初めての…
新藤 香 17歳女子
極々普通の高校三年生
小学校から大学まであるエスカレーター式の私立高校に通っているが、高校二年生の最後の評定平均が良かったからと、大学受験をする事にした。
「まぁ、評定がこれだけありますから一般受験でさらに、上の大学も視野に入れて行った方が良いのかと…」
担任との面談でそんな事を言われてしまえば、確実に"受かる" と、思うじゃないの!
「特に香さんの目指している国立大学の法学部でしたら、偏差値も越えてますし、このまま勉強していければ問題はないかと…」
そんなんだから、一学期の成績はクラス順位下から数えて、三番。
成績はダダ落ち。
そんな事があり、親戚の叔父さんの家にホームステイで勉強を教えてくれると言うので、今、向かっている。
これもまた、おかしな出来事続き。
確実に母親にハメラレタ?!のです。
一学期の成績が出された日。
夕方母親から
「あんた、成績表見せなさいよ」
渋々そーっとリビングのテーブルに置いて、自分の部屋に逃げようとした所
「なんなんのこれは!」
言わずとも知れたお説教が始まり、あげくのはてには
「何の為に高い学費出して来たと思ってんのよ」
散々けなされたあげくに
「こうなったら、現役合格してもらうから覚悟しなさい」
そう言ったかと思えば、今度は何やら何処かに電話をしている。
よそ行きの声に切り替えて
「ご無沙汰しております~」
その後は何やら話し込んでいたので、そーっと部屋を抜け出したんだけど、夕飯で本題になった。
「あんた明日から八重子んちで勉強教えてもらえることになったから、夏休み中行ってきなさい!」
八重子さんとは、母の妹。
再婚して藤崎になっている。
しばらく会っていないけれど、たしか農家に嫁いだと聞いていたが…
迎えに来たのは、八重子叔母さんのご主人で、会うのは初めて。
お母さんは一度会った事があるっていってたけど…
「はやくしなさい!」
はいはい。そんなに叫ばなくても聞こえてますし、今いきますって!
せっかちなお母さんをまともに相手するのは疲れるので、適当に交わすことにしている。
子供の方が大人だと、良くお父さんは言っているんだけど、それで良く喧嘩になるパターンでもある。
玄関で待っていたのが…
えっ?
確かに農家のおじさんだ。
八重子おばさんにしては、何故?って思うような人だった。
「初めまして、香です」
初対面なのできちんと挨拶だけはしておく。
「いや~香ちゃんかいよろしくな、じゃあお姉さんお預かりいたします」
「すみません急にお願いして、香御迷惑お掛けしないように、しっかり勉強してらっしゃい」
お母さんの励ましの言葉=プレッシャーを掛けられて玄関を出た所で、足が動かなくなりました。
家の前に黒塗りの高級車が停まってて、車の直ぐそばには、がたいの良い男の人が二人 こちらを見ている。
やばくない? このまま家を出て良いのだろうか…
藤崎の叔父さんは見えているはずなのに、全然動じていない。
「あの…」
「どうした香ちゃん、ごめんな、気がつかなくて」
その後がたいの良い男の一人に向かって
「おい」
えっ?
「はっ。お荷物お持ち致します」
私の持っていた鞄とキャリーケースを軽々もち、黒塗りの高級車のトランクに入れ、後部座席のドアを開け
「ボスどうぞ」
それに答えたのが、藤崎の叔父さんで
「ああ、さぁ香ちゃんも乗った乗った」
現実の目の前、極道の人がいるのを目の当たりにして、ひきつった顔を戻すのにどれだけ時間がかかっただろうか…
「道中長いから、ゆっくりしていくといいよ」
車は高速に入り快適な車中だが、隣を見れば口を半開きでイビキをかいて寝ている叔父さんがいる。
見てはいけない物を見てしまった?
途中サービスエリアで休憩をするが、私の三歩後ろには、運転手の林さんが付いてきている。
叔父さんが
「こんな所で何かあったらお姉さんに顔向け出来ないから、うちの者付けてってくれ」
嫌々、余計に目立つし誰もよってきません!
むしろお巡りさん来そうだけど、しかも女子トイレに私行きますが、そのまま、付いて来ないで下さいよ!
「私はこちらでお待ちしております。何かあったら大きな声で御呼びください」
深々頭を下げられる始末で…
悪い人=見た目
見た目ほど悪くはない=中身
だと思われます。
トイレを済ませて車に戻ると、何やら美味しそうな匂いが、するではありませんか!
叔父さん…
今日は旅行ですか?
「嫌々久しぶり高速乗ったから旅行気分になったよ」
心の声聞こえてしまったのでしょうか…
高速道路も壁しか見えなかったのが、木々の緑が多く車窓から見える様になってきた。
タヌキやシカに注意の電光掲示板が出ている辺り自然豊かな場所である。
窓を開ければ蝉の合唱する鳴き声が聞こえてきて、思わず
『寿命短いのに…』
と、思ったが、そんな事を言えるはずもなく、怖い運転手さん林さん以外は、静かに目を閉じている。
気がつけばウトウトとしていたのだろう。
眠りを誘う状況が揃っていたのだから…
どれくらい経ったのか、目を覚ませば一般道を走っている。
辺りは、西洋の屋敷が多く見受けられる観光地になっていた。
木々の隙間から射し込む陽射しは大分傾いている。
突如見えて来た屋敷が、周りとは調和のとれていない日本家屋の大きな屋敷が見えた。
車のスピードが落ち、屋敷の敷地の前の門が開いて、車は更に中へと進む。
大きな松の木の回りを半周し、車は停車した。