第12話 盟約
「殺さねばならなかった」
オークの口から、言葉が紡がれる。
「互いが互いを糧とみなしてる。俺たちはあいつらの肉と毛皮に魔石を、あいつらは俺たちの肉と骨に魔石を」
言葉を選ぶように、俺を試すように話しを続ける。
「...お前も俺達を、食べてきたろう...魔石を奪ったろう?」
「ああ、狼だって殺して食べて...毛皮を剥いでたよ、狩人だったからね」
俺は俺の記憶を辿って答えた。
オークが流暢な言葉を喋る事に、特に疑問を感じなかった。
だって、これは夢なのだから。
だから俺の言葉に怒りもせず、オークは頷いてみせる。
「俺たちもお前達の武器と食い物を奪う。子供を作る為に女を攫う」
「やっぱり攫うんだ?」
「俺たちに雌は滅多に産まれないからな」
地面に大剣を突き立て、仕方ないさと肩をすくめる。
不思議と、不快な気持ちにはならなかった。
「アイツらはもっと簡単だ、おまえら人間と家畜が餌だからな」
俺たち生き物は、他の生き物を殺さねば生きていけない。
菜食主義という動物を殺して食べない主義なんてものはあれど、結局植物を殺して食っている。
当たり前のことだ。
「殺さねば殺され、奪われる。ならば、殺すしかあるまい」
あの時あの場に居た者が選択した事とは、そういうことだ。
「群れを守るというのはそういう事だ」
どちらかが死ななければいけなかった。
それを否定する事は生きる事を放棄することだ。
そして...
「その結果が、あれだ」
その指の先にあるのは二つの墓。
「俺たちとあの狼どもが死んで、オマエとアイツが生き残った」
オークが生き延びる為に、狼を殺し...俺と子狼が生き残る為に俺はオークを皆殺しにした。
「わふっ」「わんわん!!」
「おぉぉん」「ひゃん!」
俺と語り合う首領オークに、俺達の前で無邪気にじゃれあう狼の群れ。
でも、本当はもう...。
「でも、それでも俺たちは幸せだ」
「え?」
なんでだよ...死んだらなんにもならないじゃないか。
「お前に、墓を作って貰った」
オークはそう言って、ニヤリと笑った。
人間に墓を作って貰ったオークは俺達だけだろうと...。
「でも、そんなの...墓くらい、お前達だって...」
首領オークは首を横に振った。
「死んだら仲間ですら骨ごと食う俺達だ。墓なんてものはつくらない。アイツらだってそうだろう」
気がつけば、狼達とオークの二つの集団がひとつの輪になって俺と首領オークを囲っていた。
皆、その瞳には恨みも憎しみも、一切が無かった。
ただ真剣に、けれども何かを訴えるような眼差しを俺に向ける。
足元に子狼が尻尾を振ってやってくる。
その背後には二匹の大きな白い狼が居た。
「だから俺たちはみんな、みんな此処でお前を待っていた」
首領オークが、大剣を地面から引き抜き、掲げた。
二匹の白狼が吠えた。
周りのオークと狼が、一斉に吠える。
太陽と、三つの月の下で。
俺達は、確かに「何か」を共有していた。
「いいか?いつか必ず、俺たちの助けが必要になる」
いつか?
必ず...?助け?
なんだよ、それ...?
「その時には、躊躇うな...必ず、俺達が助けに行く」
意識が、急に
あやしくなっていく。
「必ず」
眠く。
ぐう...。
次回で一章は終わりです。
(´ω`;)話を書くのがこんなに大変とは...