ヒュプノスの陰謀①
ここはどこなのだろうか。気づいたらここにいた。というべきなのだろうか。というよりは本当に気づいたらここにいたのだから、他に何も言うまい。薄暗い雰囲気の中に漂う妖気の篭もった紺色の空。俺の目は薄い緑のように識別しているが、人間の目には見えないくらいの色があるのではないかと思わせるような靄。全てが見たことのない光景で、人類でこんな光景を見ているのは先にも後にも自分だけな気がしている。
かすかに見える目の前の建物。ここに人がいることを信じるほかない。それほどまでに、俺は追い込まれていた。無論どういった経緯でこうなったのかは召喚獣を出す魔方陣の描き方と同じくらい知らない。とにかく全く知らないものに程度などないのだ。
古びた館のような雰囲気が漂う建物が、近づくにつれて姿を現し、その壮大さに、流石の俺も絶句した。なぜ俺はこんなとこにいるのだろう。というか、ここは絶対俺の知っている世界ではない。そんな不安事が確信に、今まさに変わろうというとき、それを確信へとオーバーランさせる出来事が直後に起こった。
この薄暗い世界で、俺の目の前に急に光が現れたかと思うと、直後、それは人のなりを形成して収まった。だが、それは人のなりをしているだけで、ぼんやりとした朱色の光が人の形になっているだけで、鼻は愚か、口もない。
「初めまして。なのかな錦田よ」
思いの外爽やかな声でそいつは言った。男とも女とも言えない。そんな声だ。
「すまないが、まず誰なのか教えていただきたいところだな」
至極まっとうな質問だろう。
「まあ、そうだろうな。俺はこの世界では便宜上オデュッセイアということになっている」
どうやら頭のネジが数本飛んでいるらしい。
「それで、俺に何の用があるんだ?」
すると、オデュッセイアはそれなりの声で高笑いすると、せいぜい頭の高い人間様かなと言った。
お前だって人間じゃないのか。と、言おうとして言い留まった。どう角度を変えて見ても、こいつは人間じゃなかった。
「お前は何者なんだ?」
すると、オデュッセイアは微笑した。
「おいおい質問攻めだな。まあいい、この際色々答えてやろう。簡単に言うと、そうだな俺は神だ」
いきなり神のカミングアウトを喰らって信じられるほど俺はできてないぜ。因みにこれはダジャレじゃないからな。
「どういうことなんだ?」
「少し長話になるけどまあいい。教えてやろう。まず、神々はそれぞれ星を担当していてそこの星を管理しているんだ。中でも生命体の存在する星は人気でな、この星もその一つというわけさ」
神がいないと星は成り立たないのか?
「ああ。神がいないと星は崩壊する」
奴は少し間を置くと、そのまま続けた。
「でだ、この星の管理は俺がやるはずだったんだがな、どっかの誰かが俺からそれを奪おうとしたんだよ。全く迷惑な話だぜ。最近、お前が予知夢を見るのはそういうわけなのさ」
どういうわけか全くわからんのだが。
「まあじきにわかる。それでだ、ここはお前の夢の中なのだが、俺と奴はそれぞれ人間の夢の中に入り込み、決着を着けようとしたわけなんだが。お前は俺に選ばれたのさ。そして、奴らはあの館の中にいる。お前がそいつを倒せば晴れてハッピーエンドさ。そうすりゃお前も物騒な予知夢を見なくなる」
話が急すぎるぜ。大体、なんでわざわざ人間につく必要があるんだ。
「俺ら神はこの星だとこう言った形でしか存在できない。これで説明は十分だろ。俺と奴がドンパチやってては、この星は長くは持たない。だから頼むぜ。お前には全人類の命がかかってんだ」
「ちょっと待て。5分考えさせろ」
俺はそういってオデュッセイアを制止し、考えに走った。そもそも、夢の世界なら現実には影響しないんじゃないか?いや、この夢はどうも妙だ。万が一ということがある。俺に全人類の命がかかってるだと。ふざけんじゃねぇ。何だって全世界70億人の内俺なんだ。だが、冷静に考えて俺はまだ現実世界に未練がある。まだまだ死ねない。これらをトータルして考えてやらない手はないぜ。
「いいよ。行ってやるよ神様よ」
オデュッセイアはかすかに笑うような仕草を見せた。