第2話 現状把握
鹿二頭の血抜きと解体を終え。取り出した鹿肉をスライスして表面を焚き火で軽く炙る。
じゅうじゅうと、表面から滲み出た血と脂が音をたて。肉の焼ける良い匂いが辺りに広がり。餌皿の前でお座りする、白い子供狼の尻尾がぴこぴこと左右へ振られる。
用意された鍋の中は煮られた血液が、川の水で体温より少し高めの温度に戻されている。
「できたぞー」
「ひゃん!ひゃんひゃん!」
餌皿に焼いた鹿肉のスライスをこんもり載せ、其処へ血を振りかけた。
焼かれた肉が血と混ざり合い、猫舌でも大丈夫な温度に変わる。
添え物はオークの骨からとった骨髄と魔石。
魔石を食べると知ったのは、一緒に暮らすようになってからすぐのことだ。
夜中にバリバリと音がするので、何をしているのかと見てみれば。そこには粉々に砕けた魔石と、嬉しそうに食べるラヴィネが。
魔石は食べられてびっくりしたが、夢の中で狼がオークの魔石を必要としているってのはそういうことかと納得した。
ラヴィネが魔石を食べてから明らかに能力が上がったというか。
身体が強くなったというか、こけなくなったり...不思議な力を使うようになったからだ。
なお一番最初に食われてたのは、首領オークの一番大きくて立派な魔石でした(泣)
売れば、ものすごく良い値段しそうだったのになあ...。
勿論、『めっ』と叱っておいたが。顔をそらしながらぱたぱたと尻尾を振ってるあたり、少し怪しい。本当に反省してるか?
とはいえ人里が見つからなければ売れないし。人里があったとしても、俺の戦奴隷の首輪が人里にそのまま入るのに邪魔をする。
...首輪なあ。これもほんとどうにかせんとなあ。
しかしこのままだと俺が人里を見つける前に、オークの魔石が全部ラヴィネの胃袋に収まる方が早いかなあ。
あれから一週間が経っていた。
ラヴィネはほんのすこし大きくなって、足取りがしっかりして来た。
もう滅多にこけなくなってるし牙は少し立派になってる。
子供の成長ははやいなあ...。
それにしてもこんなに可愛いのに、写真がないなんて。絵を描くにしたって紙と筆はない。
そもそも俺は絵が下手くそ過ぎて、最初からその選択肢は外れている。
餌皿から顔をあげて「なあに?」という顔をしてこっちを見るラヴィネに思わず顔がにやける。
「なんでもないよ」
ラヴィネは「ひゃん」と鳴いて再び顔を餌皿に突っ込んだ。
オークの肉はすでに無く、肉の為に狩りをしなければならなくなった。
炭水化物のようなものはなく。無ければ大量の肉が必要だ。
虫は、勘弁願いたい。
この世界で食える虫を爺ちゃんから教えられてはいるが、あまり美味しくないしな...。
前世の植物知識はあまり役に立たない。
この世界と似通っているが、微妙に細部が違うからだ。
当然毒の有り無しも違う奴があるので、前世ではセーフだからと手を出したら完全に毒とか、ごく稀にある。
むしろ今となっては余計な知識だ。
しかし解体して毛皮も手に入るのはいいが、毎回処分する事になりちょっと勿体ない。
いや下処理とか爺ちゃんがやってたのを見たことがあるし、手伝ったりしてたのを覚えている。
肝心の道具と、使ってた薬みたいなのが何だったのかが分からない。
となるともう、腐る前に剥いだ皮を売るしかない。ないのだが...剥いだらすぐに持ち運べる場所に人里が見つかればいいけど、今のところまだ見つかってない。
ちくしょーめぇ...。
森と川と平野部が重なる所ならあると思ったんだけどなあ。
今のところあてが外れている。
俺は自分の分の肉を焼き、洗ったシソっぽい葉を巻いて岩塩と胡椒っぽい実をまぶして食べた。
うん、おいしい。
(´ω`)もぐもぐ