第13話 一人と一匹のはじまり
...
「...呼べって言われてもな」
そもそもいつかって、いつの話だよ。
まるで遠くない未来に厄介事が起こりそうというか。
明らかに、何かが起きる前提で言ってるじゃないか。
「...厄介ごとはもう起きた後だっての」
首には戦奴隷の首輪がしっかりはまったまま。
記憶の中で俺が無理矢理ぶち壊して外そうとしたが、無理だった。
外そうとした途端、強い衝撃か何かで妨害され。
電気か何かを食らったかのように痺れて動けなくなる。
それを察知した周りの下士官や兵に、タコ殴りにされた事がある。
今思い起こしてもやり返したくてしょうがないが、距離と生死不明な点で無理だろう。
このままだと首輪に詳しい人間に見つかったら即契約を更新されて奴隷になってしまう。
なんとか外す手段を探そう。
それにしても、あの場所は一体何なのだろうか。
夢にしてはなにもかもはっきりと覚え過ぎだ。
なんで死んだオークと狼が居るのか。
今はまだ眠ってる子狼まで何故あの場所にいるのか...わからない事が多すぎる。
全然情報が足りない。
それにやるべき事があまりにも多すぎる。
拠点の快適化からあるいは放棄か。
人里で衣類と食料や道具の確保、その為の金稼ぎ。
この世界の地理、歴史、文化の勉強と研究にそれらを学ぶ為の文字。
魔法の習得。
思いつくだけでこんだけだがまだあるし何よりも。
この子だ。
まだこの世界で俺が俺になってまだ二〜三日しか経ってない。
...経っていない筈だ。
でもあの日、ペットと...犬と一緒に暮らしたいなんて願って。
そうして今ここに居る。
「ハード過ぎやしないか...」
ため息が漏れる。
願い事に対して起きた出来事が半端ない。
しかも一緒に暮らす相手は犬じゃなくて狼だ。
クーリングオフは有効だろうか?
やり直しを要きゅ「ゎぅ...」
あ、起きちゃったか。
子狼は俺の胸の上で伸びをするとブルブルと身体を揺する。
犬ドリルならぬ狼ドリル。
鼻は黒いので中心点がはっきりとわかる。
ちょっとよろめきながらドリルを止め。
俺と目が合うや「ひゃん!」とひと吠え。
尻尾振りながら顔めがけて突進すると、ぺろぺろと俺の顔を舐めまわした。
「うひゃひゃ!ちょ、?やめーや!ぁ、あはああははは!」
舐め回しては、耳や頰に甘噛みでかぶりつく。
「きみ、うひゃっ、、こんな、ほほおっほ?!、甘えたさんだったかね!?」
堪らず両手でわしっと挟んで離すと観念したようにだらんとする。
だが地面に降ろすと途端に走って俺の身体を登って顔まっしぐら。
「あひゃひゃ!参った!こうさんだって!やり直しなんてなかった!!」
くそうなんて強さだ。
俺が降参すると子狼は勝ち誇るように、俺の胸の上で可愛く遠吠えする。
「ひゃぉぉぉーん!」
いかんこのままではこの子を頂点として俺が底辺となる集落の形成が成されてしまう。
「うりゃ!」
油断して居たところをすかさず身体をわしっと掴んで膝の上に倒すとこしょこしょとお腹を撫で回す。
「ひゃわん!ひゃん!!」
「ふはは無駄無dがああああ?」俺の右手があああ!?
俺達はしばらくの間。互いの命と尊厳をかけた激しい争いに身を投じたのであった。
...まあ、単なるじゃれあいともいう。
「そうだ名前だよ」「きゅうぅ?」
遅い朝食を食べて一息ついた後。
ぽてぽて歩いて俺の膝の上までやって来るや、仰向けになるこいつの野生を心配しながら、ゆっくり頭を撫でる。
「ラヴィネってのはどうだ?」
狼達に揉みくちゃにされてたあの場面を見て。ふと思い出した雪崩を意味する言葉。
「!ひゃん!ひゃんひゃん!」
昨日のようにそっけない態度じゃない。
起き上がって、尻尾をちぎれんばかりに振る。
どうやら気に入ったようだ。
しかしなんでウルフ金◯がダメだったのかなあ...。
ま、いっか。
「よし!今日からお前はラヴィネだ!」
「ひゃん!」
昨日見た夢がなんだったのかはわからない。
明日の事だってどうなるかわからない。
でも、きっと俺がお前を守ってみせる。
だってこいつは、この世界で俺が初めて出会った。
たった一匹の家族で友達だから。
第一章終わりました。予定に反してかなり暗くてグロい出だしになってしまいました(´ω`;)次回からはもっと明るくしたい。
あと2000pv越えありがとナス!(´ω`)v感想ブクマレビューお待ちしております!!