第11話 屋敷前で
今年も職探しからか...令和もやっぱつれいわ(´ω`)
オジムくんと遊んでたラヴィネを連れて行く。
遊戯室と言えど、其処にあるのは応接間と変わらぬ品の良い調度品と机に椅子が並んでいる。
カーペットの敷かれた床に寝転がって遊ぶオジムくんとラヴィネと...そしてメイド長。
思わず扉を締めてもう一度覗くと、少し離れた場所で一人と一匹を優しく見守るメイド長が居た。
...うん。何も見なかったから服に着いたラヴィネの毛は払った方が良いですよ。
お別れと知るも、素直に身体を離してバイバイと手を振るオジムくんと。何故かしょんぼりした顔でお辞儀するメイド長が対照的だった。
仕事に差し支え無ければいつでも会えるだろうに...
別れ際メイド長に買い物へ行く旨を伝えて、遊戯室を出る。
夕飯は必ず屋敷で食べるようにとの事だし、それまでに余裕があれば一狩り出来そうだ。
不意にステラとラヴィネが後ろを振り返る。
「ちょっと待ちなさいって」
「ん?」
屋敷を出る直前に、後ろから声が掛かる。
振り向けばココを先頭にルンナさんとミケさんの三人がやって来た。
「ねえ...褒美の件。本当にあれで良かったの?」
「聞いてたし答えたろ?」
俺の要望を話してアルナさんが聞き入れた。それで、あの話はお仕舞いだ。
「普通に暮らしたいって、全然褒美でもなんでも無いじゃない...もっとこうドーンって要求すれば──」
どうせ褒美は女神様からドーンって出る訳だし、別にアルナさんに要求しなくたって良いだろう。金貨もたっぷり貰ったしな。
そういやこいつ、警備隊の仕事どうしたんだろう?
「お前仕事は?」
「ゔっ...な、何だって良いじゃ「仕事は?」無期謹慎に入りました...」
oh...
「もおおおお始末書の反省文とお母ちゃんの説教までそれもこれもあんたのせいよぉぉぉうわぁぁあんルンナちy」
(ガッ)
叫びながらルンナさんに抱きつくかと思いきや、間に入ったミケさんの両手がココの両目を塞いで止めていた。
...ミケさんまじナイスストッパーだな。
「おにょれみけぇぇぇ」
...おまえはほんとそういうところやぞ。
「これからギルドで服の材料と魔石買いに行くんだからお前はとっとと家に帰れよ」
「なにその露骨な指定!?差別?不当な扱いには断固抗議するわよ!」
しっしと追い払う仕草を見せれば。ミケさんの拘束をふりほどき、バババっとシャドーボクシングを始める珍獣。
「ざざ、材料...ですか?」
ミケさんの影に隠れた彼女が、そっと顔を出してきた。かわいい。
「見ての通り。この屋敷一番の見窄らしさですから。防具を兼ねた狩猟用と普段着用で、その材料になるものを買いに行きたいんですよ」
「ぴゃぁ」「わふっ」
『魔石ー!』って声が下と肩から聞こえてきたが当然忘れてないぞ。
ところで魔石にも味や栄養の違いってあるのだろうか?
俺は食えないけど、数種類実験で買おう。
「材料って...そういやあんた作れたもんね」
「まあそういう事だ。あんまり高価なものは買えないけど、材料だけで揃えたらそれなりのものは作れるだろうからな」
{【錬金術】}と{【鍛冶場】}の権能記述があれば、どんな物からでも好きな素材で好きなだけ作る事が出来る。
...とは言え、【一炊の夢】以外の場所で『そういう事』はなるだけしたくない。
やはり鉄を必要とするなら鉱脈から鉄を掘って。
木を必要とするならば森で木を切るべきだ。
...形振り構ってられない時とかあるけど、それはそれ、これはこれである。
「良いわね。ついでに私の鎧を作ってくれても良いのよ?」
「鉄から材料費込み金貨5枚から」
因みにこの世界武器よりも鎧の方が高い。
皮までならまだ良いけど、金属で補強していくにつれ高くなり。鎖帷子から一気に値段が跳ね上がる。
鉄と布、稀に木材や皮からなる複合素材。
おまけにサイズ合わせと言った手間が必要とあって、大体一品物になるからだ。
「たっか!あんたオークどもにタダで作ってたじゃない!」
ふがーっと気炎を吐きながら摑みかかる指に指を合わせ、手四つの状態になる。
あわあわとした表情のルンナさんと、避難して来たステラを抱きとめ尚且つ無表情なミケさんを尻目に、ぐぎぎと力を入れる珍獣ココ。
いくら日常的に鍛錬していたとて、同い年の女の子はやはり貧弱だ。
手四つで体格差もあって、目の前に頭が差し出される形となった。
果物のような良い香りがふわっとして、なんだかちょっとこそばゆい。
この屋敷のシャンプーの香りだろうか?
あと、ルンナさんの眼鏡が何故か怪しく光ったような気がする。
「身内で戦いに必要なもんを作ったまでだ。普通は手間賃込みで要求するに決まってんだろう。てか鎖鎧と盾はどうした?」
「謹慎になった時点で没収よ!」
そういや鎧は兎も角盾も備品だったな。忘れてたわ。
そっかニートかぁ...
地球なら失業保険とかのフォローは効くけど、此処異世界だしなあ。
見ればスカートを留めるベルトとは別の、頑丈な金具で補強されたベルトにショートソードと短剣を腰に差している。
これからは冒険者か傭兵みたいなことをして金を稼ぐのだろうか?
でも、
ニートかぁ...
「...ごめん」
「あ、謝んないでよ...てか、その憐れみが真に篭った謝り方!妙に突き刺さるんだけど!?」
扉から表に出て屋敷の前に陣取り、ギャーギャー騒いでいるうちに見知った顔がやって来た。
「やぁやぁちょっといいかな?」
「「アインさん(隊長)」」
俺の正体を知る人間の一人であり、この街の警備隊の隊長その人だった。
ココが指を離して姿勢を正す。
「お、おはようございます」
「...」(ぺこり)「わんわん!」「ぴゃぁ」
「よしてくれ。俺は昨日から体調から副長になってんだ。まあやる事はあんま変わらないけどね」
鎖鎧にサーコートを纏い、ハルバードを担いでいる。昨日別れたままの姿であるが、髪は清潔そのものだ。
この国には入浴の習慣があり、街中には一般人が入浴する為の銭湯が点在し。裕福な家庭では個人用の風呂が付いている。
ルンナさんをはじめとした女の子がふわっと良い匂いがするのは、ちゃんと髪を洗っているからだ。
でも長屋の風呂に置いてあったのって、石鹸ただ水で薄めたみたいな感じでなんか違うんだよなあ...
ともあれ、下水もあるし街はちゃんと知識に基づいて衛生管理も行き届いており、控えめに言ってもこの街は最高だと思う。
「ワンダさん今日から復帰ですか?」
「その話も兼ねておやっさんに用があるのさ。まだ飯食ってたかい?」
「いえ。ちょっと前に応接間に集まって話をしてました。今行けば会えるかと」
「そうか、わりいな」
そう言って俺の横を通り過ぎて
「あ、あの...」
「ココ」
ココの頭に手を乗せくしゃっと撫で付けた。
「よく頑張ってたってのに、その...ごめんな」
「...いいえ」
無期謹慎の件か...
「やっぱり、クビなんですか?」
俺は妙に引っかかっていた。
無期謹慎なんて実質クビである。
超越者の力でこの世界の常識を知った今だから分かるが。
犬人の嗅覚が鋭いからと言って、こいつのように的確に嗅ぎ分ける事が出来る程じゃあない。
斬りかかったのは原因の一部だとて、あの場では本当に斬りかかる直前でアインさんがしばき倒して事を納めているし。
何より父母同席の元で、俺のこいつに対する落ち度と相殺する取り決めもしたのだ。
そもそも謹慎中は給料が一切入らない。
そして生きる為に副業をやった時点で、本当にクビになってしまう。
警察犬もかくやと思わせる能力者を、いとも簡単に切り捨てる。
...もっと別の原因がないか?
「...ストレートに聞くねえ。でも今回ばかりは君も関係者だから、事情を知る権利はあるだろう」
ココの頭から手を離して、俺たちに向き合う。
アインさんは顔の前で人差し指をたてて片目を瞑った。
「わりかし政治も絡む話だから、他言無用で頼むよ」
政治...か。
犬娘が斬りかかるシーンはギャグとして書いたつもりな男樽腹(_´ω`)_小説の難しさを改めて理解しつつ令和も子育て(?)超越者を宜しくお願いします