第11話 夢の中で
夢を見た。
不思議な場所だった。
意識が次第にはっきりすると、夜を走り抜けたあの原っぱに居た。
月明かりがやけに明るく、それでいて満天の星空が雲ひとつない輝きに満ち溢れている。
夜という認識はあれどその明るさはまるで昼のようで。
気付いた。
太陽までもがこの空に存在しているのだ。
月が三つに太陽が一つ。
全て真円となって静かに光を放っている。
やけに大きな月が、模様が、とても印象的で。
何故かとても、寂しかった。
だから、これはきっと夢なのだろう。
「きゅぅぅん、きゅううう...」
すぐ近くで子狼が地面にぺたっと座り、切なげに鼻を鳴らして、震えている。
よかった。
この子を抱き上げ、辺りを見回す。
震えは幾分か収まったが俺の胸に鼻を押し付け、耳を伏せている。
気がつけば周りは木々に覆われ、あの森の中で見た河原のような場所を、原っぱから眺めている。
いつの間に変わったのか。
変わらないのは俺たちと、夜空の月三つに太陽と星。
ふいに何処かで遠吠えが聞こえ。
この子の震えが止まって、伏せていた顔を上げる。
俺は後ろを振り向いた。
いつからそこに居たのだろう。
見れば人の腰や胸程ある。灰色の大きな狼の群れ。
小さな、この子によく似た灰色の狼の子供たちが大人たちに守られてじゃれ合って。
そしてそれを率いる二匹のもっと大きな、白い、白い狼が。
優しさを湛えた暖かい瞳で、俺の腕の中に居る子狼を見守っている。
「ひゃん!ひゃん!」
俺は促されるまま、屈んで彼女を降ろした。
一目散に走って、転んで、起き上がって狼の群れへとてとて駆けていく。
白い綿毛の鞠のように、子狼は嬉しそうに飛び跳ねて二匹の親の元へ。
狼の群れが雪崩のように、けれども小さな鞠を優しく包み込んで暖かく迎え入れる。
大きな大人達にちょっと強めに舐められ。左へ右へと身体を揺られ、子供にもみくちゃにされて...けれども...ああ、けれども。
「ちくしょう...もう、前が、見えねえよ」
俺は泣いた。
これは夢だ。
俺と子狼の一人と一匹が、そうあって欲しいと願った、幻の現実。
二度と訪れる事のない穏やかで、やさしい夢。
だからだろう。
この優しい夢の中で、狼から俺の影に隠れるように、何処か居心地が悪そうな集団が。
...まるで、悪戯を見つけられた小僧のような佇まいの、オークの群れが俺の後ろに居た。
其処は、二つの小さな山に大剣と武器が無数に突き立てられた墓。
墓標のように突き立てられたボロボロの大剣。
その傍らに、小さな花が月明かりの下...寄り添うように植えられている。
先頭に居た首領のオークは、大剣を担いだまま。どこか照れ臭そうに、左手で頰を掻いて顔を背けた。
泣いてる俺に気を使ってくれたのだろう。
俺の隣に並んで。何処か、眩しそうな顔で狼のじゃれ合いを見つめている。
俺達はしばらくの間、じっと狼の群れによる再会の挨拶と歓迎を眺めていた。
(´ω`;)休み欲しい...