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暁星堂の大掃除

大掃除しながら今後について相談したりしています。

「どうしたものかしら~。どうしたものかしら~。どうしようもないから寝ちゃおかな~。」

聞く人が聞いたら歌詞と音程のまずさに悶絶すらしそうな鼻歌を歌いながらお店の棚に置かれたままの商品を木箱に詰めていく。

今詰めているものは狩人が狩りの際に魔物に投げて攻撃する玉なので魔力遮断の魔法陣を張り付けた箱にひとつづつ慎重に入れていた。


あの日、大したこともなく密林を散歩しただけなのにぐったりと疲れた私はとりあえず考える時間をくれと暁星堂に居残った。


この家については資金はあるけどできることなら国やギルドに届け出するのは最後の手段にしようと思う。


ギルドで対応できない場合最悪国軍出動、そうなるとこのあたりの平穏な生活が乱れる可能性が高い。

さらに転移先が素材回収場所として有効なら家ごと買い取り悪ければ接収、重要拠点を『保全』するためにブルグの住民は追放の可能性すらある。


深い深いため息しか出てこない。祖父はどうするつもりだったのだろう。


(転移陣に綻びが出来て街に災害をもたらすことは怖い。でもおじいちゃんが制御してたのなら時間をかけて私が引き継ぐのも全く無理じゃない。)

ギルドや国に頼るのに見切りをつけた理由はまだある。

転移先がブルグのあるフランドール国だけではなかったからだ。ハーメルンもエッシェンバッハも異国なのだ。


通常素材を狩りに行くのはその場に移動して行う。

そこまでの移動手段の問題もあるし国同士のあれこれで入国拒否なんてこともある。

苦労して採集しても保有国に一定量を納めたりすれば場合によっては大赤字になったりする。

それが国に居ながら自由に入手できるというのだ。為政者なら当然欲する。

安価なものが出回るのは消費者としては喜ばしいけど国同士のパワーバランスやそれで生計を立てる人の生活を圧迫することだってあるかもしれない。


転移陣を用いて大量の軍馬を送ることだって可能なのである。

(大量の軍馬が入ればうちの床が抜けるけどね。)

そんなことを言えばエリックとアメリ叔母さんもさすがに険しい表情になってしまった。


そんな考えをシャンタルに話していると彼女はフンと鼻を鳴らした。

「地はもともと水底(みなそこ)にもあまねく広がっているものだ。大地にもともと線引きなどされてはおらぬ。国境なんぞは人が勝手に定めた(ことわり)にすぎぬのに難儀なことよ。」

「本当にそうよね。」

地の精霊の眷属であるシャンタルの言葉は真理だろうけどそうはいかないのが人の世だ。

そうしながらも手は休むことなく動かして炎玉、煙玉、氷玉、水玉、風玉と用途別に梱包しシャンタルがそれを店の隅へと指示に合わせて運び積み上げる。

とにかくしばらくは暁星堂に住んでみようと思うけど住むには生活の糧がいる。

とりあえず祖父の残した在庫販売で行くにしても2か月近く放置された店を片付け在庫を把握することに先年しよう。


「エマ。ここに住むのか?」

シャンタルが鼻づらを押し当てて聞いてくる。魔力をずずいと引き出されるのを感じながら答える。

「うん。手に負えるかはわからないんだけど、このままじゃ人の理でこの家も街もどうなることやら。それに私が宿無しなのは確かだもんね。」

「我はここが気に入ったぞ。裏には小さくも庭がある。草花を育てるとよい。我が世話してやるぞ。」

シャンタルは土の属性を持つ精霊だ。豊かな土の気は彼女には心地よいものなのだろう。

「それにここで『道具』を作るのだろう?我は役に立てると思うぞ。」

手先が器用なものが多いシャンタルとその眷属は細工物などを好む。

彼女が私を主と認めたのも私の手製の道具が気に入ったのが大きな原因だと言っていた。


商品を詰めた箱の魔法封印を確認すると短杖を手に取り軽く目を閉じた。

「空気の流れ ゆるゆると動いて 積もった埃をひとまとめに 清らかな空気 床を清めて お掃除開始 ピカピカに。」

私の詠唱につられて短杖の先がキラキラと光ると床の上をさっと駆け回った。

同じように杖を振るたびに腰壁、壁、棚、天井、窓枠と拭きあげられたように清潔になっていく。

外部に放出する回路は細いけど魔力量は普通の魔法使いよりも多いのでずっと洗浄魔法を使い続けていても消耗はそれほど感じない。

「相変わらず妙なまじない言葉を唱える。わかりやすくていいが。」

「生活魔法なんだもん。自分がどうしたいかはっきりとイメージすることのほうが大事だよ。」

袖をまくり上げた腕を腰にあててえへんとふんぞり返る私にシャンタルは尻尾を軽く振るだけだ。


「で。店は店で片づけるとしてエマはどの部屋に住まうのだ?奥のあれは女子の寝るようなところではないぞ。埃まみれだ。人の子には日の光と清い空気が必要だ。」

発病以来の仮眠の場とした祖父の作業場はこじんまりとしていて必要なものがすぐに手が届き特に不満もないのだけどシャンタルにしてみれば女子として言いたいこともあるらしい。

「そうだねぇ。ゆっくりと寝たいし2階のお婆ちゃんの部屋と厨房は転移陣を張られていないからそこを使わせてもらおうと思っている。」

一応アメリ叔母さんに聞いてみたら形見の品などは片づけが終わっているので好きにしていいと言われた。

祖母は私が7歳の時に病で死んだ。翌年に両親が事故で死んだからそれを知らずに済んだのはよかったと思う。

小さかった私には祖母の記憶は温かくふんわりとしたものしか残っていないけど穏やかでいつも歌っていた。

楽器もひけたらしく街の祝いや祭りの時に笛を奏でていたこともある。祖母にまつわる記憶の中では家族は誰一人欠けることがなく揃っている。

ちょっと鼻の中がツンと痛んだけれど終わってしまったことは嘆いても仕方ない。



魔法で掃除は済ませていたけど手作業の分もあったから思った以上に時間がたっていたみたいだ。

「シャンタル、お昼を食べてからちょっと部屋のもの買いに行こう。」

「魔法鞄から出して済ますかと思ったが。女子たるもの買い物も楽しむ余裕が必要だの。」

シャンタルがしたり顔で笑うのが悔しかったので彼女がお気に入りにしている紫のリボンをほどいてやった。

不服そうに唸ったけどこれくらいの仕返しは許されてもいいと思う。



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