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イキガミちゃん  作者: とうふーしゃ
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第2話 少女の想い


ミカの祖母の病室の前に来た。何故だろう少し緊張している、考えてみれば死が迫った人間を観察するときはいつもどこかで緊張していた。これは私がまだ仕事に慣れていないからであろうか。


 私たちにとっては死というのは身近でありふれているものだ。死んでいるというのは魂の一形態でしかないし、生きているときの身体は箱に過ぎない。死んで魂だけになれば、自然にそれを理解するという。しかし、生きている人間は死を終焉と捉えてしまうようで、私に命を乞う。

 ミカの祖母は命を与えるにふさわしい人間なのか、そうでないのか。そんな考えはミカの言葉でかき消される。


 「おばあちゃんきたよ」


 そういうとミカは勢いよく病室の扉を開けた。


 「こらミカちゃん、静かにしなきゃだめだよ」


 この若干低い声の主は、全身にチューブを装着し生きているというよりは、生かされているといったほうが正しいような姿であった。まあ何もしなければ明日死ぬのだから仕方ない。


 「えへへ、おばあちゃんおともだちだよ!」


 「こんにちは、あかねです」


 丁寧にあいさつをするとミカの祖母はこちらを向いて笑いかけてこういった。


 「ごめんね、少し耳が遠くてよく聞こえないから、近くに来てくれるかい?」


 なんだ聞こえていなかったのか、先ほどからミカの声が少し大きかったのはそういうことだったのかと思った。


 私はミカの祖母に近づき改めて丁寧にあいさつをした。


 そこそこ広い病室にはベッドが4つしかしほかの入院患者が見えない他人の荷物などが見えないことからもおそらくこの病室は実質的にミカの祖母の個室として扱っているのであろう。まだ小さいミカがお見舞いに来ることを知っての配慮かもしれない。


 私が辺りを見回しているとミカはカバンの中からおもむろに何かを取り出した。リンゴと呼ばれるフルーツでとても甘いらしい。


 「おばあちゃん、リンゴもってきたよ!」


 ミカの祖母は嬉しそうにミカの頭をなでた。しかし明日死ぬような人間が固形のフルーツを食べられるはずもなく、ミカの祖母はこういった。


 「おばあちゃんおなかいっぱいだから、あかねちゃんと一緒にお食べ」


 ミカは少し悲しそうな顔をしたが私のほうへ振り向くと途端に笑顔になり一緒に食べようと誘ってくれた。


 普段は看護師がリンゴをむいてくれるそうだが、なかなか来そうにないので私がむいてあげることにした。しかしこれがまた難しい、ナイフを使って薄い皮だけを器用にむいてしまう人間はなんなんだ。


悪戦苦闘しながらもなんとかリンゴの皮をむき、8個に切り分けた。私だってやればできるのだ。


 「むけたぞ、どうだ」


 「あかねちゃんていがいと...」


 「ええいうるさい、早く食べるぞ」


 おそらくあまりよろしくない評価が私に向く前にリンゴを口に運ぶ。その瞬間甘みが口いっぱいに広がり、先ほどまでの不満が吹き飛んでしまった。今私の顔はどのようになっているのであろう、きっと幸せに満ちただらしのない顔をしているに違いない、だがしかし、それほどまでにおいしい甘く瑞々しい果実、アダムとイヴの気持ちが分かってしまう。これは食べてしまうよ。


 「ふふっあかねちゃんかわいい」


 「おわっ」


 ミカは私めがけて飛んで抱きついた。いったいどんな顔をしていたというのだ私は。


 「あかねちゃんのそのかおすき!」


 どうやら私は女の子に告白されてしまったようだ、しかし何というか...


 などと考えているとミカがつまようじに刺したリンゴをこちらに向けてきていた。いったい何のつもりであろうかと考えていると。


 「あーん」


 「あーん?」


 口を開けてほしいようだったので口を開けるとリンゴを突っ込まれた。やばい、おいしい...


 「おいしい?」


 「ああ。うまいな」


 少し威厳を保とうと固い口調で話すことを意識してみたが、どうやら私の表情筋は機能を停止してしまったらしい、クビにしてやりたい。


 「本当に仲がいいんだねぇ」


 そんなやり取りを見ていたミカの祖母はそう言うと、ミカに少し出て行ってほしいと頼んでいた。どうやら私に話があるようだ。


 「じゃあ,すこしおさんぽしてくるね」


 ミカは今度は静かにドアを閉めて階段を下りて行ったようであった。


 私とミカの祖母の間には若干の緊張した空気が流れる、何を言われるのか私は神妙な面持ちで彼女の発言を促した。


 「ミカにつき合わせてごめんねえ」


 「いえ、友達ですから」


 「君はどこから来たのかな?」


 「遠いところから...」


 私はここで正体を明かすべきか考えた、ここで正体を明かしても容易には信用してもらえないかもしれない。しかし今後のことを考えれば明かしておいたほうが、と考えていると彼女から驚くべき言葉を得た。


 「さっき死神様が来てねえ」


 私は続く言葉を沈黙をもって促す。


 「明日の7時過ぎにはもう死んでしまうというんだ」


 それはさっき私も聞いたので知っている、おそらく彼女であればヤケになって暴れだすこともないので伝えたのであろう。


 「私はもう長く生きて、かわいい孫を見られて幸せだった。それに痛いんだ、すごくつらい」


 「でも、ミカを守ってあげられなくなることはもっとつらいねえ」


 長い長い闘病生活の中このおばあさんは激しい痛みに耐えてきたのであろう、想像を絶する苦痛に耐えてまで生に縋る理由はミカのためであることを感じ取った。


しかしそれももう限界であり、死神の宣告によって生をあきらめ、腹をくくったのであろう。死は怖いだろうに。それでも、その死よりもミカを守れないことがつらいという、本当に愛していることが分かる。思わず私はおばあさんに質問していた。


 「もし、まだ生きれるとしたら生きたいですか?」


 「そうねえ、ミカが成人するまでは生きていたかったねえ」


 約12年、死に瀕した人間にしては贅沢な要求だと普段の私なら嘲笑していたであろう。でも私は笑えないなんとしてでも12年彼女に与えてあげたかった。そのためにも死神に...


 「でもね、神様が決めた運命には逆らっちゃいけないんだ。ばちが当たっちゃう」


 その言葉は私の胸を貫いた。現に今私は神の意志に反した行動をしようとしているのではないか、ミカにもその祖母にもばちが当たるといわれてしまった。もしかしたらあたるのかもしれないなと私は思った。


なぜなら今考えていることは私よりはるかに上の神をだますことにもなるのだから。


 「ミカをよろしくたのむね」


 そう、言葉を紡いだおばあさんの目は濡れていた、加齢でしわくちゃになった顔をさらにしわだらけにして、嗚咽を漏らしていた。悔しいだろう自分が守りたかった愛する孫を守れなくて、辛いだろうミカの笑顔がもう見られないのは。


私には計り知れない数十年この人が生きてきた中で最後の慟哭だろう。その顔は、その涙は私が今まで見た人間のどの涙よりも重く感じた。


 「任せてください」


 そう言って抱きしめるしかできない、私には他に気の利いた言葉も、温かい言葉も出すことはできなかった。ただ心の奥底にミカの願いを叶えたい、そのような思いを強く抱いてしまった。


 どれほど時間が過ぎたか、体感では30分程度であろうか、ひとしきり泣いた後彼女は私にミカを呼んできてほしいと頼んだ。私もちょうど遅すぎるなと感じていたところなので丁度よかった。もし私の考えがうまくいかなかったらこれで最後なのだから悔いのないように話してほしいものだ。


 ミカは存外すぐに発見した。病室から階段のほうへ向かう途中の椅子に座っていた。話が終わるのを待っていたのであろうか、座り込んでうつむいてしまっている。私は暇で寝てしまったものかと思い脅かしてやろうとこっそり近づいた。


しかしすぐに異変に気が付くことになる、泣いているのだ、静かに泣いている。私は会話が聞かれてしまったのかと冷たい汗を流し何故泣いているのかを訪ねた。


 ミカは少し驚いた顔を見せたがすぐに涙をぬぐい訳を話してくれた。


 「しにがみさまが、おばあちゃんしんじゃうって」


 私は沈黙した。言葉が出ないとはこのことか、複雑な感情がいっぺんに襲ってきた。彼女を泣かせたことへの怒り、祖母が死んでしまうと伝えられた彼女を憂う気持ちもあった。そして疑問、何故死神が彼女の前に姿を現したのか。


 「死神なんていないさ」


 「んーん、きゅうにわたしのまえにきたの」


 「夢だと思うけど」


 「あれはゆめじゃない。わかるもん」


 死神は私のように誰にでも見られるわけではなく、死に瀕した人間やその周囲の人にのみ見えるものだから、かなり仰々しい格好をしている、私のように可愛らしい女の子ではないのだ。


 「そっか、明日死んじゃうって言われたのか」


 「うん、いっぱいおねがいしたのに...」


 ミカの目からは涙が零れ落ちそうになっていた。しかしその涙を零すことなく言葉をつづけた。


 「でもいっこだけ、たすかるほうほうをおしえてくれた」


 「ほう、死神がか?」


 あいつの性格上私のことを死の関係者に漏らすことは珍しいと思った。あまり人間には干渉せずに淡々と仕事をこなすタイプだからな。


 「イキガミさまとしにがみさまがちからをあわせればたすけられるって」


 「ふぅん」


 私がイキガミだと明かすのは止めておくことにした。死神の行動の真意が全く読めてこないからだ。何か良くない予感がするのは私だけであろうか、しかしなんにせよ死神は私の言わんとしていることを察してくれたようだ。


 「だからわたしあきらめない」


 そういうとミカは立ち上がり走って一番端の病死の前まで行くと再び扉を思いきり開けて


 「おばあちゃん!」


 「ミカちゃん病院では静かに!」


 と怒られていた、やれやれだ。このまま私たちは1時間ほど病院で談笑し楽しい時間を過ごした、ミカの祖母も明日死ぬと告げられたのにもかかわらず気丈に接しており大した胆力だと感心させられた。


 「じゃあ、おばあちゃん、またあした」


 「私もまた明日来てもいいですか?」


 「ええ、もちろんまた明日気を付けてね」


 病室を出るとき、このままでは笑顔で明日を迎えることができないことを3人が各々心の中に仕舞い込み、当たり障りがなくどこか平凡な明日を望んだ挨拶をして別れた。


 ミカは強く口を結び、その祖母はどこか寂しそうな顔で、そして私は、私は葛藤している。ミカの祖母は本当に生きることを望むのであろうか、何の代償もなく生きられるのなら、いや彼女自身が代償を支払うとすればおそらく彼女は生きる道を選ぶだろう、しかし代償を支払うのは彼女ではなく。いや、考えるのはよそう、きっと私の顔はひどい顔だろうな正解を選べない無能な顔をしているに違いない。


 私たち二人は言葉を発することもなく、重い足取りでミカの家へ向かっていた。


 病院から出て数百メートルほど進んだあたりで異変に気付く、目の前にある橋で先ほど学校で出会った少年2人に加えさらに少年が1人少女が2人の計5人が待ち伏せしていた。おそらくミカが話していたいじめっ子だろう。


 「ミカ、ほかに道はないのか?」


 「ない...ここをとおるしか」


 「簡単に通してくれる雰囲気じゃないね」


 「はしろう...」


 私はミカに作戦を伝えた、橋の直前まで気が付かないふりをしてゆっくり歩き、橋に差し掛かるところで二手に分かれて一気にまくというものだ。正直私の力であれば奴らをぼこぼこにできるがこれは奥の手として残しておこう。


 私とミカは作戦通りゆっくりと橋に近づいていく。奴らの声が聞こえた。ミカを罵倒する言葉の数々、正直私は憤慨したがミカは沈黙を保っているので私もおとなしく歩くことにした。


 そしてついに橋に差し掛かる瞬間。


 「「せーの」」


 完璧に息を合わせて二手に分かれて走り出した。少年2人と少女2人が私たちを捕まえようと手を伸ばすが、急に走り出したことに驚き遅れを取ったのかギリギリかわすことができた。そして私は橋を渡り切り後ろを振り返る。するとミカは少し後ろに構えていた大柄の少年に転ばされて倒れていた。


 「あかねちゃんはにげて!!」


 転ばされたときにけがをしたのか右足を抑えてうずくまりながら叫ぶ。そんなミカを逃がすまいと二人の少女が足と頭をつかみ地面に押さえつける。


 客観的に見てミカが自力で脱出するのは不可能である。私だけ逃げるわけにはいかない、ミカにもしものことがあったらおばあさんに申し訳が立たないではないか。


  私はミカのほうへと走った。小さな身体は扱いにくく戦闘向きではないし走りにくい。


 「なんだこのカバン、俺たちの金を盗んで買ったんだろう!」


 何を言ってるんだこの少年は、ミカがそんなことするはずはない、ミカからは祖母に一昨年の誕生日祝いでもらったものだと聞いている。


 「そのかばんかえして!たいせつなかばんなの!」


 ミカは少女2人に体を押さえつけられて身動きが取れなくなっていたが必死に叫ぶ、それはそうだこのカバンは祖母の形見となるかもしれないのだ、金なんか比にもならない価値がある。


 しかし、そんな事情を知る由もない大柄の少年はこのカバンを放り投げてしまった。カバンは宙を舞い放物線を描きながら川へと吸い込まれる。それを見たほかのいじめっ子4人は笑い、正義は勝つなどと言っている。


 そんな光景を見せつけられたミカは涙を流すこともできず目を見開き、声にならない声を上げている。それを見て立ち尽くしていた私は大柄な少年へ向かい再び走り出した。仕事を円滑に進めるため、また面倒ごとが嫌いな私は普段人間とは争わないが今回ばかりは事情が違う。


 「ミカになにするんだぁ!!!」


 初めて出した大声で唸り大柄な少年の顎を殴り、腹を蹴り飛ばした。大柄の少年はいとも簡単に吹き飛ばされ地面にたたきつけられる。こんな姿になっても神様である私にはこんな子供など100人纏めてきても蹂躙できる。下手をすれば殺してしまうだろう。現に今この少年は顔や足を地面に擦られ痛々しく擦りむいて血を流し、その大柄には似つかない情けない声でうめき声をあげながら泣いている。当然殺してしまっては面倒なので手は抜いているが。


 この光景を見てミカを押さえつけていた少女二人はすぐに彼女を解放し一目散に逃げ出し、少し離れていたところで見ていた少年のうちの一人は立ち尽くし小便を漏らしていた。


 ミカは解放されるとすぐに川のほうを向き、カバンを探した。しかし上流付近は雨なのであろうか川は茶色く濁り流れが速かった。これではカバンを見つけることは不可能である。


 「すまない、私がもっと早く...」


 「んーん、ありがとう、けがはない?」


 ミカはこの状況にあっても私のけがを心配してくれている、私は仮にけがをしてもそれが致命傷になることはない。神様だから。だけどミカは違う。


 「ミカこそ足、血出てるよ!」


 ミカのひざは盛大に擦り剝け血が出ていた、私は吹き飛ばされた大柄の少年のそばで呆然と立ち尽くしている少年からティッシュとタオル、絆創膏を強奪してミカの止血を行った。絆創膏を持っているとは女子力が高い。


 「まだ痛むか?」


 そう私が尋ねると、明らかに無理をしている顔で


 「だいじょうぶ」


 と言われてしまった。続けて彼女は


 「カバン、探さなきゃ」


 と言い川へ向かおうとしたので、私は手をつかんで止めた。


 「無茶だ、流れが速い、けがもしているんだし」


 「でも、大切な、大切な...」


 最後まで言葉を発することなく彼女は泣き崩れてしまった。


 私は少年たち三人にカバン探しを命じようと思ったがすでに彼らの姿はなく、逃走した後であった。


 私は泣き崩れてしまったミカを背中に背負い、昼間来た道を引き返していった。日は傾き少し涼しい風が流れ出していた。空はきれいな茜色に染まり、紅葉した山々と波長を合わせ共鳴しているようであった。


 こんな事の後じゃなければどんなに感動したことか、いやこんなことがあっても私たちに平等に美しい景色を見せてくれていることに感謝するべきか。遠くに大きく暗い雲が見える、きっとその下は雨が降っているのであろう。私たちにはその雲の下がお似合いだななどと思ってしまった。


 「あかねちゃん、きれいなあかねいろ」


 そんな私の自嘲をよそに背中のミカが喋りだした。泣きはらし目は真っ赤だが顔は笑っていた。


 「ああ、きれいだ」


 「あ、わたしのめもゆうやけであかいよ」


 カーブミラーに映った顔を見て少し恥ずかしくなったのか、おどけて見せる彼女。


 「きれいだな、食べちゃいたいくらいに」


 「やーだぁたべないでよ」


 「そろそろ自分で歩かないか?重たい」


 「えへへ、もうすこし」


 そう言ってぎゅっと強くしがみつくのはずるいと思う。おろせないじゃないか。


 「あと100歩な」


 「200ぽ!」


 「150歩」


 「むぅーあかねちゃんのいじわる」


 「ふふ、じゃあここで降りるか?」


 「やーだ」


 夕焼けに染まった赤い道を、二人でゆっくり歩いていく。この道中不愉快な連中にあったことなどもう忘れてしまったかのように。


 赤い道がだんだんと黒に染まっていき、街灯がつき始めた頃に家にたどり着くことができた。私は0時には再び病院へ向かわなければならないので神社に戻るといったのだが、泊っていけ、ときかないのでそうすることにした。今夜はミカがカレーライスを作ってくれるそうだ。8歳なのにすごいな。


 と、思ったがやはり危なっかしいので私も手伝うことにした。祖母と一緒に作ったことはあるが一人で作るのは初めてだという。


 包丁で野菜や肉を切るのは私が担当することにした。さすがに8歳の子に任せるのは危ないのでな。彼女がかなりあいまいに覚えていたため、紆余曲折があった。しかし何とか2時間をかけて完成にこぎつけた。


 アツアツの白いご飯の上にかなり苦労して作ったカレールーをかけて完成だ。


 「「いただきます」」


 生まれて初めて食べるカレーライス、しかも苦労して作ったとなればその味は格別。若干野菜が大きすぎたりするのはご愛敬、ミカはしっかり祖母の味を継いでおいしいカレーライスを作ってくれた。


 ここで少し気づいたことがある、私は意外と食べるのが好きなのかもしれない。


 お腹いっぱいだ、満腹感とはこんなにも幸せなものだったのか、と悦に浸っていると

 「さっきはごめんね、私のせいであかねちゃんまで」


 「いいんだよ、ミカのけがも大したことなくてよかった。かばんは残念だったけど」


 ミカは少し神妙な面持ちで続きを話した。


 聞けばミカも含めこの周囲の人たちは昔いわれのない差別を受けていたらしい。しかし外部と接触さえしなければ平和に幸せに暮らせていた。だがある日突然多くの人が移り住んできた、炭鉱夫の一団らしい。ここの山で石炭を取るために町単位で移住して住み着いた。


 その一団によって築かれた都市が今ミカの祖母がいる病院のある市街地だという。彼らは後から移り住んで来たのにも関わらずミカの祖母たちを差別し追いやった、平和を乱されこの土地に古くから住んでいた多くの人は都会へ出て行ってしまった。しかしこの土地に思い入れがあり去ることができなかった人たちもいる。それが今ミカやミカの祖母を含めたこの周辺の人たちである、と。


 なるほど、だから仲間意識があってこの周辺の人はミカに優しく接してくれていたのか。そして被差別民だから金を盗んでいるなど根も葉もないうわさが流されるのか...これだから人間は嫌いだ。


 「ごめんね、くらいはなし」


 「いや、話してくれてありがとう」


 そうだ忘れてはいけない、人間の中にはミカやミカの祖母のような人間もいるんだ。そう自分に言い聞かせて怒りを鎮めた。


 「あ、おふろわかすのわすれてた」


 「いいよ、明日にしよう今日はもう眠いや」


 当然嘘だ、本当は早くミカに寝てもらって病院に移動しなくてはならない、いややろうと思えば空を飛ぶことだってできるが、出来る限り目立つのは避けたいからな。そしてミカは素直にそれを受け入れてくれた。騙したようで少し心が痛んだ。


 ミカは私のために枕をもう一つ持ってきてくれた、だが布団はない一緒の布団で寝るつもりらしい。


 「一緒に寝るのか?」


 「だめ?」


 「いや、構わないが」


 「やった」


 私とミカは布団の中にもぐりこんだ、近頃野宿ばかりでとても寝心地が悪かったから温かく柔らかい布団は助かる。まあ睡眠は不要だが。コイバナでもしてやろうかと思ったがミカは存外早く寝てしまった。つまらない。


 今夜だな、死神と打合せ。まさかあいつが私に簡単に協力してくれるとは思わなかったな、などと考えつつさらに夜が更けるのを待った。


 窓からのぞく月はきれいな満月で、こんな夜は狼男でも現れやしないかと怖くてたまらない、いや力では負けないけど私は脅かされるのが苦手なのだ。ビビりなんだよ悪いか。


 「ミカ、今夜は月が綺麗だよ」


 なんて詩的なことを呟いてみる。私はミカのことを気に入ったようだ。もし私が人間の男であったら嫁にもらいたいくらい。心なしかミカの顔が赤くなりにやけている気がする、起きているんじゃないだろうな。


 なんてな。

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