第21話 もふもふと少女
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【一炊の夢】
分類:付随記述
効果:『全て』を『元の状態』にする。
とある一人の青年が、飯の炊き上がる合間に寝て見たという数十年に渡る人生の夢。
──全ては夢の如く。
「わぁ...!」
夢に戻るや否や、早速集まって来た魔獣相手に片っ端から撫で回してやる。
後ろからルンナさんの声が聞こえたが、俺に余裕はほとんどない。
「よーしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし──」
ええい耳を倒して尻尾を振り回しおってからに!
左手で大蜥蜴を撫で、右手で順番待ちの狼を次々モフる。腰に巻きつく蛇をそのままに、肩へ降りて来た瞳の鳥が這いずって来た蛇と両肩から頬ずりを始める。
構ってもらいたくて仕方ない程に、ここの魔獣の大半は人懐っこくて甘えん坊だ。
おっと馬までやって来たな...
それはしょうがないとして、オークや悪魔達にも遊んで貰えるなら俺が構わなくても良いんじゃないk「ぐるるっ!」「シャーッ」
...ダメですかそうですか。
しばらくするとルンナさんの方にも虎が寄って匂いを嗅ぎ、そしてお腹を見せるようにひっくり返った。
「え、えっと...こう?」
恐る恐る手を伸ばし、ふかふかの首元に触れた途端に喉を鳴らして両前脚で包みこむ。
「あ...ふふ」
もっともっとと言っているようだ。
彼女がしゃがみこんで両手で撫でてあげると、ますます身体をくねらせた。
最初はおっかなびっくりだったものの、すっかり笑顔になって虎や並んでいた狼を撫でていた。
少し離れた場所で寝て居るラヴィパパとママ。
見れば狼の子供達もラヴィネとステラ共々、白雪狼のふかふかなお腹のところに集まって寝ていた。
相変わらず二匹の眠りは深く一向に目を覚まさない。
逆に俺の存在に気付いた子供の狼は、みな起き上がって一斉にこちらに群がった。
「ぐ、グワーッ!」
「「「「「あぉぉぉん!!」」」」」
腕や顔をはみはみされて倒れた俺。すかさず駆け上って勝鬨をあげる子供達。
あーだめだめ狼ってほんと怖いで...あっ、こら耳はやめなさい耳は。
すでに何匹かが俺の背を離れてルンナさんの膝までやってきては、登ったり指を甘噛みしたりしている。彼女の頰は緩みっぱなしだ。
俺の背中に残ってた一匹を捕まえて抱き上げ、白雪狼二匹をうんと撫でてやった。
留守番と二匹をありがとうな。
今日はラヴィパパとママが居る事の本当の有難さを知った。
だから顔をぺろぺろされるのも、今は甘んじてうけよう。うははくすぐったい。
...こんなに騒いでも、二匹の子供は未だ眠ったままだった。
首領達の拠点は前回よりも、更に改良されていた。
プレハブだった屋台が、いつの間にかちゃんとした店になっており。扉を開けて出てきた料理長が、麦茶と一緒にオレンジなどの果物をカットして持ってきてくれる。
無論おしぼりも忘れてない。
「あ、ありがとうございます」
「!」
料理長はうやうやしく一礼すると、再び店の方へ戻っていった。
飯場の屋根も、布貼りのタープからしっかりした作りのものに変わっているし...オークって本当に器用だな。
いつか見た違う世界の子供達が、テーブルの上に置かれたチェス盤を囲んで座っている。
ルールはこの場に居るオーク達から教わったのか。妖精の女の子と、狐そのままな少年が対戦しているようだ。
二人とも真剣な表情で駒を代わり番こに動かして...あ、妖精の子がポーンを斜めに動かして駒をとったな。
納得のいかない顔してるな狐少年、実は俺も納得いかない。何でポーンて駒を取る時だけ斜め移動なん...
「......」
それを見る彼女の目は、なんだかとても眩しそうで──
この世界に住む人々は例え俺の仲間であろうとも、全て現世で死んだ者である。
原因は全てこの世界にやって来た超越者にあり。災害や天災を越える理不尽極まるものだ。
「私も、この世界に産まれれば、あんな風にみんな一緒に遊べたのかな」
多種多様な者が生きる世界。
互いがどう思っているかなんて俺には分からない。
でも、きっと...心の中にあるのはそんな高尚なものじゃない。
明日もみんなで遊ぼうとか飯を食おうとか、そんな当たり前の事だ。
「...わかりません。自分も、この世界だったら本当の親に捨てられるような事は...多分、なかったと思います」
人生における『もしも』は、生きていれば誰もが思い描くことだ。
だがそうはならなかったから、この世界は、彼女と俺は、ここに居る。
結局超越者であってもそれは変わらない。
分かった事は世界を滅ぼせる程の力や術を得たとしても、自分よりも強い敵は必ず別世界に居るという事実だけだ。
...俺は運が良かった。
出生とその後に思うところが無いわけではないが、人格者且つ腕利きの狩人に拾われ、概ね恵まれているだろう。
前世の頃の記憶と人間関係が、もう殆ど思い出せない。
確かに刻んだ人生の足跡。
経験と感動がただの知識に変わり、思い出がほんの少しずつ風化していく。
それでも俺の根底にある裏切られた事実。憎しみと猜疑心は、いまだ損なわれていなかった。
では、彼女はどうだろう?
子供達を見つめる彼女の瞳にあるのは、羨望と悲しみと──
超越者ルンナの十余年の生。
人の両親から産まれたダークエルフの少女は、ぽつりぽつりと語りだした。
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