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子育て?超越者(ヒュペリオン)  作者: 樽腹
五章 それでも平穏な日々
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第8話 おはようございます

(´ω`)ちょいと長めな日常パートです。


朝。


「昨日の今日で仕事を渡す程、あたしゃ鬼じゃないよ」


開口一番呆れるような顔をしたアルナさんに言われてしまった。


ふぐぅ...


そういや【一炊の夢】の中で丸一日散々遊んだ後で忘れてたけど、あの戦いからまだ一日程度しか経ってない。


見兼ねたイルダナフさんが、助け船を出してくれた。


「なんじゃ、訳でもあるのかのう?」

「え、ええ...この子達に毎日欠かさず食べさせたいものがありますから」

「あぁ...アレか」


この子達の健康的な成長の為にも魔石は必要だ。


ハイオークの魔石はお金が必要な為に売りに出したが。あの世界の楽園っぷりを見るに、新たに増えた仲間の物資を買わなくても良いようで、内心ホッとしている。


「そう言えば、この子達の餌に必要だったねえ」

「わふっ」「ぴゃぁ...」


けれどもあの世界で魔石を生み出そうとして、ついにカケラも現れなかったのだ。


人工的に作り出す試みは、キリルが奪って来た魔術師の知識の中にもあったが、成功したという実績は無かった。


あの世界、機械どころか肉とか野菜は作り出せたんだけど未だに縛りがよくわからん...


「狩りに行くって...昨日の今日じゃぞ。ギルドで買って来りゃええじゃろて」

「あはは...其処は狩りを見せて、勉強させる意味もあるので」


なんとなく笑って誤魔化す。


魔石を生み出せない以上は、獲物を狩って集めるか、買うかだけど。

無利子無期限の...アルナさんに返さなくても良いと言われたとはいえ、借金をしてる訳で...


白金貨五枚に大剣分の白金貨八枚計十三枚。



日本円にしてなんと一億三千万円也──



「...坊主?」

「いっ、いえ。何でもありません...」


今、思い浮かべただけで胃がとてもやばい。


うぐぐぐ、まさか今世でも自分が原因ではない借金を負うことになろうとは...


女神さんは経費の支払いをほんとなるだけはやく頼む。




この屋敷の主人である老夫婦は、応接間のソファで寄り添うように座って寛いでいた。


二人とも昨日とは違う、普段着と思われる服を着ているが、ローブの色や細部の品質から昨日服屋で見た金貨数枚の値段の服を思い出す。


側には初老に差し掛かるピシッとしたスーツ姿の男性と、背筋を伸ばしてアルナさんの側に控える妙齢のメイドさんが。

おそらく執事とメイド長だと思うけど...


その背後では数名の年若い娘さんが並んで、皆メイド長とは違う服で揃えている。


最低でも大銀貨程度は使いそうな代物だ。


部屋に置かれた調度品の質と、飾りの少ないながらも伝わる高級感といい、俺のみすぼらしさが益々目立つ。


...うぅむ。


材料となる素材を見繕ったら、狩猟用の防具や服とは別に、こういった場に必要な服も揃える必要があるな。


この屋敷以外に必要な場所があるとは思えないけど──


「わんっ」「あ、ちょっ」


さっきからそわそわしていたラヴィネが、執事さんとメイド長さんに向かって尻尾を振りながら近寄っていった。


「あぁ...すみません」


部屋まで朝食を届けに来てくれたメイドさんにも挨拶したしなあ...笑って撫で回してくれたけど。


「気にするこたあない...お前達も、今後仕事に差し支え無い程度で遊んであげな。この二匹は言葉も理解するからね」


アルナさんはこう言ってくれるが...


中には動物が苦手な人だって居るだろうし、メイドさんに普段の仕事がある以上...無闇矢鱈に挨拶しに行くのは絶対宜しくない。


そんな俺の気持ちとはお構い無しに、真っ先に向かったのは一番近い執事とメイド長だ。


つぶらな瞳でおすわりしながら見上げるラヴィネを、執事さんが微笑みながらそっと撫でるもメイド長は華麗にスルー。


...と、思いきや執事さんが撫で終わったらその場に屈んで顔を覗き込み。


「...」「うぉふっ!?」


両手で顔を挟み込むようにゆっくり撫で回した。


表情は全く変わらないけど、可愛がってくれることは間違いないようだ。

しばらく無言で撫で回した後、その場に立ち上がった。


あ、口元が若干緩んでる。


ラヴィネは二人へ挨拶のように「わん!」とひと吠えしたあと、今度はメイドさん達の元へ。


彼女達と一緒にはしゃいで撫でられ、褒められて、すっかりご機嫌だ。


「ほっほっほ...人気者だねえ」

「仕事しに行く時は、二匹共預かるでな...此処に置いて行ってくれてもええんじゃぞ?」

「あはは..それじゃこの子達の勉強になりませんよ。でも危険な獲物を狩る場合にはお願いします」


この場にはこの子達を嫌う人は居ないようで、ほっとする。


幾ら人が大好きだからと言っても、無闇矢鱈に人には近寄らないように教えないとな。


ステラはと言うと、俺の肩からその様子をしばらくじっと聞いていたが特に降りようともせず...ん?


先ほどから一点へじっと顔を向けている。

その先にあるものは...




...鏡?


鏡が一体どうしたんだろうか。

ステラが気を取られているものの正体を探ろうとしたその時。


「おう!お早うさん!」


昨日の宴から、そのまま一泊していたワンダさんが。

挨拶の大きな声と共に、ドアを開け放ってやって来た。


「やれやれ...騒がしいのがやって来たねえ」


その逞しい腕には眠たそうな顔でしがみついてる息子のオジムくんが。今年で四歳になるのだそうな。


筋肉モリモリ、髭面マッチョマンな、父親の遺伝子が混じってるとは思えない程。サラサラな金髪をした実にかわいいお子さんだ。


でも成長したらワンダさんみたくなるのだろうか?


オジムくんの口元には、今朝に部屋へ配膳されたであろう朝食のスクランブルエッグが付いていた。

この世界での正式名称は何だっけ...


気付いた母親のユユさんが、ハンカチを取り出して優しく拭う。

ココとは違ってストレートな毛並みをした耳とセミロングの金髪をした綺麗な奥さんだ。


成る程オジムくんはユユさんの遺伝子が強いのか。そして...


「...おはよ」


俺の天敵もといココが、ジト目で俺を睨みつけ、ぷいっ...と視線を逸らした。


鎧は装備しておらず、私服とも言うのだろうか。


日本で見かける女学生のブレザーのようなものを着ているが、妙に似合っている。


昨日やって来た辺境伯の親戚とは聞いてたけど、こいつも一応は貴族の娘という事か...


ワンダさんも含めてとてもそうには見えないけどなあ。


「おはようございます...」


まあ昨日の事は、流石に俺が悪かった。


密かにコンプレックスにしている肉体的な特徴を、相手にとって最も身近な肉親と比べて鼻で笑うなど...


──人には触れてはならない『痛み』があるとは、誰が言ってた言葉だったか。


其処を侵したのならば、後はもう命のやりとりしか残らないのだと...


成る程。


確かにあの晩の事は殺されても文句は言えない案件だ。



だから初対面で斬りかかられた事なんてちっとも根になんか持ってなんかいませんともええそうですとも。はい。


「...ぴゃぁぉ」


え?切れて無いっスよ?俺キレさせたら大したモノですわ──



俺の側までやって来たユユさんが。娘の肩を掴んでぐいっと引き寄せ、俺の目の前まで持ってきた。


「タリオンさん。昨日は申し訳御座いませんでした...娘に良くある暴走とは言え、出会い頭に貴方に斬りかかるなど。それも二度目までも──」

「ちょ、お母ちゃ(ドゴッ!)ん“ん”!」


間髪入れずに容赦のない手刀がココの頭頂部へめり込んだ。折檻の現場を見せぬよう、ワンダさんが抱っこの向きを変えてオジムくんの視界を遮る。


衝撃でお辞儀のように頭を下げる珍獣(ココ)と、一緒になって頭を下げるユユさんにつられて俺も二人へ頭を下げた。



「いえ...昨夜の一件は俺が悪かったと思います。例え人にとって些細な事であったとしても、それを鼻で笑うなどあってはならない事です」


因みに先日の事は出会い頭の件も含めて、ユユさんに知られていた。

その件はアインさんがうまい具合に周囲を誤魔化したのは知っている。


現場へ戻る為に屋敷を出る際、始末書がどうのとか言ってたので間違いは無いだろう。書くのは珍獣(ココ)だが。


「...そうでしょうか?」

「ええ...ですので、初対面で斬りかかられた事と相殺して。この件は終わりにして頂ければと」

「ココ」


「うぅ...」


ユユさんが頭を抑えて涙目になってるココの右手を取り、俺の右手と合わせて握らせた。


ビクッと身体を震わせ、一瞬だけ目と目があう。

俺の手に伝わるごつごつした豆の跡。

毎日の修練の跡が、掌に現れていた。


「...っ」


犬耳をパタパタさせて視線をあちこちに泳がせる。


黙ってればこいつもかなり美人なんだけどな...


「正直済まんかった」

「ふ、ふんっ...お父ちゃん生き返らせてくれたしこれで勘弁してy(ごすっ!)ください」


二撃目の手刀。


最後に言い直すと同時に握手を解いて、その場にうずくまるココ。

隣で丁寧に頭を下げるユユさんが実に対照的だった。


「......大丈夫か...?」

「う“ん...」

「わふっ!わん!」


其処へメイドさん達に挨拶を済ませて、すっかり上機嫌になったラヴィネが、こちらに戻って来た。


しゃがみこんでまでうずくまる彼女の周りを回って、正面から潜り混んで顔を寄せる。

すると、彼女はその白くて小さな身体をぎゅっと抱きしめた。


ラヴィネはほんとやさしいなあ...


「お...おはよう、ございます」


しばらくして一回り小さな猫耳のメイドさんを先頭に、ルンナさんがやって来た。

猫耳のメイドさんが部屋へ入るなり、スカートを摘んで一礼する。


「うわぁぁんルンナちゃぁぁ(ガッ)むぐ...」


ラヴィネから離れてルンナさんに飛び付こうとしたココを、猫耳メイドさんが俊敏に片手で押し留めた。


「あ、あありがとう。ミケ...」

「...(こくり)」


顔を押さえられて動けないココ。

ミケと呼ばれたメイドさんが無表情のまま、三毛柄の耳を震わせて、こくりと頷いた。


「むぐぐ、おにょれぇみけええ」


わしゃわしゃと動いて外そうとするものの、彼女の手は離れず。


何だろう、過剰なスキンシップを拒否する猫と強引に迫ろうとする人間のような。


...構図は珍獣vsメイドさんだが。


「わんわん...おいで」「うぉんっ」


ワンダさんの身体から降りたオジムくんが、代わりに歩いて来てラヴィネの身体にしがみ付く。


「やれやれ..本当に騒がしいねぇ」

「ふぉっふぉっふぉ」


アルナさんとイルダナフさんは穏やかな笑顔のまま、その様子を楽しそうに眺めていた。


此処まで読んで頂きありがとうございナス!m(´ω`)m

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