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子育て?超越者(ヒュペリオン)  作者: 樽腹
五章 それでも平穏な日々
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第4話 超越者の休日


あれから、結局三分の一ぐらい焼きそばを食べられてしまった。


おかしいな...止めた筈なんだが。


味の濃い食べ物を食べさせると、本来の餌を食べなくなってしまうかもしれず。


当然、健康には絶対宜しくない。


下部尿路疾患対策としてph調整の為の餌があるほどだ。


ペットの為に調整されてない人間の食べ物で、石が出来たりしたら目も当てられない。



でもまあ、それは地球上の動物においての話で。


地球とは全く異なる世界で、人の何倍もの身体機能を誇る魔獣と幻獣が。

野菜に混じる毒物や、調味料のミネラル過多に負けるとはどうしても思えない。


けど、人の食べ物の味覚えちゃったら普通の餌を食べるかどうかなんだよな...


俺の膝の上でふてぶてしく横倒しになり。拭うように前脚を動かして口元をペロペロ舐めるラヴィネが。


警戒心のかけらもなく、腹を見せて寛いでる。


ステラは俺のすぐとなりで、腕に頭を押し付けてぐるぐる喉を鳴らして唸ってる。



...野生?


やっこさんなら田舎へ帰ったよ。


餌に食いつく時だけは野生味あるんだけどな。



俺は大学生の頃にバイトで触った事のある、ペットを拭く為のウェットティッシュを思い出す。


犬や猫が舐めても大丈夫なやつだ。


そう考えただけで、勝手に手の平の上に現れた。


あとでこれが現世に出せるかどうか、出した場合の性能を調べないとな。


触った事があるのは大学時代の時だけだが、十年以上前のものでも役割をしっかり果たしてくれるだろう。


「ほら、動くなよ」

「きゅぅぅ」「ぴゃぁ」


口元に付いたソースを優しく拭き取ってやる。


ステラはともかく、ラヴィネの白い毛にソースは目立って仕方ない。


一枚使ってもう一枚。


二匹ともティッシュが汚れなくなるまで丁寧に拭きとった。


ついでに耳の中も拭いてやろう。

汚れたティッシュを取り換えて、むにゃむにゃ言う二匹の体をわしゃわしゃしながら、丁寧に耳垢を取り除く。


おっと目ヤニ発見...こらこら顔を逸らすなったら。


二匹は抗議の為にわざと身をよじって甘噛みしたり。俺の頰や身体をぺしぺし肉球で叩いて押し返してくる。


ぐずる二匹を拭いてやる事で、やっと親らしい事が出来たような気がした。



街を見つけてからたった一日だけで住む場所と役場の手続きを済ませ、この世界の抑止力と友達になって。

...挙げ句の果てに、超越者と戦うなんて展開が急過ぎる。


命の危機に子供を巻き込むなんて、駄目な親だよなあ...


俺は拭き終わった二匹を膝に乗せたまま、力を抜いてベンチにもたれかかる。


祭りの熱気と喧噪から少し離れたこのベンチの上で、雲一つない青空を見上げる。


月が三つと太陽が一つ。


記憶の世界と同じだ。


イルダナフさんと出会った時も、この月と太陽が一緒に出てた筈だ。


違いは一体なんだろう?


【一炊の夢】は記憶の世界と、何が違うと言うのか。


記述の使い方に関しては、頭の中に最初から在った。

しかし、副次能力とその活用法だけは自分で見つけろという事か。


キリルの使っていた記述の副次能力はすでに知っている。

けれども自分の記述に関する事だけは、全く分からない。


...まあ、いいや。


この世界でならば、時間を気にせずどんどん実験が出来る。


今此処で実験する気は無いが、たとえ数百年居ようが現実では夜すら明けないだろう。



今はそう、束の間の休息ってやつを──




「...ああ、そういや久々の休暇ってやつじゃないかな」



自分で言ってみて気付いた。

餌と食事の為に狩りをする必要も無い。


何する事もなくだらけることができるのは、この世界では今日が始めてかもしれない。


あの日、布団の中で意識を失ってからようやく。



本当の意味での休み...




「どうしろってんだ...」






俺は、何がしたかったのかな。


疲れてたってのは確かにあるだろう。


あいつが逃げた後の借金を全部返して、やり直す為のスタートラインに、ようやく立っただけなのに。


残したものなんて山ほどある。


...あった筈なんだ。


でも...今は──


「ぐるるるるる...」「......」(ぱたぱた)



...今更全部投げ出して戻る事なんて、出来ない。


俺は二匹の為に深皿を取り出し、知る限りでは一番ミネラル分の少ない軟水を注ぐ。



「ほら...」



二匹は嬉しそうに舌を伸ばして水を飲み始めた。



──今だけは、全部忘れよう。




俺達はあれから数時間。ハイオークの屋台のベンチで、のんびりしていた。


いつのまにか居る狼達も通路から離れて空き地で横になっている。


二匹は今はラヴィネママさんに相手をして貰っている。



...べ、別に悔しくなんてないんだからね。



そんなわけで俺はコーラを飲みながら地球で使ってたスマホを片手に、暇を持て余していた。


回線は効かないけど、ダウンロードしていたゲームや読み物だけは豊富にある。


いつか色々回収したり更新する為に、地球へ戻る事になるだろう。


それか、記述の力で回線だけ地球に繋げる方法を探すしかないな。


オークの屋台に人が時折やって来ては、注文してある焼きそばを大量に持っていく。


あれだけの人が居るのだ。

様々なコミュニティが現れてそこから更に派生しているだろうし、人が大勢やってくるよりは良いか。


首領はゴミを纏めると、スライムが居る屑篭へと持って行く。

ついでにワインを始めとした飲み物を地面に数本置いて戻った。



籠の中からスライムが、にゅっと身体を伸ばして、一本そっとつまみ上げた。


コルクの栓まで器用に抜いて...


スライムさん絶対思考能力あるなこれ。


野生のは統合された記憶で見た事あるけど、此処まではっきりとした知性あったっけな?


ハイオーク達が皆、俺の記憶を共有していたのは驚くが、それでも成長度合いが半端ない。


休憩所を兼ねたタープの設営に始まり、プレハブで屋台を作るとか。

建築資材の知識もそうだが、完璧に使いこなしてるよな。


平に慣らした土地を押し固め。

さらにコンクリを埋め込み、ボルトで締めてブロックの基礎と合わせてガッチリ金具で固定する。


ちょっとやそっとの風では動かないだろう。


屋台の陰には、昨日買った大工道具の他に。


俺が仕事で使った事のあるガソリン発電機と、バッテリー工具が見えた。


屋根には太陽光発電のシステムが組み込まれて。

日陰になる場所では、プロパンガスが配管も新たに丁寧に施工されている。


指導の手間が掛からないのは良いけど、もう少しこう...


...そういや、バイトでたこ焼き機も触ったな俺。


見れば料理長が焼きそばを活用してお好み焼きと、新たにたこ焼きまで作り始めていた。


さらに横では、


金だらいの中に水を注ぐ大蛇と氷を出すラヴィパパ。


雑用で動くハイオーク達がダンボールの中からペットボトルのコーラやらお茶やらを入れていく。


...休憩所では某大手会社の携帯ゲーム機を手に、狩猟ゲームに興じる休憩中のハイオークと無数の骸骨...おまけに首なし騎士が居る。


「ぷぎっ!?」

「おい、傷薬二つ連続で取るなよ」

「...」(カタカタ)


首領の言葉に騎士が頭(?)を下げた。






...お前等本当に活用し過ぎだ!


(´ω`)此処まで読んで頂きありがとうございナス!

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