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2話 入学式前日

よろしくお願いします

リアル事情により、更新は少しずつ行っていきます


ようやく街中に入れたであろうところで、僕は大きく深呼吸をする。いつも通り体が動くことを確認して、自身の体内にある魔力を呼び覚ます。


「エコーフィールド」


そう言って前後左右上下全ての方向へ流れる音を脳内で全て認識する。

周囲の人々による足音、話し声、馬車の走る音、すべての音が反響していくにつれ僕の脳内に街の地図が構築される。


「ヒートサーチ」


次いで、自身の周囲の温度を検知。生物などの存在を熱で把握する。


この、脳内に完成した二つの情報を頼りに僕は前を向いて足を踏み出す。


僕には視力がない。小さい頃に魔族の兵士に村が襲撃されて、その時に目を斬られたのだ。

そんな僕が周囲の状況を理解するために師から学んだ探知魔法。それがこのふたつである。

僕に使える魔法は、探知・鑑定といった本来目を使うような魔法二種に特化していてこれ以外の魔法は一切使えない。


血反吐を吐くような修行の結果、僕はこの二種に分類される魔法だけではあるが異常な性能を発揮させることができるようになった。といっても種類は魔法の使える騎士の平均からしたら少ないものだが。


さっきは発動した二種の魔法は、普段から睡眠時以外は常時発動しているようなものなので、一日活動すれば僕の魔力の8割を消費してしまう。そのため、使いたい場面でほかの魔法を使える回数はとても限られている。


この魔法の修行を思い出したら、今でも身震いしてしまう。あまり思い返さないようにしよう。

...フラグじゃないよ、きっと。


僕のこんな境遇を聞いて憐れみ、同情してくれる人は沢山いた。けれど、僕にとってあの事件は天啓だったのかもしれない。

僕の生き方すべてはあの瞬間━━━僕を救って、微笑み、安心させてくれたあの人の背をみた瞬間━━━決まったのだから。


「明日が入学式だから、早く寮へ向かって早く寝ないとね。入学式から遅刻なんて嫌だし」


カバンとリュックを持ち直して、僕は歩を進めた。






...そして迷った。

そう、頭に地図があろうが関係ない。僕は方向音痴なのである!

辺りはもう真っ暗だ。夜の始まりを知らせる大聖堂の鐘が鳴っていたし...


「あーもう!最初から人に聞いておけばよかったよ!」


狭い裏路地に僕は佇んでいる。こんな所に寮があるはずがないのになぜ僕はこんな所にいるのだろうか。


「方向音痴にも程があるだろ僕...」


5歳までを小さい村で過ごし、その後は森の中で過ごし、たまに街まで出かけた時はあの人が一緒だった...方向音痴の酷さが発揮される場面がなく気づかなかったのだろう。


トボトボと幾多の曲がり角を通り抜け、なんども脳内地図を確認して、ゆっくりと大通りに向かう。とにかく大きい通りにでて、人にでも聞こう。僕一人だと一生辿り着けないかもしれないし。


路地の分かれ道からは下品な笑い声や浮浪者の喧騒、怒号が聞こえてくる。騎士の子を育成する学園の寮がこんな陽のあたらない場所にあるわけがないのである。


ほんとに何度も言うが、なぜ僕はこんな路地を本気で寮へ続く道だと思っていたのか。


と、また意気消沈して一瞬立ち止まったその時である。

足元に違和感を感じた。なんというか、地響きのような音や削るような音、それにこれは...


「人の声、だよな?」


僕は足元の硬い地面をコンコンと叩いてみた。僕が叩いた音は...地下へほんの少し反響していた。

これは、地下に何かしらの空間があることを示しているのだ。おかしい、とはどこか思いつつ、エコーフィールドの効果を地下方向へと注力する。


うん、疑う余地はない。地下空間があるしそれに...人がいる。それも、地下で一緒にいる生き物から逃げていたのだろう。

少し別の位置から化け物のようなうめき声が聞こえてくる。


「これは、無視は出来ないよねぇ」


ここは王都だ。人間の最大勢力だし、なにかあっても対処はしてくれるだろう。

僕は、危機かもしれない他人を見捨てるために学園に行って騎士に、英雄になりたかった訳じゃない。それにこういう場面になれば英雄なら絶対に助けに動くだろう、たとえそれが無駄だったとしても。


近くにリュックとカバンを置いて、リュックに差していた布に包まれた長い棒を取り出す。


右手に棒を持って一振。

それだけで、布が宙に舞って僕の小さな身長ほどある、鞘に入った細身の剣が現れる。


師匠から貰った大事な僕の分身。太古の英雄が携えていたとされる名剣の銘を借りたもの『ディース』

この名を持った剣は伝説上にて、「神を裁く」力があったとされ英雄はこの剣で神をも凌駕したという。

もちろんこの剣にはそんな力はなく、圧倒的な切れ味があり美しいだけの剣ではあるが。


今から、人のために剣を振るう。そう考えるだけで僕の心に勇気が生まれる。


(僕は、あの人に近づけているかな...)


一瞬、そんなことを考えたがすぐに意識を戻す。そして、勢いをつけて足元へと突き刺した。

普通なら折れてしまうようなその剣は、まるで豆腐を突き刺すかのように硬い地面を穿つ。


「『円斬』」


地面に刺さったままの剣を動かし、高速で地面に円を描く。そして次の瞬間、


ドカッ!


と音がして人が一人通れるような穴ができる。


「よっし!」


飛び降りて、地下空間に降り立つ。念の為にリュックからフック付きロープを取り出す。


こんなものいらないって言ったんだけどなぁ...まさか使うことになるなんて。

ちなみに他にもいらないようなものが沢山入っている。親バカな人だよ全く。


地下の空間は把握できていたし、特に問題は無い。


さて、背後におりますは女の子...歳は12や13ぐらいかなって言う大きさ。

前におりますは、中型サイズの虎の魔物二匹。


どちらも僕を見て警戒しているのがよく分かる。当然だろう。僕だって同じことが起きたらとても警戒する。


当然、警戒もずっとそのままでは無い。虎二匹は僕へと真っ直ぐに駆けてくる。

けれど、このぐらいの魔物なら大丈夫。だって今まで何匹も...斬ってきたのだから。


半身になって突進を回避すると同時に虎二匹を同時に捉えるように剣を添える。


添えるだけ。


そして次の瞬間。虎は音もなく縦に真っ二つになり、その死体が地面に転がる...寸前に光へと変化して虚空へと消えていった。


この現象は知っている。これは...


(召喚魔獣...?この子追われるような事情抱えてるのか)


召喚魔獣は、その名の通り魔法により召喚された魔獣である。主の命令を柔軟に遂行する、召喚術士にとってパートナーのようなものである。

死んでも光へと変化して空気中の魔力に還元されていくのが特徴である。ちなみに、倒されても魔力さえあれば何度も召喚可能である。


そしてこの子、召喚魔獣に追われるということは何かワケありってことである。


「とりあえず、ここから出ようか」


左手で女の子の手をとり、右手でフック付きロープを穴の上へ投げる。ちょいちょいと引っ張りしっかり引っ掛かっていることを確認すると女の子をグイッと引っ張り、


「ちょっと失礼しますね、っと!」


「ふぁ!?」


左手を使い肩に担いで、右手をロープに添える。するとロープが自動で巻取られて登っていく。


登りきると、肩の上からゆっくりと女の子を下ろす。

ほっと一息つくと、背後からオーラを感じる...


「肩に...担がれた...」


女の子が黒いオーラを出しながらがっくりとしている。


「ごめんなさい。けど、助けてあげたからそこは許して欲しいなぁ...なんて」


「うん...大丈夫、あんまり怒ってないから」


「なら良かった。じゃあ、目的地まで送っていくよ」


さ、行こう。と手を差し出したのだが、女の子は首を横に振る。


「ちょっと待って...しばらく見ないで欲しいの、着替えるから」


「へ?」


なぜ今?なぜここで?おかしくない?とは思ったものの、本当に着替えられたらさすがに困ってしまうので魔法を解除する。


ガサゴソと布の擦れる音が聞こえてくる。すぐ近くで女の子が着替えているのだ、意識はしっかり周囲の警戒に当てておこう。魔法は解除してあるが気配くらいは感じられる。


しばらくしてから、バシュっと音がする。


そして静かになる。

あれ?静かになっても声をかけてくれないんだけれど...なんで?


魔法をもう一度起動する。

そこには女の子も、その辺にいるような浮浪者ですらも、誰もいなかった。


ありがとうございました

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