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子育て?超越者(ヒュペリオン)  作者: 樽腹
五章 それでも平穏な日々
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第19話 夜陰の密会

tips


詭道(over_road)


分類:付随記述


自分と対象になる敵の攻撃力と防御力の他様々な数値を加味して演算し、算出した結果を世界に現す。


使うと決めた瞬間に結果が出るのでは無く、演算の結果が像となって現れ使用と同時にそれは現実となる。


これが恐ろしいのは、一対一だけでなく多数対多数でも効果が適用される所にある。


──全てを巻き込み全て滅ぼす。


権能記述{【兵法】}の基本にして最凶の付随記述。



林の遮蔽物を縫う様に動いて、二匹の大蜥蜴(バジリスク)が異形の軍の両端で待機する。


即座に石化の魔眼と毒のブレスで、大木諸共石と塵に返す気だろう。


演奏の準備を始めた道化師の帽子に、瞳の鳥が飛び移り、瞳の模様の付いた翼を広げた。


ハイオークと骸骨は小回りの効かない大蜥蜴の射線を開けて周囲に自然と集まる。

月の光が届かない森の奥で、武器を持たずに盾を構えた。


皆、止まれの指示を守っている。


道化師が指差した場所を木の遮蔽物を挟んで、狼達が取り囲んだ。当然、大蜥蜴の射線上には一匹たりとも入っていない。


蛇は首領が剣を引き抜いた時点で、二匹共いち早く姿を隠す。

集団から僅かに離れた位置から、温度差と人の目に見えぬ光を敏感に察知する目で、戦場になるであろう場所を見据えていた。



首領が大剣を引き抜き、数秒僅か。

みな自分達の強みと役割を理解していた。


さて、相手はどうするか?


秘宝の残骸を集めて作った二つの武器...それを今出すかどうか見極めていたその時。





揺れた空間の中から、森の隙間を縫って降りた月明かりの下。


「貴方は...」


濡羽色の髪に褐色の肌。

落ち葉の積もり腐る深い森の奥に合わぬ、瑞々しい香り。


「ご、ごめんなさい。庭から貴方の姿が見えたのがどうしても気になって」


──ダークエルフの彼女が現れた。


「...ルンナさん」



俺達の後について来た正体不明の相手がルンナさんと分かった瞬間。


狼達はみな尻尾を振りながら一斉に群がっていった。


「ふわっ、わっ、わ!?」

「うぉふっ!」「ハッ、ハッ、ハッ...」「ぐるるるる」「わぉぉおん」


一番撫でられ易い場所へと我先にと集まり、ちょっとした争いまで起きている。自分から寝転んでお腹を見せに行く狼まで居た。

背中でずりずり動いた挙句、別の狼に踏まれて喧嘩してるし...


うーん、野生とは一体何なのか。


超越者になった時からずっと考えさせられるテーマだな。


なでなでの要求は良いけど、顔を舐めに行ったり飛びかかったりしたら駄目だぞ。大事なお客様だからな。


「「「「わぉん!!」」」」


石化の魔眼と猛毒の吐息の射線上へと、敵を守るかのように堂々と侵入する味方。

そんな集団を前に、二匹の大蜥蜴は困った様子で、此方に振り向く。



...大丈夫。彼女はとても優しい人だよ。



「たっ、たた、助けてくださいーー!」

「こらっ、飛びかかったら駄目だって」


「やれやれ...」


首領はため息を吐きながら大剣を鞘に納めた。





§



森の奥で採集を終えた俺達は屋敷までは戻らず。彼女に導かれるまま森を歩いて、少し開けた場所へとやってきた。


因みに首領達は、

「超越者同士の会談に、俺達がわざわざ同席する訳にはいくまい?」


俺達のあとをこっそり付いてこうとした首無し騎士を、悪魔達と一緒に絞め落とし。

物資を抱えてみんなと一緒に帰っていった。


何というかもっとこう、手心というものを...



その小さな湖は、夜の帳の中で月を映す水面の鏡となって。森の合間から覗く夜空の星々を見渡せる程に広く、そして静かだ。


芝生を思わせるように柔らかな草。


タープが張られた木々の合間の下に、机に見立てた切り株が一つ。


彼女は時折気分転換に夜の森を歩くと言った。


「森の中は、不思議と心が落ち着くんです」


この様な休憩する為の場所はいくつか点在しており、彼女のちょっとした隠れ家となっていると。


錬金術師の知識に加えて現地の知識。


もしかしなくとも、ココ以上に森に詳しい筈だ...彼女に限り、狩人の知識や魔物を狩る必要ないな。


「お邪魔します...」


俺は丁度いい高さに生えた木の小枝に、脱いだ帽子を掛ける。


切り株の上に、彼女が持っている支配空間から取り出された魔導具のランタンが置かれ。

温白色の魔法の光が、暗闇の中の彼女の姿をより一層際立たせた。


「...まさかルンナさんも超越者だったなんて」

「言いだせなくて、ごめんなさい」


彼女は申し訳無さそうに目を伏せ、頭を下げた。


「それは仕方ないでしょう。俺達の性質を考えれば至極当然です」


超越者が手っ取り早く強くなる手段は他の超越者を殺す事だ。


この広い世界の中でたった一人か二人の超越者が出会うと言うのは、ある意味奇跡にも等しい。


超越者を判別するにあたって、強さが読めないというのがあるのだろうか?



理屈は分からないが意味はわかる気はする。

超越者は同類を見分ける事が出来るのだろう。


あの男は無差別に人を殺して、炙り出す。


超越者が善人であれ悪人であれ、接触を避けられぬようにする。

敵の強さを察する事は無いが、記憶の中にあるあいつは超越者を見分ける能力に優れていた。


有名になればなるほどに、立場と築き上げた人間関係が邪魔をして逃げられなくなる。

敵から正体を見抜かれれば、人質を取られる可能性もあり最悪なケースも思い浮かぶ。


やはり、自身と身内に関する情報は、例え誰が相手であろうとも迂闊に明かすべきでは無い。


...ルンナさんはその事を一番よく知っている。


「すみません。貴方の事情も知らず、俺はとんでもないことをしてしまった」


彼女は自身と周りの人を守っていたのだとしたら、俺はあの時。感情に任せて二人を蘇らせるべきでは無かった...



「だ、大丈夫です。私の権能記述{【遍在(Ubiquitous)】}なら大多数の人が持ってる記憶や認識を一斉に改竄出来ますから...!」


「そ、そうですか」


記憶と認識を改竄って、なんかとんでも無い事を言い出したぞ。


「因みに効果範囲は...?」

「が、頑張ればこの世界ひとつくらい。ただそれだと、改竄したり隠したりする情報を極端に狭めないと──」



...どんなチートだそれは。




首領「ごゆるりと...」


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