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3. やっちゃったぁ

 結局異世界転移などという現象が起こる筈もなく、堀くんと私は、入会は考えときますと言い残してオカルト研を後にした。ちなみにもう一組のカップルは入会するらしくオカルト研に残った。


 外に出たら、すっかり日が暮れていた。


「なんか疲れた。どっか喫茶店でも寄ってくか?」


 と、堀くんが言った。


「マックでいいよ。どうせお金無いでしょ」


 私達は駅に向かって歩き始めた。


「やっぱり合唱かな」


「この大学って、合唱団が3種類あるって知ってた?」


「そうなの?」


「ポップスを主にアカペラで歌ういくつかのグループと、クラッシック主体の王道合唱団。それとチャペル専属の聖歌隊。ちなみに俺達が高校の時やってた活動に近いのは、そのクラッシック主体の合唱団」


「へえー」


 いろいろ調査済みなんだ。と、思った瞬間、“つのる話”がぶり返してきた。


「そういえば堀くんって、ここ以外どこ受けたの?」


「その前に、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


「何?」


「橘さあ、大学入ったら彼氏作るんじゃなかったっけ?」


 ええっ、何であんたが私の密かな目標を知ってるのよ?


 驚いた顔でぱっと堀君を振りかえると、堀君は苦笑した。


「おまえ、女子の間でこの話、しまくってたろ。なんか方々から聞こえてきたぞ」


 いやいやいや、私だけでなく、みんな似たような話をしていた。女子同士の、半分冗談、半分本気の軽口である。よもや男子に伝わろうとは……。


「うん。作るよ。同じ学科にも何人も素敵な人がいたし」


 うそである。今日の私は東京に押しつぶされてひたすら耐えていただけだった。男子の品定めなんて余裕はまるでなかった。


「俺じゃだめか?」


「こらこら」


 堀くんが立ち止まった。私は堀くんに表情を見られたくなくて、堀くんの一歩先で立ち止まった。


「ずっと、好きだった。高3の時は、ずっとお前を見ていた。いやたぶん1年の頃から好きだったんだと思う。でも、おまえを異性として好きなんだと気が付いたのは3年になってからだった」


「……」


「だた、合唱団団長と受験勉強を両立させてがんばっている橘には、今、言っちゃいけないと思ってがまんしてた」


「……何で今、言うかな」


 私はうつむいて、言葉を絞り出した。


「今しかないだろ。躊躇してたら絶対他の男におまえを取られちゃう」


「彼氏いない歴18年の女の子に何言ってんの。そんな訳……」


「おまえ高校時代、自分が男子の間で人気だったこと、気付いてなかった?」


「うそ」


「○○も××も△△も、みんなお前のことを好きだったんだぜ」


 堀くんは私達の共通の知り合いの男子の名前を次々に挙げていった。言われてみればいろいろと思い当たる節はある。ただ、あの頃の私は恋愛なんで他人事だと思っていた。


「それは……うーん。もったいないことをしたなぁ」


「橘杏奈さん。改めて言います。俺とつきあってください」


「じゃあさっき『じゃな、橘』って言ってあっさり別れようとしたのは何?」


「あのときは突然で、まだ心の準備が……」


「もしかしたら堀くん、あの変な呪文唱えながら、じつはずっと心の準備してたの?」


「ああ……って、なんでまぜっかえす? 俺はないな、と思ったら軽く振ってくれていい。そのほうがあきらめがつくから」


「あのね……」


 堀くんがここまで真剣なら、私も覚悟をきめなければならない、と思った。


「この学校で、心を許せる友達って、いまのところ私には堀くんしか居ないの。だからしばらく……せめてこの学校に慣れるまでは友達で居て欲しかった。何で今、言うかな。卑怯だよ」


「わかった。ありがとう」


 堀くんは、誰が見ても明らかなぐらい、ドーンと落ち込んだ。


 え? 何? 私今「保留にさせて」って言ったよね? ……そう思いながら自分の言葉を思い返した。……あ、振ってるな、これ。


 やばっ、と思い急いて振り返ると、堀くんが意外と傍にいたので、彼の左胸に顔をうずめる形になってしまった。


「むぎっ」


 いそいで少しだけうつむき、口だけは彼の胸から離した。


「堀くんは傍にいると安心だし楽しいし、大好きな友達の一人なんだけど、今まで恋愛対象としては考えたことが無かった。恋愛対象としてはどうか、考える時間をもらえる?」


 私は額を彼の胸に付けたまま言った。彼の心拍数が上がるのが聞こえた。なんか、可愛い。

 堀くんは両手を空中に浮かべて…その手は私の背中の辺りでふわふわしていた。抱きしめられちゃうかな。まあ、今だけは許そう。……と、思ったが、堀くんはいつまでも躊躇していた。普段は決断の早いやつなんだけどな。


 今、私達は道端の暗がりでくっついている。額だけだけど。今はたまたま人通りが途切れているが、大学の学生も通る道なので、あまり長くこの体制で居て、誰かに見られたら気まずい。ここはひとつ、何か笑える一言を言って離れよう…と、思ったが、何も思いつかなかったので、とりいそぎさっきオカルト研で聞いた呪文の言葉を言ってみた。


 「なんだよ、それ」と堀くんにツッコんでもらってギャクにするつもりだった。


 私の記憶力は、自分で言うのもなんだが、ちょっとしたものである。意味のない母音と子音の羅列でも、一度聴いたら、その日のうちなら一言一句正確に復唱できる。


 ……突然、胃の下の辺りに強い痛みが走った。体の内部全てが一気によじられるような……。続いて、ものすごい轟音が聞こえてきた。周辺の温度が一気に上昇した。


 堀くんの胸から顔を上げ辺りを見渡すと、家々が燃えていた。数秒前にそこにあったのものとは異なる、西洋風の可愛い家だ。それらが例外なく全て……見える範囲内では少なくとも街全体が燃えていた。


 いやそれよりも、少し遠くを見ると……竜が暴れていた。……竜、と呼んででいいのか?羽の生えたゴジラみたいなヤツが炎を吐いていた。ヤツが炎を吐くと、数百メートル離れた所で、しかもこちらとは90度異なる方向に吐いているにもかかわらず、輻射熱で顔が焼けそうであった。おそらくあの火炎の直撃を受けたらひとたまりもないであろう。

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