第8話 埋葬
大半のオークは、狼の死体から取った毛皮をそのまま身につけていた。
それらを全て剥ぎ取り、丁寧に束ねて規則正しく組んだキャンプファイヤーのように並べられた枯れ木の上へ並べる。
あれからオークの全てを狩り終えた俺は、首領オークから白い狼の毛皮を剥ぎ取って、未だに親の死体の側から離れようとしない子狼の側に置いて。
そして、大急ぎで拠点に戻った。
途中にあった果物と岩塩の採取は忘れていない。
鞄に食糧となる野草、きのこを詰め。
水が沸騰して半ばまで蒸発していた鍋を川に晒して冷やし、水袋に詰めると再び現場へ大急ぎで直行した。
戻って来て見れば、子狼は両親の死体から離れていた。
...逞ましい事に、首領オークの傷口から覗く肉に牙を立てて食らいついている。
俺が戻って来たことを知るや、食事を中断して尻尾をたどたどしく振って出迎えてくれた。
うん、実にかわいい。...血に塗れた口元以外は。
「食べてて良いよ、あとは俺が片付けるから」
そう話しかけると、子狼はぺたんと座って「ひゃん!」と吠えて尻尾を一振り。
再び立ち上がると、食べかけだった首領オークの肉に近づき再び噛り付いた。
...もしかしてこの子、言葉が解るのだろうか?
そう疑問に思いながらも、俺はこの場を綺麗に戻す為に枯れ木を集め、遺体を片付けて回った。
枯れ木で出来た焚き火の祭壇。
その一番上には白い狼の...子狼の両親である二つの遺体を乗せ。出来る範囲で綺麗にして子狼によく見える位置へ並べた。
...お陰で俺の服の袖が片っぽ無くなったし、ついでに食事を終えた子狼も、水を使って拭いた。
オークの手によって殺された狼の肉片もなるだけ全部回収して一緒に焚き木の中へ設置。
もう汚くなってボロ雑巾と化した袖も放り込もう。
一方で、オークの遺体も狼とは分けて同じように枯れ木で組んだ別の薪の上へ。
どちらも相当な量だが、これらを森の中に放置するという考えは起きなかった。
子狼の両親が率いる群と首領オークが率いる群。
互いが糧になる存在であり...出会った以上、殺し合いは避けられなかったのだ。
全てが終わり、冷静になって見れば。
報復や襲撃を恐れて狼を根絶やしにするオークの行動にも、それなりの理由がある事を今になって理解し。
「っこいしょ、と...」
最後に首領オークの首を焚き火に下ろして、準備を終える。
子狼の「ひゃん」という吠え声を合図に、火を放った。
首領オークと一部のオークからは、食肉となる部分の一番程度の良い場所と骨を頂いた。
骨はスープの素というか、出汁の素になるが肉と骨は何方も大量に合っても処理し切れず腐らせる事になる。
保存する為の冷蔵庫が無ければ、加工をする機材や小屋すらないのだ。
川に晒して冷やすという手段も考えたが、血と脂が環境破壊に繋がり。川下から苦情がそうなのでこうする他ない。
...いや苦情とか言ってみたけど実際に村や集落があるかどうかは分からない。
けど川の水汚すのは良くないよな、うん。
話を戻そう。
なぜ、全ての遺体を焼いたかだが、
血の匂いに引き寄せられた魔物が、普段居る場所から外れてやって来るかも知れない。
熊や肉食の獣が、血の匂いを餌と見立ててやって来る可能性。
それだけじゃない。
遺体を放置する事で、腐敗し、その血肉を食った虫が、蚤やダニが拡散して病気を撒き散らすかもしれない。
魔物の遺体を放置して、死霊や動く死体になる可能性もなきにしもあらず。ただの人や狼とて例外ではなかった。
ソレらは全て爺ちゃんから学んだ事だった。
食えぬのなら放置をするな、死んだ者を無視するな、狩られた者への敬意を示せと。
その教えは山で一生を過ごす者の矜持と礼儀であり、生きる為の知恵だったのだろう。
炎は始めは弱く、次第に強くなって枯れ木と遺体を焼いて空へ煙になって舞い上がる。
「きゅぅぅ...」
子狼の悲しく切なげな声を前に、火はより一層強くなって、全てを燃やす。
死んだら終わりだと常々思っていた。
神と呼ばれる存在はあれど名前のみで、理不尽で平等に不平等な世の中だった。
だが、俺の意識は分からぬ間にこの世界へとやって来た。
それが全てだ。
今この場で死んだ者も、別の何かとしての一生が待って居るのだろうか。
...わからない。
俺は子狼と一緒に、目の前の二つの炎をいつまでも、いつまでも...燃え尽きるまで眺め続けていた。
ささやき えいしょう いのり ねんじろ! (´ω`)9m