


「っ…」


彼女は、言葉を詰まらした。しかし、その表情はいつもの笑みへと変わる。夜空に浮かぶ月光が彼女の姿を寂しげに照らす。


「少し話そっか」


ーーーー


「それで、その顔どうしたの」


「…さっき転んだんだよ」


「そっか、クロムにやられたんだ」


「っ…」


「やっぱり。後で一言言っとかないと」


何で分かったのか、そう尋ねるより先に湧いてきたのは俺の前で平然としている彼女への疑問だった。


そして、聞くつもりのなかった言葉が口から出る。


「...俺に理由は聞かないのか」


「理由?」


「何で俺が指示を無視したのかって。あれが無かったらロックスさんは死なずに済んだ...かもしれない」


目も合わせず、たどたどしく言う。それを聞いて、姫は微笑んで遠くを見つめた。


「聞かないよ。聞いてもきっと良いことなんてない。居なくなった誰かが戻ってくることなんてもう無いから」


「でもっ」


「それに、ロックスは君のせいで死んだんじゃない。一人の騎士として、命を賭けて人を守ったんだよ。私はそれを誇りに思う」


俺は言葉を失った。今の彼女からはさっきまで1人で泣いていた少女は想像出来なかった。そこにいたのは紛れもない勇者だった。


「やっぱ強いな」


「強いって。私の泣き顔見といてそんなこと言う?あ、もしかして、喧嘩売ってる?」


「そうじゃ無くて、多分俺だと同じ状況でもそんな風に言えないからさ」


自虐気味に俺は告げた。それを聞いて彼女は切なげな笑みを浮かべた。


「言えるよ。誰だって私の立場になれば。人に希望を与え、 どんな困難が待っても必ず乗り越えて前へ進む。それが勇ましい者、”勇者”なんだから」



彼女の言葉の後、俺たちの間に沈黙が流れた。夜風が過ぎり周りの草木を揺らす。


何て言葉を掛ければいいか分からなかった。俺は勇者じゃない。彼女の意味する言葉を少しも実感できない。


「私、画家になりたかったんだ」


「…え」


突如姫がそう告げる。画家。それは彼女の姿にとても似合っている言葉だった。


「信じてくれないかもだけど、小さい頃は割と得意で、周りの人たちには結構評判良かったんだから。あの頃は、きっと博物館に永遠に作品を残す立派な画家になるんだろうなーって勝手に思ってた。でも、12歳になった時に、突然勇者の称号が浮かび上がって、なんか魔王と戦うことになってて、やりたくも無い剣術をたくさんさせられて。あー、でも、勇者を無理矢理させられてるとは今は思ってないよ。私は人の笑っている顔が好きだし、この世界を平和にしたいとも思ってる。その言葉に嘘はないって誓える。


....でも、偶にこうやぅて弱音を吐きたくなる日だってある」


最後の言葉は今にも消えてしまいそうな声だった。


「そんな時にいつもいてくれたのがロックスだった。従者で、友人で、兄みたいな存在だった。偶に過保護過ぎて鬱陶しい時も会ったけど、もう居ないって何だか実感湧かないや」


辛そうなのに、今にも泣き出しそうなのに。また彼女は笑った。今はそんな彼女が痛々しく写る。俺は心臓を掴まれたようにぎゅっと痛みが走った。


俺はいてもたっても居られなくなった。


「姫、俺を殴ってくれっ!!」


「…何ごと?」


目を丸くして姫は呟く。


「俺色々誤解してた。姫も皆んなも俺には無いものを持ってて。だから、きっと大した悩みなんてなくて、生まれた時から人生楽なんだろうなって、そう思ってた。でも、本当は皆んな俺以上に必死で生きてたんだ。だから…」


目頭が熱くなった。もう自分でも何がしたいのか分からない。ただ何でも良いから罰が欲しかった。

 

「レンは正直だなぁ。そんなことわざわざ口にしなくていいのに」


姫は視線を下ろし静かに言う。そして、続けるように、


「さっきまでの訂正。本当は少し怒ってるかも」


「だったらっ」


「...だから、ちょっと肩借してよ」


ふわりと頭の横で赤い髪が靡いた。次第に俺の肩に重さが伝わっていく。


「ううっ ……うっうっ……」


肩の布が次第に濡れていく。


その重さは間違いなく男の俺よりも軽く、彼女が俺と歳の変わらない少女であることを実感させられる。


こんな軽いのに、彼女には数百万の人と、世界の命運が乗っかっている。それを想像しただけで俺は気が遠くなりそうになった。


ーーーーーーーーーー


翌朝、俺は刀を磨く男の元を訪れた。


「あ、なんや?まだ死んでなかったんか」


目が合うや否や、罵声を浴びせられる。ムカつく人だ。だけど、今回は俺にも引けない理由がある。


「クロムさん、ちょっと良いっすか」


ーーーーー


「良い感じの様になったな」


身体中が痛む中、遠くで声が聞こえた。


「ちょっと、クロム何してるのっ!」


後から姫の声も続けて聞こえる。


「何って、コイツが剣術の稽古つけてほしいって言うから手伝ってやってるんや。ついでに、軽い考えで前線に立とうとしとる甘さをぶった斬っとる最中や」


「辞めてよ、もうボロボロじゃない」


「あー、そやなぁ。所詮は荷物持ちなんてこの程度や」


空き捨てるように言って、クロムはその場を立ち去ろうとする。


「....いけます」


「あ?」


ゆっくりと顔が振り返る。俺はその眉を顰めた目を真っ直ぐと見た。


「まだいけます。もう一回やって貰ってもいいですか」


それを聞いて、クロムは驚いたようだった。その口元は薄ら笑いへと変わっていく。


「ほーん、少しは度胸あるやないか」


頭が割れたように痛い。息が呼吸が出来ないほど乱れる。視点が定まらないほどグルグルと回る。


それらは俺にとって初めてに近い感覚だった。


思い返してみれば、俺は何かに全力で取り組んだことが無かったのだと思う。


何をするにも、その基準は俺が得意かどうかで、限界が見え始めると直ぐに辞めた。


そんな自分を嫌いになったことは無かった。努力が報われるなんてただの綺麗事。俺はこれまでの生活でそうじゃ無い場面をいくつも見てきた。


いくら練習しても部活のレギュラーに入れなかった友人、いくら勉強しても推薦を貰えなかったクラスメイト。そして、好きな人に永遠に振り向いて貰えなかった数多の男たち。彼らは皆最後は酷く傷ついていった。


俺は愚かとさえ思っていた。無謀なことに手を出して、それで、傷つくくらいなら、最初から何もしなかった方がいいに決まってる。


だけど、今の俺はそんなことはどうでも良かった。


確かに、姫は美少女だ。春乃にそっくりで皆んなから信頼されてて、誰よりも強く力に溢れている。


だから、俺と同じだなんて思わない。俺は勇者ではなくただの荷物持ちだから。


...それでも。


「今度は、骨ぶった斬って、アイタッ!!」


「ぶった斬らない。クロムは本当教えるの下手なんだから」


「いや、下手とかそういう話じゃなくてじゃの..」


「はいはい。取り敢えず、後は私が引き受けます」


クロムを軽くあしらって、姫が俺の元へ近づいてくる。


「で、どうしたの突然?勇者にでも成りたくなった?」


冗談まじりに彼女は尋ねてくる。もう昨日俺の肩で泣いていた姿はここにはない。


俺はそんな彼女を見てきっぱりと告げた。


「違う。なんつーか、もっと重い荷物を持てるようになりたくなったんです」


「ふっ、なにそれ」


彼女はいつものように笑う。


俺は彼女の代わりになることは出来ない。そんな能力も無ければ勇気もない。


ただその華奢な身体に背負う、とてつも無く大きな重荷を少しでも俺が肩代わりしたい、それで、彼女が少しでも長く笑っていられるなら、そう思ったのだ。


ーーーーーーーーーー


ロックスの死後、俺は何度か現実と夢との行き来を繰り返した。



その間のルーティンとしては、朝はクロムに修行でボコボコにされ、偶に相手をしてくれる姫に関しては試合は手を抜けないとか言って正直クロムよりスパルタまであった。そして、昼から夜にかけて荷物運びに徹し、夜にまた修行をする。そうして夢の世界で半年が経過した頃から、モンスターの中でも小物程度なら倒せるようになってきた。


実際に戦ってみて、俺は改めて周りの凄さと共に彼らのことについて知るようになってきた。


パーティーメンバーは俺と姫を除いて全員で4人。


前衛の刀使いでありよく罵声を浴びせてくるクロムは、刀磨の里と言う何処か昔の日本に似た場所の出身で、そこでは、伝統の流派では無く我流の剣術を使っていたことから里の長から追放されたらしい。その後、1人魔物狩りをしているところを姫たちと出会い旅をしていると言う。その際に、何やら、一悶着あったらしく、姫には何かと頭が上がらないらしい。


次に、同じく前衛で大槌使いのゴードン。一言で言うとゴリゴリマッチョの熱血ハゲ。姫たちちとは寺で修行中に出会ったらしい。誰よりも身体を貼り、どんな相手でも自の力のみで吹っ飛ばす。そして、団の士気が落ち無いように常に声を出している姿は、男から見ても惚れてしまいそうになる。


3人目は後衛にして回復術師のリナリア。


長いピンクの髪に修道服のような格好の彼女は、見かけ通り、孤児として育てられた教会でシスターとして務めていたらしい。そんな中ある日出会った姫たちに子供たちを魔物から助けられて以来、自分も世界を救う手助けがしたと自ら名乗り出たらしい。メンバーの中では、姫の次に俺を気遣ってくれていて、戦闘が終わったら真っ先に治療してくれる。



そして、最後に同じく後衛、魔法使いのルルティナ。王都では宮廷魔道士を務めていて、旅のメンバーとしてもロックスと同じ最古参メンバーだった。歳は触れないでおくが、幼い見た目とは裏腹に、魔法使いとしての力は強力で、本気を出せば魔王軍の幹部クラスも1人で倒せるらしい。しかし、相変わらず、無口で何を考えているかは他のメンバーでも分からないらしい。


これまで、目を向けようとしてこなかった彼らは皆個性的で凄く魅力的な人物だった。そんな彼らの中心にいるのはやっぱり姫で、最初はただ勇者だから周りが集まっているだけかと思っていた。


だけど、今は違う。いつも前向きで明るく、それでいて、誰よりも責任感が強く誰よりも世界の救済を願っている。だけど、やはり、冗談を言ったり意外とオシャレに敏感だったりするところは年相応の女の子なのだと知らせてくれる。


そんな勇者では無い姫自身に皆惹かれていくのだ。それは勿論今の俺自身も。



ーーーーー


「おらっ!」


体操服の生徒の間を豪速球のバレーボールが通過した。


「よし、23点目」



「あーあ、流石に、バレー部のエース取られゃキチィな。せめて、もうちょい経験者くれよ」


横で翔太が不平を垂れた。


今は体育のバレーの授業。男子の二つに分けたチームだが、今回は実力的にかなり偏ったメンバーになっていた。


相手には部活でもレギュラー入りを果たしている部員メンバーが3人。その1人は全学年含めたエース。


対する、俺らのチームは、経験者は俺と岩崎のみ。案の定点差は離れ18対23となっている。


続いて、24点目となる相手のサーブが放たれる。


ボールは誰かの手に弾かれ高く場外へと飛んで行った。


「うがっ!?」


「きゃぁっ」


その方向に女子がいることも御構い無しに岩崎が飛び込んいく。岩崎の手はボールに触れさえはするも対して跳ねることなく虚しく転がっていく。


「アイツマジ何してんだ…。負け試合なんだからさっさと終わらせろって」


翔太と同じように周りから岩崎に非難の声が集まる。


それを聞いて、岩崎の顔が悲痛に歪んだ。


「じゃあ、これでラストだな」


エースの男はボールを宙に放り投げ、最高打点でジャンプサーブを放った。


「うわっ」


ボールは弾丸のような速度で翔太の顔に当たった。それは再び場外へと飛んでいく。


ーマジかよっ!


ー今のは半端ねえな


ー遼くん、流石っ!


ーやっぱ、かっこいいなぁ


空中に弧を描くボールを見て、一瞬動き出そうとする岩崎。だが、その足は数歩で止まってしまう。そして、言葉なく小さく俯く。


その間を刹那の風が過った。


ボンッ!


それは弾かれる音だった。俺の身体は地面と平行に浮かび全身を使ってボールを宙へと飛ばした。


その光景をポカンと全員が見つめていた。


その時、目のあった石崎に叫ぶ。


「まだ繋げるぞっ!」


「っ!」


その声に感化される様に、岩崎は反対陣地に返した。呆気に取られていた相手はそれを拾えず、ボールは床へと着いた。


「ピー、19ー24っ!!」


周りが騒めきに包まれる。


その中には、何してんだよ。早く終わらせろよ、とかいう非難もあった。


同様に、岩崎も、何で、と言いたげな表情を浮かべている。


俺はそんな彼の前に立った。


「ナイス、トス、おかげで一点返せた」


「そうだけど..他の皆んなはさっさと終わらせてろって...」


「まだ負けてないだろ」


一人呟き、真っ直ぐと岩崎を見た。


「俺は諦めないお前の方がかっこいいと思う」


しばし、絶句していた彼の隣を通って、俺は自分のコートの持ち場へと戻った。



試合は、23ー25で俺たちが負けた。試合終わり、お前がこんな熱いやつだとは思わなかったよ、と茶化す様に翔太が背を叩いてきた。


…熱いか。意外と人生で初めて言われた気がする。


以前の俺ならきっと諦めていた。勝つ確率なんて、殆ど無いって。そんなことならやらない方が良いって。


その考えを俺はまだ間違ってるとは思わない。


でも...


「偶には面白いことするじゃん」


背後からの声に振り向く。そこにいたのは体操服を着こなした少女の姿。


「は、春乃?」


上擦った声が出た。


「なに、その反応。周りは関係ない。さっきまで、まだ負けてない!とか、絶対勝つぞ!とか叫んでた癖に」


「あれは、その..そういう気分だったっつーか...」


余所余所しいぎこちない声だった。それを春乃は不思議そうに見つめていたが、直ぐに何食わぬ顔で隣を通り過ぎて行った。


「ふーん、早くしないと次の授業遅れるぞー」


ーーーー


「ふふ、ふはははっ」


夢の中、姫は腹を抱えて笑っていた。

空には数億の星の海が流れ、俺の世界と同じ黄色く輝く三日月が夜の草原を照らしている。


いつの日か、俺は夜の時間を姫と共にするようになった。それは別に嫌らしい意味とかでは無く、寝られずにいる者同志の暇潰しと行ったところだ。


「笑過ぎだろ...」


目を細め呆れた様子で彼女を見る。


「いやぁ、だって、また負けてない!とか、絶対勝つぞ!って私が普段言ってるセリフまんまじゃん。それを君が言うてっ、ぶっ、ぶふふっ」


「あー、眠くなってきたなー、そろそろ寝床へ戻ろうかなー」


「あー、ごめんって。でも、何でそんなこと言おうと思ったの?」


「別に大した理由ないですよ。ただ俺もアンタたちを見ててカッコいいと思ったから」


「カッコいいか、やっぱり、レンも男の子だねぇ」


「そういう姫様も、夜中寂しくて寝れないなんて女の子っぽくっていいんじゃないっすか。主に5歳児レベルだけど」


「はぁ、言ったなー、このぉ」


頬が引っ張られる。彼女の手に力が集まっていき肉ごと持っていかれそうになる。


「うわ、たんま。マジで死ぬっ!」


涙がちょちょ切れそうな所で、手は離れ、彼女は呆れた素振りを見せる。


「もぉ、最近のレンって本当生意気。同い年みたい」


「実際同い年なんだけどなぁ...」


「中身はまだまだ子供だからノーカンね」


謎理論すぎる。最近分かったが、姫は案外変なことを言う。冗談なのか、本気なのか、将又、両方なのか。まぁ、今となってはそこが彼女らしさでもあるのだが。


「ねぇ、レンって本当は別の世界から来たんでしょ」


「うん.......はぇっ!?」


驚きのあまり変な声が出た。その様子を見て姫の顔は確信に変わる。


「やっぱり。だって、おかしいと思ったんだよ。記憶喪失の割にやたらと変な知識持ってるし。さっき話してたのも何処か半分嘘っぽかったし」


マジか。確かに、バレーの話を、剣の修行にすり替えたりしてたけど。こんな簡単に勘づかれてしまうとは。


「レンの世界はどんな場所なの?」


未だ心臓の鼓動が戻らないうちに、姫が尋ねてきた。嘘を言おうとも思ったが、ここまで来て誤魔化してもしかないので言えることは言うとしよう。


「...ここよりはずっと平和な場所ですよ。食べ物に困ることはないし、魔王みたいな敵もいない。本当退屈すぎるくらい幸せな世界」


「へぇ、いいなぁ。そこでレンは何してたの」


「普通に学生。俺のところじゃ18までは皆んな学校に通うんです」


「えっ、そうなの?!私授業は全部王宮の中だったから、全然どんな場所が分からないんだよね」


そう羨ましそうな目を向ける。そういえば、姫と呼んでいていながら忘れそうになるが彼女は列記とした王族なのである。


「ねぇ、他には?君の世界にはどんなのがあったの?」


俺は興味津々な彼女に自分の世界の色んなことを話した。


地球と呼ばれる星には196の国があり、魔法の代わりに科学と呼ばれる技術が発展していること。それを使えば、空や海の中。さらにはその向こうにだって行けること。戦争は殆ど無くなり、武器や争いはスポーツとして形を変え人々を熱狂させていること。後は、テレビやミュージック、その他たくさんのことを話すごとに、姫は目を輝かせた。


「私、その世界に行ってみたいっ!」


ついに姫が瞳の奥にスターを浮かべて言ってきた。


「いやぁ、無理じゃ無いかな」


「えー、分かんないよ。昔本で読んだけど神代の魔法には異世界に飛ぶ術式もあるって書いてあったし」


「そうだとしても、俺の世界はちょっと..」


何せこの世界は俺の夢だから、なんて夢のないことを今伝えるのは気が引ける。


「全くレンは夢がないなぁ」


そう姫は口を尖らせる。


「でも、本当に羨ましいな。私がこの世界で死んで生まれ変わったらレンの世界に生まれたい」


「俺の世界に?」


「うん、前に言ったでしょ。私、画家になりたかったって。運命も宿命も全て脱ぎ捨てて自分の好きなことをやってみたい。あ、でも、70億も人いるなら私の絵なんて沢山あるうちの一つに埋もれて誰にも見てもらえないんだろうな」


寂しそうに遠くを見つめる。俺は口を挟まずには居られなかった。


「そんなことないよ」


「レン?」


「そんなことはないっ!それだけは俺が保証します。きっと有名なところに展示されるくらいには評価されますよ」


声に力が入っていた。姫は圧倒されるように暫し黙っていたが、直ぐにいつもの笑へと変わった。


「そっか。なら、尚更君の世界に行かないとね」


耳に透き通る明るい声。小さい頃から何度も聴いてる春乃と同じ声。なのに。今は彼女の方が自然と体に染み渡っていく。


「何だか、姫と話してる方が落ち着く」


「え?」


「出会った時に話したでしょ。姫さんにそっくりな人のこと。あれ俺の昔からの知り合いなんです。だけど、最近何か話しづらくって。姫たちと出会ってもう何ヶ月も経つ。だけど、アイツとはその何倍も一緒にいたはずなんです。でも、、いまじゃあ、姫さんの方がこうして気楽に話せる。マジで自分でも意味分かんないんですけどね」


半笑いで告げる。


しかし、それを聞いていた姫にはいつもの笑顔が無かった。


「それって」


「姫様ー!!そろそろ出発の時間だっ!」


ゴードンの呼び声と共に、俺たちは夜が明ける前に出発した。何故か。それはこの先にある村に、魔王と倒す為に必要な伝説の剣が眠っているからだ。


噂では魔王軍が破壊を目的に侵攻しているとも聞いた。だから、俺たちは最低限の休息で歩き出した。


1時間ほどすると、太陽が徐々に山から姿を表し始め、大地を照らしていく。


「あれ、見えてきたんとちゃうか?」


クロムが興奮気味に指を刺した。その理由が一瞬にしてわかる。


村なんて甘いものじゃない。そこには怪獣顔負けの要塞が君臨していた。


撃龍槍らしきものまであっていよいよモンハンの世界だ。


「私は勇者っ!伝説の剣を受け取りに来たっ!」


姫の力の篭った声が壁に響き渡る。


すると、巨大な扉がジリジリと開き出した。


「お待ちしておりました。勇者様」





連れていかれた場所は地下の神殿となっていた。


壁は鮮やかな青い石が敷き詰められていて、左右には、いくつもの騎士の像が並んでいる。今にも襲ってきそうな躍動感のある姿に、彼らが守っているであろうこの先の物を重要さを感じさせられる。


「ここは英雄の間です」


案内人がそう告げると、俺たちは先程までの通路の数百倍はありそうな大広場に出た。


上は天井が見えないほど深く、地面には一本の通り道以外を埋め尽くす数千体もの戦士の像が配置されてあった。


その一体一体が放つ威圧感に俺は息を呑んだ。


「彼らは、歴代の勇者とその一行の方々です。魔王を倒し世界を救った者は、死しても尚ここに石像となって永遠に未来を見守り続けるのです」


「ほ...ほーん、ただの石もここまで数が集まるとそれなりに絵になるなぁ」


強がっていながらも、クロムの顔にも驚きが見える。


道を通る途中、その何人かと目があった。生前、彼らにどんな背景があり、どれだけの試練と困難を乗り越えてきたのかは到底想像もできない。


姫もいつの日かはこの眠る英雄の中の一人として世界を観測し続けるのだろうか。


そのことに彼女は何を思うのだろう。すぅーと底知れない怖さが湧いた。だから、俺は先頭に進む少女の後ろ姿に声はかけなかった。


数分ほど歩いた時だ。目の前に石段が現れる。そして、その中央で輝きを放っていたのは煌めく黄金の剣だった。


「あれが歴代に語り継がれる勇者の剣です。あれを抜くことは選ばれし貴方にしか出来ません。さぁ、早く剣をその手に」


付き人の催促に、姫は一歩一歩段差を登っていく。そして、ついに握りの部分に彼女の手が触れる。


抜く瞬間、眩い光が全体を照らした。彼女の見る目がそれが本物だという確信に変わる。


「これが…」


圧倒される様な息を含んだ声。しかし、安心している様な、同時に湧き上がってくる熱を感じさせる声だった。


ここまで辿り着く為の軌跡を考えれば、その反応は至極当然のものだった。


やっと、やっとこれで最終決戦へ進める。


そう誰もが期待に胸を含ませたであろうその時だった。


…そう言えば、何で案内人の人まで姫と一緒に。


剣を抜くのが、勇者にしかできないのなら、わざわざ一緒についていく必要は無かった気がする。近くで剣を見たかったとかそういうのだろうか。


その時、付き添いの口元が裂けそうな程つり上がった。


その紫がかった歪な腕が姫の背後に迫る。それを見た時、俺の全身が総毛立った。


「姫、後ろだっ!!」


「え?きぁあっ!


俺の叫びに姫が振り向く。その瞬間、彼女の身体は石段の上から吹き飛ばされた。


地面に無防備に落ちていく彼女の身体。


「うぉおおっ!」


それをゴードンが間一髪でキャッチする。それを見て安堵の息が漏れる。


「くくくっ」


空洞の上から狂気を含んだ笑い声が響き渡る。


皆が石段の方向を再び見上げると、そこには一体の魔族がいた。


「この時をずっと待ち望んでいた」


そう牙の生えた口が動く。そして、ソイツは勇者の剣を空へと掲げた。


すると、黄金色に輝いていた剣は見る見るうちに歪んだ漆黒に包まれていく。そして、黒化した剣を地面へと落とすと、それは見るも無残に砕け散った。


皆の目が絶望に変わるのは一瞬だった。


「お前らの目の前で希望を砕いてやったわっ!!」


笑い出す魔族。その身体を突き刺すようにクロムの剣撃が入った。途端、口から、紫の血が溢れ出す。


「うぐっ...ふふっ、これでお前らに待っているのは絶望だ」


目を見開きながら笑い、そのまま地面へと崩れていった。


「くっ、ボケがぁっ!!」


クロムの悔しがる声に、周りにも重い空気が流れ始める。


「おいおい、どうすんだよ...」


「これじゃあ、魔王を倒せないんじゃ」


団員の顔にも翳りが見え始める。


「姫...」


俺は皆の前に立つ少女を見る。


「大丈夫。これまでもどれだけピンチでも切り抜けてこれた。聖剣なんて無くても私たちなら出来る。だよねっ!」


「あぁ」


「ふふ、流石、姫」


「どこまで行けば、そんなポジティブになれるんだぁ」


「まぁ、俺は最初っからそんな御伽噺の代物に頼るつもり無かったしな」


「私、今からでも、もっと特訓して皆んなを助けられるように頑張りますっ!」


「お前、それ以上術式覚えても、マナ量少ないから無理やろ」


「何ですって!」


「そうそう、最近無理してぶっ倒れるからよ。回復魔法増やすより先に体調管理してくれ。運ぶの割と重いんだからよ」


「重っ、ゴードン、貴方って人はっ!」


再び賑わいを取り戻し始める団員たち。


「本当に大丈夫か?」


俺は隣に立つ姫に問いかけた。


「何が」


「また一人で抱え込んだりしてないよな」


俺は心配だった。またある日のように一人で泣いているんじゃ無いかって。もしそうなら、俺はいくらだってー


「バーカ、アホレン」


「はっ!?」


「荷物運び担当のくせに心配とか生意気。私勇者何ですけど」


「お前なぁ、こんな時にっ」


「これ見て分かるでしょ。私には素晴らしい仲間がいる。だから、私は前に進める。それはこれまでもこれからも分からない」


空の元気では無く、彼女は自信に満ちていた。

なんて要らない心配をしていたんだろう、と自分が情けなくなる。


「なら、俺も頑張らないとな」


「荷物持ちを?」


「違うわ。剣術。最近、やっと様になって来たし。これから相手の本拠地攻めることを考えたら、もっともっと特訓して姫の負担を俺も背負えるようになりたいんだ」


彼女が強くあり続けるなら、俺ももっと強くならないといけない。その眩しい光に少しでも付き添えるように。自分のできる限りのことを。


「...ありがと...」


そう小さく呟いた姫の声は、生憎、考え事をしていた俺の耳に届くことは無かった。


ーーーーーーーーー


「宝田くんのことが好きです」


翌日、屋上で俺を待っていたのはクラスメイトからの思わぬ言葉だった。


呼び出された時から、予想はしていた。だけど、実際に目の前で起きると何を言えばいいか分からなくなる。何せ、これが人生初めての経験なのだから。


「えっと...」

 

「前のバレーの授業の時、必死で勝とうとしてる姿とてもカッコ良かった。それに、最近の宝田くん、なんか雰囲気変わって接しやすいなって」


その後、クラスメイトの女の子は、俺について幾つか話した後、返事待っているから、と行って去っていった。


取り残された俺の肌を空の風が触れていく。


「ヒュー、これは思わぬ現場に遭遇してしまったな」


口笛と共に、塔屋の裏から人影が現れた。180はありそうな長身に中性的な顔立ち。そして、制服のシャツから浮き出た程よい筋肉。


「可愛い子だったじゃん。直ぐにOKしないのかい?」


続けてそう言い、俺の前へと立つ。


「...上条先輩」


「あれ俺のこと知ってるんだ」


「はい、去年先輩と体育祭同じチームだったんで」


「あ?あー、もしかして、あの時の..へぇ、確かにちょっと雰囲気変わったね」


変わった?確かに髪はあの時より短くなったが。まぁ、そんなことを言いにきたわけでも無いだろう。


「俺に何の用ですか」


「単刀直入に、春乃ちゃんについて教えて欲しいんだけど」


そう気さくな口調で彼は話を続けた。


「宝田くんは、春乃ちゃんの幼馴染なんだって?羨ましいな。大抵の男は、そもそも話しかけることすらハードル高いのに。君は既にその一歩も二歩も先も行っている。だから、色々詳しそうだなって思ってさ」


「俺が話すまでもないですよ。アイツは俺に対しても、他に対しても、見たまんまですから」


「ふーん、なるほどね。確かに、そういうのもあの子らしいな」


割と適当な返事だったが、上条は意外にもそれで納得したらしい。


「もう知ってるかもしれないけど、俺春乃ちゃんに明日告白するんだ」


キッパリと彼は言い切った。それを聞いて、未だふわついていた噂への感覚が実感へと変わっていく。


「君は僕と春乃ちゃんはお似合いだと思うかい?」


男でも吸い込まれそうな瞳と甘い声で彼は言う。なるほど、通りで周りが騒ぐわけだ。


「...似合ってるんじゃないですか。周りもそう言ってるし」


赤の他人のように俺は言った。実際俺以外が言えばそういう回答が返ってくる。ここで俺の主観を言ったところで意味なんてない。


「そっか」


悟ったように目を瞑ると、ありがとう、話が出来て良かったよ、と言い残し扉の方へと向かっていく。


その姿を見て、身体中から湧き上がってくる感情、その色が分からないまま気づくと口を開いていた。


「あのっ」


「ん?」


上条の後ろ姿が振り向く。


「アイツああ見てて意外と繊細なところあるんです。顔には出さないですけど、直ぐに何でも自分で背負おうとするんで。そこんとこちゃんと見てあげて下さい!」


それを聞いて上条は驚いているように見えた。そして、自分でも驚いた。でも、これだけは伝えなきゃいけない。この学校という小さな空間で、彼女の弱い部分を知っているのは俺だけだと思ったから。


「見てあげて下さい、か。その言葉が聞けて少しほっとした」


意味深に上条は笑った。そのまま再び背後を向け扉へと戻っていく。


「忠告ありがとう。本当に君が幼馴染で良かったよ」


上条と別れて以来、俺は胸の落ち着きが定まらずにいた。


最後の言葉は言う必要があったのか。何か別に伝えることはなかったのか。


そういう後の祭り事が今も懲りずに頭の中で繰り返す。だけど、どう言葉を変えてみても、この騒めきが治まる気配は無い。


ーもっと俺にはすべきことがあったんじゃないか。やらなきゃいけないことがあるんじゃないかと。


答えは以前よりも随分近づいた気がした。だけど、まだ足りない。ほんの少し、後、ほんの少しだけ決定的な何かが。


その日、俺がそれに気づけることはついぞ無かった。


ーーーーーーーーーー


「よう、やっと起きたか」


「…..」


ぼやけた意識の中で声が聞こえた。目を擦ると、空は暗雲に包まれ、冷たい風が高野を揺らす。


そして、そこには暗い表情を浮かべる団員の姿があった。


しかし、そこに彼らの中心に立つ者はいない。


「あれ、姫は?」


その問いに団員はしばし口を閉じていた。嫌な予感がする。


そして、魔法使いのルルティナが無表情な口を開いた。


「あの子は...」


ーーーーーーーーー


「一人で魔王と戦いに行ったっ!?」


驚きの声を上げた。そして、同時に、どうしても、と頭の中で疑問が浮かぶ。


「姫は、ずっと悩んでいた。最後の決戦にみんなを連れていくべきかどうかを。それが勇者の剣を失ったことで決心に変わった」


「変わったって…」


淡々と話すルルティナ。俺は更に問いただそうとした。しかし、それより先に隣の男が掴みかかる。


「ふざけんなや、このロリババっ!!」


「ちょっと、クロムっ!」


「離せ、離せやっ!!!」


リナリアとゴードンに押さえつけられるクロムの表情は必死さに満ちていた。その顔からは底知れない怒りすら感じさせる。


「姫様は、俺たちのことを考えて1人を選んだんだっ!これまであの子と一緒にいたお前ならそのくらい分かるだろっ!」


ゴードンがそう言って場を治めようとする。


俺にはその言葉の意味が何となく分かってしまった。姫なら、誰よりも優しく勇敢な彼女なら、この選択をするかもしれないと。


仕方ない。誰もそう感じて居た時、


「分からんわっ!」


皆の感情を吹っ飛ばすかのようにクロムが言い放った。


「俺はずっと1人やったんや。これからもそのつもりやった。そんな俺にアイツは、側で支えてほしいって言ってきたんや!だから、俺はここまでついてきた。やのに、最後は1人で全部背負って自分だけ犠牲になればええとか、そんな勝手俺は死んでも許さんぞっ!」


喉が裂けそうな声に、俺は、ハッとさせられる。そうだった。俺は、俺たちは、彼女と共に旅をしてきた。こんな最後、世界が望んでいようと、俺たちが許していいはずがない。


「…2人」


ルルティナが続けて告げる。


「姫の近くまで転送できる。でも、2人まで」


「ほんまか!なら、俺は絶対行くぞっ!行って連れ戻して、身勝手なガキを一発引っ叩いたるっ!!」


「でも、あと1人はどうする」


ゴードンが尋ねる。


「んなもん、この中で一番強いルルティナがっ」


「私は、自分を転送出来ない」


「なら、ゴードンかリナリアしかおらんやろ」


至極当然の意見だった。しかし、ルルティナの黄色の瞳が俺を捉える。


「私は、レンを選ぶ」


俺は、身体を掴まれたように固まった。その直後、クロムの罵倒が飛び交う。


「おまっ、アホかっ!ふざけとる場合ちゃうぞっ!」


しかし、ルルティナは彼を見ることなく俺の方へと近付いてくる。


「おい、聞いとるんか」


「レン、どうしたい?」


普段どうりの無機質な声。だけど、今はそれが凄く胸に響く。


「俺は...」


「俺は賛成だな」


「私もレンさんならやってくれる気がします」


ゴードンとリナリアは俺を見て首を縦に振った。


「何でお前らまでコイツの肩持つねんっ!まさか今更命が惜しくなったんちゃうやろなっ!?」


「命はとうに神に捧げた。俺は世界の救済の為に全てを尽くす。だが、今回ばかりはきっと俺ではダメだ。俺じゃあ、姫様のところまでたどり着けない。そんな気がする」


「私もっ、よく分からないけど、レンさんじゃないとダメな気がするんですっ!」


「戦いすぎて頭おかしなったんか...」


「まぁ、その選択もこの少年次第だけどな。どうする?」


皆んなの視線が俺へと向かう。冷静に考えても、この中で1番戦力にならないのは俺だ。


「俺も行きます。行って絶対に姫を連れて帰る」


真っ直ぐに全員の目を見て告げた。


それを聞いて、団員たちは確信の表情へと変わる。


「あぁ、ここにはバカにしかおらんのかっ!?」


無造作に頭を掻きむしるクロムを、再び周りが宥め出す。


この一連のやり取りに、こんな時でも皆んなは皆んなだと安堵する。


「時間はない。直ぐに飛ばす」


ルルティナは杖を振り、空間に突如ゲートが出現する。


「レン」


呼び止められる声に立ち止まる。


「ゴードンさん」


「これ、俺の寺の時に預かったお守りだ。力を倍増させる魔石が入っている」


そういうと、勾玉のついたブレスレットを俺にはめた。


「私からはこれです。3度までどんな傷でも回復できます」


続いて、リナリアからは首飾りを頂く。この流れはと思いルルティナを見る。


「私からはこの魔法をあげる」


身体に魔力が流れる。何かの術式を込められたみたいだ。


「ありがとう。で、効果は?」


「足引っ張ったら速攻置いてくからなっ!!」


クロムは声を上げて、さっさとゲートへと入っていった。


それを見て、俺も慌てて後に続く。


「上手い飯でも作って待ってるからな」


「みんな揃ったら記念の祝杯をあげましょう」


「はい」


仲間たちに見送られ、俺は虹色を空間へと飛び込んだ。


ーーーー


飛び込んだ先は、一本の回廊となっていた。しかし、聖剣の時よりも一段の暗く、周囲からは死の匂いが漂っている。


「グォォォオオッ!!」


突如、背後から魔獣が出現した。刹那、その首が宙を舞う。


「遅いねん、何しとったんやっ!」


目の色を変えたクロム。よく見ると既に何十体もの魔獣の死骸が転がっている。


「くそっ、どっちに進めばええんや」


躍起になる声が響く。いくつも道があって一体どこに行けば良いか分からない。


”正面を左に進んで”


脳に言葉が生まれる。それはルルティナのものだった。


”これが私があげたもの。道は私が案内する”


抑揚が無くともなによりも頼もしい声。


俺は、うん、と頷いて、


「クロムさん、こっちですっ!!」


そう言って、先へと進んだ。


「ちょっ、待てやっ!」


進む度に、沢山の魔獣が行手を阻む。だが、それらは一瞬にしてクロムの剣撃によって吹き飛ばされる。


この人、こんなにも強かったのか。俺は改めて感心した。


彼の目は常に前を向いている。その瞳に浮かぶ炎が彼の気持ちを代弁している。


”次の門を潜って”


言葉の後、目の前に巨大な凱旋門が出現した。


「こっちかっ!」


クロムの脚に速度が増す。そのまま門を突っ走るかに思えた。


「がぁっ!?」


しかし、音速に見えたクロムの身体は門を直前で停止する。


いくら叩いても先へは進めない。そこには見えない壁があるかのようだった。


「何でや、何で進まれへんのやっ!?」


焦りと不安に満ちた声が回廊に響く。


俺の前しか見ていなかった表情に亀裂が入る。


ここまでなのか...そう思った時、再び言葉が聞こえた。


“レン、その門を潜って”


ーでもっ!


“信じて。その為の貴方”


言葉に促されるように俺は恐る恐る門へと脚を進めた。すると、何事も無かったかのように身体は門を通過する。


「...何でお前通れんねん...」


“魔力を宿す者を退ける門。この世界の人間は勇者以外誰も通ることが出来ない”


「お前一体何もんなんや..」


驚きと怪訝に満ちた表情でクロムは俺を見る。


その時、幾多もの魔獣が出現する。先ほどと比べ物にならない量。向こうも必死で止めにきている?


「いけ」


クロムは背中を向けて告げる。


「でもっ!」


「正直俺はお前が気に食わん。弱い癖にちゃっかり仲間に入ってきおって、いっつも姫様の隣を占領しよる。アイツを守るのは俺って決まっとったのに」


はぁ、と肩がすくんだ。


「まぁ、今回の見せ場は譲ったる。じゃけど、お前なんかに姫は渡さかんからな」


「それって」


その先を俺は言えなかった。


「...じゃから、絶対取り戻せ。その命に変えても」


そう少しの間の後、彼は告げた。俺はもう一度顔に力を込めた。


「はいっ!」


腹一杯の返事をした後、門の向こうから長い何かが投げられてきた。


「後、その刀持ってけ。お前の鈍よりはよう切れるやろ」


いつものかったるそうな声だった。俺は全力で頭を下げる。


「クロムさん、今までありがとう御座いましたっ!」


礼を共に走り去っていくレンの姿をちらりと見た後、クロムは腰に付けていたもう一つの鞘を引き抜く。


それは以前友人となった者が使っていた名残のある剣だった。


「ロックスよぉ。結局俺ら二人貧乏くじやわ」


そう一人で呟く。


全くだ、とアイツなら言うのだろうか。


様々な感情が蠢く。だけど、だからこそ、それらは最後には一つの言葉へと集結する。


そして、真っ直ぐと目の前に迫る幾多の魔物を睨んだ。


「「ここだけは絶対に通さんっ!!」」



ーーーーーーーーーー


クロムと別れてから、魔物が出てくることは無かった。


道の先で凄まじい音が聞こえる。


“ここから先はアンチ魔法の領域”


…え。


私が指示できるのはここまで”


それを聞いた瞬間、前しか向いて居なかった気持ちが揺れた。身体に空いた穴から侵入してくる不安に晒される。


...ここから先は本当の一人、そう思った時だった。


“大丈夫。貴方には皆んながいる”


それを最後にルルティナの声は消えた。だけど同時に、身体を覆おうとしていた影は無くなっていた。


拳と足に力を込め、俺は最後の門を抜けた。


すると、そこにあったのは地べたに這いつくばって動かない少女の姿だった。


「姫っ!!」


俺の声に微かに眉が動いた。良かった。まだ息はあるようだ。


「オマエハダレダ」


悍ましい声が空間に反響する。禍々しいオーラを纏ったそれは俺と変わらない人間に見えた。女なのか男なのか、その素顔は歪な仮面によって閉ざされている。


「あれが魔王...」


空かさず剣を構える。その時、焼けるような痛みが肩を襲った。


...え?


魔王の指から放たれた黒いビーム。それは目に見える間も無く俺の肩から血を溢れさせる。


「ぐぅ..」


痛みに思わず歯を噛み締める。しかし、相手の攻撃は容赦なく弾丸のように降り注ぐ。


どうにか躱そうとするも、数発の一回は被弾する。その度に全身に激痛が走る。


「姫、起きてくれっ!俺じゃ勝てないっ!」


悲鳴にも近い声で俺は隣の少女に問いかける。しかし、一向に反応はない。


こうしている間にも、俺の身体には幾つもの穴が開いていく。


痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


皮膚が焼ける。肉が引き千切られる。脳が割れていく。


数秒後、俺は死んだ。その瞬間、リナリアの首飾りの効果で、傷は瞬く間に完治していく。


「うぐっ...うぅ...」


しかし、立つことが出来なかった。後2回、死ぬ気のダメージでも耐えれる。だが、さっきの痛みは治った今でも身体に刻ませる程強烈なものだった。


もう一回同じのを食らう、それを考えただけで、もう動けなくなっていた。


魔王の手が俺に向けられる。俺は頭を抱えてうつ伏せになる。


「嫌、嫌だ...」


「ヨワイ、ヨワスギル、イミガワカラナイ、ナゼシニニキタ」


声が毒のように身に染みていく。同時に、後悔が頭の中の支配していく。


何で俺はここまで来たんだ...こうなることは分かっていたのに...。


俺は馬鹿だ。何が諦めないのがカッコいいだ。まだ負けてないだ。絶対連れ戻すなんて言うんじゃ無かった。


もう嫌だ。こんな現実、こんな夢、さっさと覚めてくれ...。


“レン”


頭の中で声が聞こえた。その時、途絶えかけていた炎に再び火がつく。


俺は生まれたての子鹿のように全身を震わせながら立ち上がった。


「ナゼタテル?」


「うわぁぅ!!うぐぁっ...」


刹那、俺の左足が吹っ飛んだ。同時に記憶に焼きついた以上の痛みが脳を支配する。


「ナゼアラガウ?」


「ぎぁっ..」


胸に風穴が空いた。また俺は死んだ。だけど、再び首飾りの効果で完治ののち立ち上がる。


「リカイフノウダ」


「俺も分かんねぇよ。分かんねぇけど...」


“上手い飯でも作って待ってるからな”


“みんな揃ったら記念の祝杯をあげましょう”


”じゃから、絶対取り戻せ。その命に変えても”


”大丈夫、貴方には皆んながついてる”


「俺にも背負うものが出来たから..」


「…オワリダ」


魔王から放たれた爆風に触れた瞬間全身が弾け飛んだ。死んだ。確実に。もう回復の回数も使い切った。


ごめん。ゴードンさん、リナリア。ルルティナ、そして、クロムさん…。頑張ってみたけど届かなかった。


結局、俺は何物にもなれなかった。みんなに願いを託されるような人間じゃ無かった。


思えば、結構長い時間、この世界に浸っていた。毎日生きるだけで必死だったけど同時に自分の中で一番生きたと思える日々だった。


ここで終わるのは名残惜しいけど、俺の割には充分…


ー諦めるのか


誰かがそう告げた。姫でも、その仲間たちでも、クラスの連中でも無い。


=諦めたつもりはない。ただここが俺の限界だった。


ーそうやってお前はいつも限界を決めつける


=勝手なこと言いやがって。俺は俺なりに…


ーその俺なりは誰が決めたんだ?


ーお前は弱い。誰よりもこの場に相応しくない。だが、それでも、お前にしか出来ないことだってある。


他の誰でもない自分の声に促されるように、俺の意識は深い闇から浮上していった。


「コレデワレヲジャマスルモノハイナクナッタ」


魔王は玉座から降り、ゆっくりと姫の元へ迫っていく。


「待てよ…」


空間に掠れた声が反響した。魔王の首がゆっくりと向く。

そこには血だらけになりながらも原型を留めて立ち上がる蓮の姿があった。


「スデ二サンドコロシタ。モウマリョクノニオイモカンジナイ。ナノ二ナゼ」


考えてみれば、簡単な話だった。この世界は俺の夢の中。なら、目覚めない限り俺はここに留れる。


だが、痛覚は変わらない。心臓が爆発すれば血は逆流し、四肢がもがれれば全身に電撃が逬る。


今の状態でこの世界に自分を繋ぎ止めるのはかなりの精神力が必要だ。


意識を失い強制夢落ちか。激痛の末自ら目覚めを選ぶか。


つまり、これは自分との戦いだ。


「我慢比べと行こうぜ、魔王様」


「ナラクルシメ」


笑い飛ばした俺に魔王の容赦ない攻撃が襲いかかる。

手足は何度も吹っ飛び身体にはいくつもの風穴が開く。そして、粉々にたったところをどうにか気力で身体を繋ぎ直す。


そのまるでゾンビのような光景に、仮面からでも分かる動揺が見えた。


意識が遠のいていく中、頭の中に勇者団での日々が浮かんでくる。そこにいる皆んなは傷つきながらもいつも誰かしら笑っていて、それに釣られて、俺も知らぬ間に笑っていた。



ー姫。俺やっと気づいたんだ。俺はこの世界でずっと救われてた。立ち止まっていた俺に歩き方を教えてくれた。


「...イッタイドコニソンナチカラガ...」


魔王の声が震えた。だけど、満身創痍を何度も超えた俺には届かない。


ー...だから、恩返しがしたいんだ。俺の幼馴染と似ているからじゃない。他でも無い君に、俺の中の勇者である君自身に。


「ありがとう。やっぱり来てくれたのは君だったんだね」


ユラユラと倒れそうだった身体が暖かい温度に支えられる。


首を向けるとそこには待ち望んでいた少女の姿があった。


「姫…」


少女は俺の身体をゆっくりと地面に下ろし、ニッコリと微笑んだ。


「後は任せて」


少女は剣を抜き魔王の元へと歩き出す。


「コレホドノサガアルノヲシリナガラナオモイドムノカ」


「挑むよ。私は勇者だから。仲間が、数百万の人たちが私の背中を支えてくれている。孤独な貴方には絶対に負けられない」


力を自信にあふれた姫の表情。その言葉に魔王の態度に明らかな動揺が見て取れた。


「ダマレ、ダマレ、ダマレッッッ!!!!」


穏便だった声が初めて荒げる。


その瞬間、いくつもの黒い腕が姫の元へと迫った。


「はぁっ!!」


突如、剣身が光に包まれ闇から差し伸べる腕を切り落とした。


彼女の身体が眩い閃光を纏っていく。その背中に俺は沢山の人々の影を見た。


魔王の身体から悍ましいほどの闇が溢れ出す。そして、光と闇は正面から衝突する。


力は拮抗しているかに思われた。だが、徐々に光が闇を包み出す。


「っ!」


めいいっぱいの叫び声が響く。


「これが私たちの力だっ!!」


姫の剣身が魔王の心臓を貫いた。本来の人なら即死。だが、魔王の腕は尚も持ち上がる。


「セメテ、ミチズレニ...」


「危ないっ!!!」


俺は死に物狂いで叫んだ。だが、その腕が振り落とされることは無かった。


姫は逃げも隠れもしなかった。その手が冷たい仮面の頬に置かれる。


「ねぇ、貴方本当は寂しかったんでしょ」


「……」


「何となく分かるんだ。実は私もそうだったから。何かが違えば今の貴方の立場にいたのは私だったかもしれない」


「.....」


「でもね。誰だって最初は1人で孤独なの。皆んな自分にしかない悩みや不安を抱えて生きてる。でもね、あることをしたら私にも仲間が出来たんだ。その方法を貴方にも教えてあげる」


彼女は笑って告げる。


「それは勇気を出すこと」


「…ユウキ…」


「そう勇気。それが貴方に唯一足りなかったもの。だから、次は勇気を出してみて。大丈夫。きっと支えてくれる素晴らしい仲間が出来るよ」


先ほどの光にも負けない暖かい声だった。


「ソウカ、オレはずっとそれを…」


魔王の仮面が崩れていく。そこから現れた顔はレンと瓜二つだった。


眩い光がもう一度一面を染める。


全てが終わった時、魔王の姿は消えていた。


「やった…やったっ!」


俺は彼女の元へ駆け上がる。痛みとか力が入らないとか全てがどうでもよくなるくらいただ全力で走った。


「姫、これでやっと…」


俺の顔に笑顔が溢れようとした。

しかし、その時、勇敢に立っていた後ろ姿が簡単に崩れ去った。


「姫っ!!?」


俺は咄嗟に彼女の身体を抱き抱えようとした。すると、とてつもない速さでその全身から体温が失われていく。


「...勇者の宿命本当だったみたい...」


震える唇で彼女は告げた。


「宿命、なんだよそれっ!?」


「魔王の倒すのは勇者の放つ全霊の光。それを全て捧げることで世界を救うことが出来る。そして、光を全て失った者に待つのは死」


「何だよ、冗談だよな?ゴードンさんだって、リナリアだって、ルルティナだって、クロムさんも直ぐその先で帰りを待ってるんだ。皆んなまだまだ伝えたいことが山ほどある。こんなところで死んでいいはずないっ!」


「ねぇ、レン...」


「声出すなっ!今方法を考える、考えるから....」


目を瞑り、自分の頭を握る手に力が入る。生まれて全ての知識を持って思考を回らす。なのに、現状を打破する策はたった一つも湧いてこない。


「何でだよ...こんな結末おかしいだろ...」


こうしている間にも彼女から生気はどんどん失われていく。彼女の肌は昔病院で見た春乃のように青白くなっている。悔しさと悲しさでどうにかなってしまいそうだ。


「...私レンのこと好きだった」


「...え」


突然の言葉に、俺は閉じていた目を開いた。


「レンだけじゃない。ゴードンも、ルルティナも、リナリアも、そして、クロムとロックスも。皆んな皆んな大切な私の一部だった。でも、まだ何も伝えられてないや..」


「なら、ダメだろ。こんなところで消えてちゃ...」


「確かに、こんなんじゃバチが当たったちゃう。あーぁ、地獄には行きたくないな..」


そう冗談まじりに言う口元は笑って居た。


「何でこんな時も笑ってるんだよ..まだ俺と同じ歳しか生きてないのに。やっと勇者から解放されるっていうのに..」


俺の涙は壊れたように増していく。それを見て姫はクスリと笑った。


「変なの。何でレンの方が泣いてんのさ」


「...俺は無力だ。せっかくここまでたどり着いたのに。何も出来ない。ただ泣くことくらいしか...」


声に鼻水と涙が入り混じって何を言っているのか自分でも分からない。このまま俺は彼女を失うその瞬間を待つしかない。


「...ねぇ、レンは前、君の世界に私に似てる人がいるって言ってたよね」


優しくも風が吹けば消えてしまいそうな声だった。彼女の瞳からは既に光が消えている。それは大切な人が腕の中から消えるまでそう遠くないことを示していた。それを知るのが嫌で俺は再び目を瞑った。


「何で今更その話...」


「私、何となくその人の気持ちわかるんだ。私みたいに普段は強がってるんだろうけど、きっと中身は周りよりもずっと繊細なんだ。ちょっとのことで傷ついで、でも、顔に出さないように必死で。本当は悩み事だってたくさんある癖に...だから、その子にはレンが必要なんだよ」


悟ったように言う。だけど、俺には到底そうは思えなかった。


「そんなわけない..現実の俺はここよりもずっと弱虫で、情けなくて。アイツの隣に立つ資格なんて...」


「本当レンはバカだな」


そう微かな音と共に、冷たくも柔らかい手が頬に触れた。


俺は目を見開き背けていた少女を見た。


そこにいたのはこれまでに見たこともないくらい笑顔を咲かせた姫の姿だった。


「隣じゃ無くても良い、前で手を引かなくてもいい。大事なのは側で支えたいと思う心だよ。君が今ここまで辿りつけたように。私が最後まで笑っていられたように」



“レン、君はもう沢山の勇気を手に入れてる。後は、その勇気を出すだけ。大丈夫、だって、君はもうーー


微睡の中に響いた声と共に、視界が光に包まれていく。


ーーーーーー


魔王との一戦以来、俺があの世界に入ることは無くなった。仲間たちがどうなったのか。あの世界はどんな一途を辿るのか。もう俺は確かめることすら出来ない。だけど、きっと俺は姫を救うことも、皆んなとの約束を守ることも出来なかったのだろう。


そして、あの日の後悔は、まるで光で焼き付けられた写真のように今も鮮明に胸に刻まれている。


やはり、俺は無力だった。どこまで行っても凡人止まりで漫画のような奇跡を起こすヒーローにはなれない。


だけど、それでもーー


「何、急に屋上に呼び出して。私、放課後、上条先輩との待ち合わせあるんだけど」


昼休み。屋上に呼び出された春乃は不機嫌そうに目を細めて居た。


「あー、悪い、それは..でもっ!俺からも、ちょっと伝えたいことがあってっ!」


音量を間違え半ば叫んだようになってしまった。それにびっくりしたのか彼女の顔がしゅんと引く。


「それって...」


「俺、俺は...」


言うんだ。ちゃんと自分の伝えたいことを


「俺は文章の勉強をしようと思うっ!」


「・・・は?」


豆鉄砲でも食らったような顔で春乃は首をかしげた。しかし、そんな様子は話すので必死な俺の目には最早入っていない。


「俺、考えたんだ。どうしたら、今度もお前の側にいられるかって。その時、思いついたんだ。シナリオ書ければ、漫画の手伝い出来るくねってっ!」


「蓮」


「何っ」


「舐めすぎ」


「え」


まさかの言葉に俺の開きっぱなしだった口が塞がった。


春乃は、大きなため息をついて、手をバタバタとさせる。


「いるんだよなぁ。漫画読んでて、え?こんな話俺でも作るれるんじゃね?って思う人。それで、実際、やって見ると、200字ぐらいで恥ずかしくなって消しちゃうのが大半っていう。どうせ今回も齧ってすぐ辞めるつもりなんでしょ」


どうやら全く信用されて居ないらしい。俺ってここまでダメ人間扱いされていたのか...。


「辞めないっ!もう本買った。ほらっ!」


といって、あらかじめ用意して置いた本を出す。


「本買うやつ大抵続かない説立証」


「立証すんなっ!これからだわっ!」


俺も必死に声を荒げる。しかし、彼女の死んだ魚を見るような目は一向に治る気配がない。


「冗談抜きで甘く無いよ。私、本気で面白いシナリオ書いてくれる人じゃ無いと委託しないから」


それは彼女にしては酷く芯の入った声だった。その中にはきっと彼女が経験してきたからの重みが含まれている。


俺は大きく息を呑んだ。次にどんな罵声を浴びせられるのだろう。


「だから、やるなら死ぬ気で頑張ってよね」


え?と前を向く。彼女は呆れつつも何処かその表情は嬉しそうだった。


それを見た時、未だに迷っていた俺の心を優しい手が押した。


そのまま突っ走るようにずっと奥底にしまっていた言葉を吐き出した。


「春乃」


「ん?」


「好きだ」


刹那の突風が吹き荒れた。それは彼女の綺麗な赤色の髪をしなやかに靡かせる。


そして、彼女の姿は夢の中の勇者にも負けない最高の笑顔へと変わってゆく。


「待たせすぎだ、バーカ」


俺はまだまだ子供だ。世間でも役割はただの学生で、未だ小さな教室の中しか世界を知らない。


だから、この先俺にはたくさんの苦労がやっている。いくつも困難にぶち当たり、時には、泣きそうなって、胸が苦しくなって、ある日、全てを投げ出したくなる時が来るかもしれない。


だけど、きっとそれでも前に進める。それだけの勇気を俺は貰ったのだ。


行こう。次の授業が始まる、そう言って彼女の手を掴んだ。その手は、冷たくも抱きしめたくなるくらい柔らかかった。


読んでくださった方ありがとう御座いました。ありきたりと思われる方もいるかも知れませんが、少しでも良かったと思われる方がいれば幸いです。

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