第4話 出会い
それは一匹の白い...小さな子犬だった。
怯えているのか身体を震わせ、くりくりの丸い円らな瞳が俺をじっと見つめる。
身体あちこちに茂みで着いた葉っぱや何処かで転んだのか、泥が付いて若干薄汚れている。
足はすらっと長くて若干...いや、なんか太い。
けれど顔はシュッとして、体つきも全体的にしなやかだ。
これは間違いなく大きくなる。しかし...
...犬、なのか?
子犬?は真っ黒な鼻をピスピスならしてゆっくりトテトテと歩いて此方へ向かって来る。
その姿に思わず口元が緩むが、肌が泡立つような戦慄を覚えた。
こんな世界の森の中に、犬がいる訳がない。
当然親がいる筈。
人をあっさりと喰い殺す。
...狼の子の...親が。
群が。
ブロードソードと短剣の鞘に着いた留め金を外し、いつでも引き抜けるように。どんな不意打ちや敵の数にも対応出来るよう、足を開いて矢筒から数本引き抜き、内の一本を弓に番えて構える。
とてとて...よちよち。
子狼はそのまま、震えながらも前へ、前へ。
だが、待てども待てども後続の狼はやって来ない。
そうこうしているうちに子狼が俺に殺到。
見れば口を開けて迫ってくる。その口の中には可愛らしい小さな牙が生え揃っていた。
...かぷりとズボンに噛み付かれて、引っ張られる。
ぐいっ。
「...えぇ」
ぐいっ、ぐいっ......こてん。 よたよた...。
後ろに引っ張り、引っ張り、顎が疲れたのか離した途端にバランスを崩して転がる。
のそのそと起き上がり、震えながら噛みついて、もう一度後ろへ...。
「もういいよ」
弓から矢を外して矢筒にしまい、背中の弓留めに合成弓を引っ掛けた。
俺にこの子ともし居るとするならその親を射る事は出来なくなった。
ああ、畜生。
めたくちゃかわいいなあ...。
もう一度噛み付きに来た所を抱き上げ、目線を合わせる。
もう口元は緩みっぱなしだ。
指から伝わるほわほわの毛の感触と、生き物が生きている証である温度が。
俺の心に、確かな癒しをもたらしてくれた。
「親御さんはどうしたんだ?はぐれたのか?」
「きゅぅぅ...ひゃん!ひゃん!」
すると、あらん力でじたばたと暴れ出したので仕方なく地面に下ろすと今度は指を噛む。
「おいおい」
痛くはないけど。
そしてもう一度、後ろのほうへ...やって来た茂みの方へ引っ張る。
引っ張った後、指を離し...後ろへ向き直り、ひと吠え。
「ひゃん!」
そしてこっちを見上げてもう一度「ひゃん」と鳴いた。
「後ろに、いや...向こうに何かあるのか?」
例えば、この子がひとりぼっちになるような...親がついてこれなくなるような、原因の何かが。
俺はもう一度弓を取り出し、この子の負担にならぬよう胸に抱える。
「わかった、行こう」
この子がやって来た道をなぞるよう、出来るだけ急いで走りだした。
(´ω`)わんわん