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子育て?超越者(ヒュペリオン)  作者: 樽腹
五章 それでも平穏な日々
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第18話 森の奥で


【隠行】により姿を隠した仲間は最初こそ遠慮していたものの。自分達が見つかる心配がないと分かると、夢の世界と同じように落ち着き、そして少しだらけた。


揃っていた隊列も崩れ、狼が入れ替わってやって来ては俺の服に頭や身体を擦り付ける。

普段はラヴィパパとママが居て秩序立った行動が出来ていたが、少しやんちゃが過ぎる気が。


え?普段嗅がない匂いだから自分達の匂いを付けるって?


そりゃ新しく作ったからなあ...でもなんか耳伏せて尻尾ぶんぶん振ってるし喜んでない?


違う?そうかな...そうかも。


二匹が居ない間の狼のトップって、想像が付かない。せめて一匹だけでも付いて来てもらうべきだったか。


夜行生物が大半である森の中で、生き物が俺たちに気づく事無くすぐ側を通る。


猪だ。


首領と出会った森のソレより、一回り程大きい身体を揺すって倒木を鼻でほじくり起こし、きのこや虫を食べている。


この世界の猪はどんなものでも余す事無く食べる。放っておけばあっさりと増えて、鹿と共に森の貴重な資源を食べてしまう。


...そう言えば狩人も大半はダンジョンに行った筈だったか。


ギルドで推奨されていた獲物は猪、鹿、兎、熊、狼と満遍なく貼り出されている。

冬は殆ど狩りに行く者が居ないだろうが、向こう一年禁止になる事はないだろうと聞いた。


恐らく薬草の類も供給不足になっている筈だ。


これはよろしくない。


ダンジョン探索はすぐに金に繋がるとは言え、そこまで居なくなるものか...


先頭を行く狼が数匹、こちらを振り向く。

やっちゃう?と聞いているようだ。


俺は首を横に振った。

狼は鼻でフスッと息を吐いて再び歩き出した。


今はあくまでも下見だ...けど、明日出会ったら実演も兼ねて狩ろう。


「しかしこの状態。あまりよろしく無いな」

「そうだね」

「...お前が考えてる事は、生態系が乱れる事だろうが。俺の言ってる事はこの力だ」

「ん...そうか」


食事を続けている猪は、目の前で小馬鹿にするように飛び跳ねる道化師の悪魔や指揮者に気づいていない。


けど、それがもし俺達の敵だった場合はどうなる?

超越者の手駒にならずとも、記述の効かないステラのような者も居る。


...過信は禁物だ。


俺達が勝てたのは偶然もあるが、記述の力に頼り過ぎる余り勝つ事が当たり前になって慢心した相手が敵だった事にある。


深刻な状況下にならねば、切り札を切らない。

敵をもて遊ぶ。

多少の用心はあってもすぐにブレる。


将兵を殺し、その知識を得る事はあっても使われる事のない技術と知識はすぐに錆び付く。


あの超越者の...記述に頼り切る歪な有り様が、未来の俺では無いという保証は無いのだ。


「かと言って、足跡を残すのはマズイからね。今日はこのままで行くよ」

「そうか...ならばなにも言うまい」


俺は肩に停まって頬ずりする鳥を指で撫でながら、周囲の地形を記憶していく。


しばらくして、川のある場所までやって来た。


途中頻繁に獲物と出会ったりしているが、その都度無視するようにしている。


群れで動く鳥と恐竜の合いの子の様な肉食獣までも居た。ボスと思われる存在は周りと比べてふた回りも大きくて、ココとミケさんでは太刀打ち出来ない強さを持っている。


おまけにかなり多い。


一瞬間引く事も考えたが、ギルドに買い取ってもらう段階で説明に困るような事は自らの首を締める行為だ。


道中顔に飛び込んできた甲虫に驚いた八本足の大蜥蜴...バジリスクが、石化の力を解放して虫を石化させてしまった。


隠れてはいるが、現実には其処に存在しているので当たれば痛いし仕方ない。

故郷の森でも沢山見る奴だし、まあいいか。


証拠隠滅の為に舌を伸ばして、石になった虫を巻き取り食べるバジリスク。


旨い?そうか...良かったな。

頭を撫でると目をくりくりと動かして、得意げに胸を張った。



...


「ここいらでいいか」


川に沿ってやって来た場所は、魔物も居らず落ち葉も多くて土も柔らかい。


ここから少し広めに散会して腐葉土を集めよう。


「...!」


首無し騎士が後方に合図を送ると、前を歩く狼含めて皆一斉にその場に止まった。


腐った柔らかな葉を踏みしめる音が森の中で微かに響く。

しかし、聞くものはこの場に居る者以外誰も居ない。


「じゃあここから散会して土を集めよう。一箇所からじゃ無くて分散して取ってほしい」


ハイオークと骸骨、屍人が一斉にずた袋とシャベルを取り出す。


「土を取る以外にも木の実や山菜に薬草も集めようと思う。でも、後で採りに来るかもしれない人に残すように」


全員が頷き一斉に作業に取り掛かった。


森の土を取る。


ずた袋の容量はだいたい10kg前後。

これがを百人全員が取るとなると、森は約1トン近くの成長の余地を奪われた事になる。


なので採ったら採ったで、ある程度土を平らにしながら枯葉と腐葉土を混ぜっ返しながら、


複製(replica)


採った分だけ土を複製し、


{【暗黒譚】}──


微生物を活性化して増殖させる。


──【腐食(rotten)


微生物を複製出来れば良いがそれは出来ないので、複製で腐葉土と同じ成分を入れて【腐敗】で微生物を増殖させた。


同じとまではいかなくとも、元の状態にはなるだろう。



{【暗黒譚】}の消費は嘘の様に軽く、{【福音】}と違って恐ろしく馴染んだ。



作業の合間、虎や狼が器用に口で咥えて持って来た木の実や悪魔達が手にした果物といった収穫物を首領と吟味する。


ありがとうな。

でも小動物や熊の秋の備えがあるから、摂り過ぎるなよ。


言った側からどんぐりと思われる木の実を嘴で突き割り、中身を食べる瞳の鳥。


こらこら食べたら駄目っしょ。

え?虫が入ってた?ならしょうがないか。



いや、良くないか...確か虫も一緒に食べる筈だし、どんぐりに卵を産み付けて落とす虫も居るからな。



ごめん、虫入りは分けて元に戻してくれ。



「倒木もある程度持っていかないか?茸も欲しい」


そう言って首領が手に持ったのは、舞茸と同じ姿形の食べられる茸がびっしり生えた倒木だった。


記述で読めば、病原菌や寄生虫も無い。これは欲しい。

舞茸の天ぷらなんて食べたのはいつだったろうか?野菜炒めや回鍋肉でもいい。


複製で同じ倒木をコピーしてグローブを外し、元の木と舞茸を弄って触る。


暫くすると【腐食】と【御業】の副次機能で活性化した菌糸が芽を出し、複製元と同じ状態とまでいかなくともある程度の大きさまで成長していった。


木の実も複製してばら撒く。

恐らく芽は出ないが、栄養価は同じだ。


栗鼠や熊が食べるだろう。


爺ちゃんに学んだ草木の知識を元に薬草や山菜も集めて行く。

採った分は補充しながら戻して行く。


何度かそうこうしてるうちに、ある違和感に気づく。



...見られている。


「首領」

「あぁ...分かっている」


ブルーシートの上に広げた収穫品を、悪魔と一緒に吟味していた首領が油断なく立ち上がった。


牢鉄の大剣を引き抜き、肩に担ぐ。




俄かに周囲が色めき立ち、慌てだした。



道化師の悪魔がにやにやしながら、ある一点を指を指し楽器を携え。女悪魔が背負って居た銃を引き抜き、構える。


「止まれ」


俺は周囲の動きを止めた。





【隠行】の記述で隠れた仲間を見抜き、ここまで気付かれずに着いて来た相手、それは──



「...どなたですか?」














──何も無い空間がぶるりと揺れた。


一方その頃──


ココ「...ルンナちゃぁ..ん..ZZZ...」

ミケ「...」(楽しみで眠れない)


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