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1. ドキドキ

 うわっ、高校生と変わんないじゃない。


 私は心の中でツッコミを入れた。


 都内某1.5流大学の入学式、合唱団が校歌を歌った後、それまでの厳粛な態度を豹変させ、カラフルな「団員募集中!」「希望者は○○まで!」というポスターを掲げながらはけていったのだ。これは昨年まで私が団長を務めていた高校の合唱団の手法そのものであった。


 入学式の後は入学説明会である。学科毎に各教室に分かれ、授業の取り方や設備の利用方法など、大学生活の方法が説明される。


 実はこの学科の集まり私はささやかな希望を抱いていた。入学式で見かけた新入生女子はみな、そろいもそろってあか抜けていたのだ。化粧も上手で、一見すっぴん美人かとみまごうばかりのナチュラルメイクもいれば、明確に化粧顔でありながらおそらく地より2段階ぐらいアップしているのではないかと思われるような化粧美人もいた。


 洋服も髪型も、フォーマルでありながら華やかで、私のブローチを付けただけのカラス衣装、ポニーテールに黒蝶リボンとは雲泥の差であった。


 ううっ、さずが東京の学校は違う……。


 入学式で、私は完全に気おされていた。


 でもまあ、私が入学したのは物理学科なる、おしゃれとはおよそ縁の無い学科であった。リケジョがそんなにオシャレな筈はないのである。私は教室のドアを開けて……ええっ!


 ささやかな希望は完全に打ち砕かれた。理科系の、特に物理系ともなると、女子の比率は極端に下がる。その少数の女子たちがまた、そろいもそろって雑誌で見るような、ザ、女子大生、なのであった。彼氏いない歴18年の私としては、大学に入ったら彼氏を作って充実の学生生活……を、目標としていたのだが……。


 やばい、そもそも友達できるかな……。


 目標が急落していた。


「あなたも物理? 」


 説明会場は席が2人がけであった。私のとなりに座ったのは、よりにもよってザ、女子大生の中でも飛び切り華やかな女の子であった。


「は、はい」


 同級生に敬語かよ、私。勝ち負けで言う所の負けじゃない。


「あたし、中村楓。よろしくね」


「橘杏奈です。よろしくおねがいします」


 と、言ったら楓ちゃんはクスッと笑った。


「杏奈ちゃん、現役?」


「はい」


「同い年に敬語はやめようよ」


「……じゃあ、楓ちゃん」


「ほい」


「高校はどこ?」


「N高校だよ」


 あか抜けてると思ったら、やっぱり東京人であった。しかもN高校といえば、埼玉県民ですら知っている都立でも指折りの名門校……こいつ、滑り止めだな。


 しかも、高校の名前の前に “都立” と付けない所に、東京都民の誇りを感じてしまう。


「すごーい。N高校なの」


「おんなじ大学に入っといて何を言うかね。杏奈ちゃんは?」


「O高校……って、知ってる? 」


 楓ちゃんに対抗して高校の前に “埼玉県立” を付けないで高校の名前を言ってみた。が、案の定怪訝そうな顔をされてしまったので、卑屈にも “…って、知ってる?” を付けてしまった。ううっ。


「へえ、杏奈ちゃんは埼玉県なんだ」


 きっと楓ちゃんはO高校を知らなかったと思うのだが、Oの地名から埼玉を推測し、うまくごまかしてきた。東京都民は、大人だ。


 と、ここで、教壇に先生が立ち、PCを動かし始めた。説明会開始まであと数秒。あと一会話ぐらいできるかな。


「楓ちゃん、そのうちお化粧、教えてもらえる? 」


「えっ、杏奈ちゃん…」


 とつぜん、楓ちゃんが私の顔をまじまじと覗き込んだ。


「…へえ、すっぴんだったんだ。いいな」


 ここで、私達の会話は説明会に打ち切られた。

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