第3話 キャンプ
川に沿って森の中に入った俺は野営するに適した場所を探しだした。
夜である事や暗闇は苦にならなかった。
夜の闇で獲物の姿を見失う事は勿論、相手も自分を見失う事がある。
聴覚と嗅覚に頼る動物で夜行性となれば鳥以外の動物と魔物ばかりだが、そういったのは大抵昼夜問わず狩ってきた。
爺ちゃんの指導の賜物だ。
寧ろ今は食料の為にどんなのが相手でも出て来て欲しいが...。
幸いというか不運というか、この時獲物になるような動物は一匹も見つからなかった。
森に入って少しすると、木々の間隔が広くなりだし、やがて小高い場所に切り立った小さな崖と住んでた山でよく見た木に囲まれた開けた場所を見つけた。
崖にはほんのちょっとした空洞があって中は何も住んでおらず。雨風を凌ぎ暮らすにはちょうど良い。
枯れ木を集めて火を起こし、簡易的な鳴子の罠を張って安全性を高めると、洞穴に入ってマントを被るように包まり、眠った。
翌朝。
少しだけ、ほんの少しだけ期待して目を覚ますも景色はあの四畳半のボロアパートにはならなかった。
やはり今此処にある全てが現実のようだ。
元々今あるタリオンの記憶に、日本での俺がおまけでついているようなもんだ。
この状況下で頭の悪さや吃音症が治ったのは幸いというかなんというか...うーん。
割合はさておきどっちも俺だが...あまり、考えない方がいいかもしれないな。
昨日よりだいぶ良くなった身体をほぐし、首を鳴らして起き上がった。
飯を確保しよう。
洞穴からほんのすこし離れた先に河川があり、砂岩や大小様々な石と砂利で覆われた綺麗な河岸がある。
水場からほんの少し離れた場所に穴を掘れば、すぐさま濁った水が滲み。
しばらく経つと澄んだ綺麗な水が湧き始めた。
それを鍋で掬って、先に焚き火を囲うように石で組んだ簡易的なコンロに掛ける。
煮沸させた後は川の水に晒せば、安全で冷えた飲み水になる。
過剰な措置かもしれないが此処は現代日本じゃない。
濁ってない川の水ではあるが直接飲める程綺麗だという保証は無い。また、感染症や寄生虫に侵された場合、医療技術の未熟なこの世界では治す事は難しいだろう。
魔法の存在はあるが、今はその魔法で感染症を治す人間は近くに居らずツテもなく。
当然、自分は魔法なんぞ全く使えない。
さらに言えば治す魔法があるかすら分からない。
ならば川の水を直接飲むといった愚行は避けるべきだろう。
日本住血線虫みたく水に触れたらアウトな種類のものがこの世界にないとも限らないのがいやらしい。
朝露に触って感染した例があるらしいから困る。
まあここまでせんでも、水は綺麗だし川の直接掬って煮沸でいいな...。
ともあれ、これで水は確保した。
簡易井戸の作成に並行して、枯れ木と倒木にロープ代わりの丈夫な蔦を集める。
炭と木酢液を作りたいが、木酢液は掛かる時間が半端なく、安全に保管する容器と必要最低限の機材すらない。
木酢液は、今は諦めた方が良いみたいだ。
これらを建築予定の場所の脇に転がし、行き掛けの駄賃に集めた食べれる茸と野草を目的毎に分けて平たい石の上に並べた。
残念ながら近くに果物は見つからなかった。
狩りに使う毒草と、もしもの為の薬草は別々にして鞄の中にとってある。
まずは簡単な掘っ立て小屋とトイレからだ。
いずれ石灰を見つけるかはたまた貝や骨から作るなりしてコンクリを作り、土台を固めてから家を建てても良いだろう。
ロープは使えなくもないが精度や平行出すために糸とペンが欲しい。
液定規があればなお良いが、この世界には無いだろうなあ...。
...いやいや待て待て、気を緩め過ぎるぞ。
そう思ってた矢先、背後の茂みからガサガサと音を立ててなにかが近寄って来た。
(´ω`)ガサゴソ