第5話 遭遇
一万文字突破...!
わかったというか、理解した事がある。
理解されたともいうか...。
名前を失い、タリオン(俺)になってまだ一日程度。双方の記憶と経験が統合され、意識の主観が今の俺になった。
そうして、過ごす内に分かった事。
タリオン(俺)がめたくちゃにすごいという事だ。
自画自賛じゃなくて、いや、そうなるか...。
ともかく語彙力の無さは今更だが、
全盛期の...先生の息が掛かった先輩に任期を無理矢理伸ばされ、曹に合格させられ挙句レンジャーき章とった頃の俺が、逆立ちしても勝てない。
例え自動小銃を装備した俺が一個小隊になったとしても、森の中でタリオン(俺)には勝てないだろう。
記憶の中で熊を殴り殺したりしてたが、ヤバい。
北海道の羆をひと回り大きくして、三倍くらいの戦闘力とスピードがあったのを...
あっさり素手で、殴り殺してた。
たしか毛皮に傷が一切なくて高く売れたって爺ちゃん喜んでくれたもんで、それ以来熊に出会ったら素手で仕留めてたんだよな...。
異世界の住人って凄い。
改めて、そう思う。
そして、今...森の中を走っている。
岩や木を避け、風を切るように駆け抜け、枝を潜り抜ける。
子狼は腕の中でおとなしくしているが、時折もぞもぞ動いて鼻の向きを変えて「ひゃん!」と鳴く。
まるで進む道を誘導するかのようだ。
その導きに従うように、三角飛びの要領で木に飛びつき、蹴り出して向きを変えて飛び上がって木から木へ。
どれ程の速さで走って、飛んでいるかもわからない。常人には到底行き着く事の出来ない領域の中で、なお情報を集めることのできる感覚の鋭さ。
途中、食べれる果実の木を見つける。
さっき飛び越えてた岩場には、岩塩があった。
駆け抜ける視界の隅で、鼻で、耳に入るまだまだ見つかる、貴重な素材。
...それらは、あとで拠点に戻る時に寄ればいい。
今はただ、この子の鼻の向く先の方へ。
だんだんと木と木の間隔が広がり、自然と地面に着地して再び走ったその先で。
不意に今迄通過した場所と明らかに違う。不自然極まりない場面に出くわし、立ち止まった。
まるで暴風にあったかのように、
竜巻が発生した後のように木々が薙ぎ倒され、撒き散らかされたよう荒された場所があった。
所々に散乱する、緑を彩る赤い、血まみれの肉と臓腑のオブジェ。
「ぅ...ぁ、」
まるで砦の中の悪夢の巻き戻しのような酷さに、思わず呻き声が漏れた。
「ひゃん!ひゃん!」
俺の腕の中で、子狼がじたばたと暴れ出す。
その視界の先にあるものに目を向け、俺は抱いていた子狼を、ゆっくり地面に下ろした。
500pvありがとナスダック!(´ω`)v