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2. みーつけたっ

 説明会が終わると楓ちゃんに別れを告げて教室を出た。キャンパスはクラブ活動勧誘の学生たちであふれかえっていた。私にも沢山の先輩方が声をかけてくれたのだが、テニスだのスキーだのっていう華やかそうなやつはどうも……。そもそもスキー部って夏の間何をしているんだろ?


 さて、何か面白そうなクラブなり同好会なりは無い物か……とぶらぶらしていると、面白そうなポスターを見つけた。


 と、その時、とつぜん頭の上に何か本のようなものが降ってきた。


「よう、久しぶり」


「痛い」


 どんだけ失礼なヤツなんだ、と思って振り返ると、高校時代同じ合唱団だった堀くん……堀太郎くんが、今、私ももらった入学案内関連書類を私の頭の上に載せていた。


「あれ? え?」


「おまえと同じ学科だよ。さっきまでおんなじ教室にいたんだけど気付かなかった? 」


 良かった。このキャンパスの、しかも同じ学科の中に、すくなくとも一人は背伸びをしないで会話できるヤツがいる。


「えー同じ学科だったの? 驚き。同じ大学に受かったって話は聞いてたけど」


「おまえの合格の話を聞いたときはこっちの方が驚いたよ。おまえあんまり数学は得意じゃないって言ってたじゃん。何で理系に来てんだよ」


「私には暗記力という武器があるので、どんな学部学科でもまあそれなりになんとかなるというか」


「文系に行けばもう一ランク上の大学に入れたって宣言かよ。すげえな」


「私ね、宮前教授の授業がどうしても受けたかったの」


「ああ、あの、長さの精密計測でいま注目されてる……」


 物事には全て基準というものが必要であるが、現在、1mという長さの直接の原器は無い。1mは 光速 ÷ 時間 で定義されている。このうち光速はご存じ相対性理論により絶対不滅の物理量ということになっているが、時間の方は人間が計測してやらなければならない。そこで、世界中に数台ある特別に管理された原子時計の平均値を時間の原器ということにしている。


 宮前教授は、 光速 ÷ 原子時計 で定義される長さよりも数桁精度の高い長さ計測方法を発表し、物理の基準を書き換えるのではないかと言われている人物である。


「そう。4年になったら宮前研究室にも入りたいし」


 そのとき、堀くんの後ろに立っていた男子が口を開いた。


「その子、誰?」


「おお。俺とおんなじ高校の子で、橘杏奈。俺達と同じ物理学科だぜ」


 よく判らないが、堀くんの友達らしいので、とりあえずその男子に頭を下げた。


「俺、高橋悠真です。よろしくお願いします」


 高橋くんも頭を下げてきた。


「さっきたまたま隣の席になってさ」


 と、堀くん。なるほど。


「じゃ、俺は邪魔しちゃ悪いから先に帰るわ」


 と、言う高橋くんを掘くんは止めた。


「待て、俺も帰るから。じゃな、橘」


 そう言って立ち去ろうとする堀くんのシャツの裾を私はとっさに握りしめた。


「えっ?」


 自分のシャツの裾がしっかり握られていることを確認すると、堀くんはもういちど高橋くんを振り返った。


「ごめん、やっぱ橘にちょっとだけつきあうわ」


「ごゆっくりー」


 遠くから高橋君が手を振った。


「なんだよ。今、完全に勘違いされたぞ」


「迷惑?」


「えっ、あの、勘違いじゃなくていいのか?」


「こらこら。勘違いしないよーに」


「何なんだよ」


 堀くんが顔を赤らめて言った。


 あれ、こいつ、こんな可愛いやつだったっけ? ま、いいや。


「久々に会った友達に『じゃな、橘』じゃないでしょ。私はまだ全然話し足んないんだけど」


「そういえば、最後に会ったのは1月かぁ。おまえ卒業式休んだからな」


「そうそう、私の大切な日に受験日を設定する鬼のような学校があって……ところでこれ行きたいんだけど、時間ある?」


 私は目の前のポスターを指さした。そこには、


      *** オカルト研究会 *** 

  --- あなたも異世界を覗いてみませんか ーーー


 と、書いてあった。


「橘、こんな趣味あったの?」


「堀くんは興味ない?」


「いや、まあ…ま、いいか。どうせヒマだし」


 私たちはポスターに描かれたイラストを頼りに、オカルト研究会の部室を訪ねてみた。


   ***


「宮前教授の研究なんですかぁ~!?」


 私達…私と堀くんは揃って素っ頓狂な叫び声をあげてしまった。


「あの、長さ計測の?」


 机を挟んで私達の左隣、私達とは90度異なる向きに座ったオカルト研究会の先輩は、うなずいて説明を付け加えた。


「あなたたちよく知ってるわね。大学教授って変な人が多いけど、うちの大学は特に変人が多いのよ。やっぱり物理の教授で前田教授って知ってる?」


「知ってます。クラッシックの作曲家としても活躍されている方ですよね。曲は聞いたことありませんが」


「あのひと、五線譜の上にショウジョウバエを飛ばして上から写真撮って、それを新曲として発表したりしてるんだって。それも知ってた?」


 ええと、先輩の説明のせいで(?)何か話がそれたので少し時間を戻して状況を説明すると……


 オカルト研究会を訪ねた我々を「いらっしゃい」と歓迎してくれたのは ――どうせむさい男集団だろうとの予想に反し―― 素敵な女性3人であった。3人はそれぞれラフな格好ながら、やっぱりどこか垢抜けて……この小説、何べん「垢抜けて」って書くつもりだよ、という声が聞こえてきたので、「垢抜けて」はもう止めます。もしもこの後の文章でまたこの大学の別の女子が登場し、私が何も書かなかったら、この子もまたどうせ垢抜けた華やかな女性なんだろ、と思ってくだせえ。実際この頃の私は、完全にコンプレックスのカタマリでした。


 ええと、また話がそれた。なんだったっけ……。


 私達がオカルト研を訪ねた時は、明らかに新入生という見た目の男女の新入生の先客がおり、新入生4人でオカルト研の説明を受けた。


 会員は全部で6人。うち男性2名女性4名。今は宮前教授が見つけた論文に書いてあった呪文を研究中、とのこと。その呪文を唱えると、異世界に転移できるらしい。


 ふう、やっとこの節の冒頭のシーンにたどりついた。


「で、実際にその呪文は唱えてみたんですか?」


 堀くんが聞いた。


「何回もやってみたわよ。でも全然。何が違うんだろうって何回も論文を読み直して、いろいろやってみてるんだけどね」


 もううんざり、という口調の割には、先輩方の表情は楽しそうであった。


「どんな呪文なんですか?」


 新入生カップルの男の方が聞いた。


「やってみる?」


 私達は先輩方の指示に従って立ち上がった。先輩方も含めて7人で輪になって並び、両隣の人と手を繋いだ。


「じゃいい、あたしに続いて同じ言葉を唱えてね」


 リーダー格らしい先輩が言った。

〇〇〇 埼玉マメ知識、その1 〇〇〇


 現在、埼玉県で最も大きい神社は、文句なく大宮駅そばの氷川神社です。

 しかし江戸時代初期、家康が埼玉県内で最も高く評価していた神社は、あの「らき☆すた」の鷲宮神社でした。徳川幕府開設時、幕府より氷川神社には300石の朱印地が贈られたのに対し、鷲宮神社には400石の朱印地が贈られたのでした。

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