精霊シャンタル
「で。ララおばちゃんのところのエリックが付いてくってわけか。」
軽い皮鎧に彼女の代名詞ともいわれる白銀の鞘に納められた双剣を腰に下げた叔母さんがエリックを見上げた。
「こんにちは。アメリさん。ぜひともご一緒させていただきたくお願いしますっ!」
緊張なのかうっすらと頬まで紅潮させたエリックが皮鎧を着た体をギクシャクとさせながらアメリ叔母さんに礼をして勢いの余り体勢を崩した。
「そっか。あんまり知る人が多くない方がいいんだけどねぇ。まぁ私はメッスに帰るからここに知ってるヤツがいるほうがいいのも確か。
でもしっかり鎧着てきたのはヨシだね。エリック、あんたの得物はなんだい?」
「あの僕・・・いえ俺は戦斧です。俺の師匠が斧使いだったので。」
「ふむ。その体なら有効ね。手入れも問題ない。騎士生まれでないあんたには合ってる。」
アメリ叔母さんの言葉にエリックがほっとしたように息をついて頬を緩ませる。
「まずは装備を確認しようか。」
アメリ叔母さんがそう言うとエリックは傍らの私を見て不思議そうに首を傾げる。
防具に皮鎧を身につけ武器を手にしたアメリ叔母さんとエリックに対してシャツにキュロットという街歩きのような服の上から深緑のマントを身につけた私が軽装に見えるのだろう。
一応胸には皮鎧を付けているけど小さ目だし。だがエリックよ、君が聞いたら腰を抜かすくらいの高レベル素材を使っているのだよ、ふっふっふっふ。
アメリ叔母さんは身につけたマントや服の素材を手触りで確かめるとお見通しだったようでニヤリと笑った。
「俺たちに比べてエマの装備が緩いっていうか、家の2階に上がるだけなのに俺たちの装備がありえないっていうか。大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だね。父さんの贈った素材で作ってある。なぁエリック、エマの装備の値段を聞いたらあんたおいそれとこの子に触れなくなるよ。
二つ目の質問に関してはそれは開いてみなくちゃわからない、ってのが難点なんだよね。」
唖然としたエリックはそのままにアメリ叔母さんは魔法鞄を開くように促した。
「呪符と魔石。印玉(マーキングに使う)、ポーションに状態異常回復薬。こんな感じかな。あとスリングショットと弾に投げナイフでいい?でもどうして?」
腰に下げたバッグの大きさに比べて次々と出てくる物量の豊富さにエリックがお金持ちめ、と呟くがだけであっさりとそれを流しておいた。
「うぉっ!何かいる!犬?」
エリックが足元に急に現れた胴長垂れ耳の可愛らしい茶色の姿を見て驚きの声を上げる。
踏みつけかけてたたらを踏んだエリックの足元をすり抜けてそれが腕に飛び込んだ。受け止めて柔らかな毛並みを堪能する。
シャンタルは私の精霊だ。
直接の魔力放出量が少ないのを克服する手段として精霊もしくは幻獣などに魔力を提供して補佐してもらうという方法を発見した。
これなら一気に魔力を放出しなくとも契約することで魔力を勝手に吸収してくれるらしい。
放出量は少ないけど蓄積量は人並み以上の私なのでシャンタルが多少無茶しても大丈夫なのが強みと言える。
なんだかんだと苦労して呼び出しに応えてくれたのがシャンタルだ。ちなみに名前は私が付けた。
可愛いもの綺麗なものが大好きで細工を見たりするのが大好きの女子力高め精霊だ。
土の属性があって本来はトカゲのような見た目をしているのだけど可愛くないとかいうよくわからない理由で子犬の姿をしている。
「犬じゃないよ私の精霊だよ。シャンタル目が覚めた?これはエリック。この街の幼馴染なの。」
「そうか。どうやらうっかり3日ほど寝たらしいの。」
「仕方ないよ。たくさんの人が来たからね。見る人が見ればわかっちゃうしね。精気削られなかった?」
「エマの気を貰えば大丈夫。」
抱き上げられて満足そうに鼻先を頬にすり寄せている様子は子犬と変わらなく見えるのだろうエリックが触れようと手を伸ばすとシャンタルが身をよじってそれを避けた。
「ほへー。俺、喋る従魔は初めて見た。こんな犬っころみたいなんだなぁ。」
「犬っころ・・・エマよ、こやつ食らうてよいか?」
黒い瞳の瞳孔が縦に裂けて赤い光を放ち愛らしい外見から想像できない低音のうなりとちらりと見えた鋭い牙にエリックが息を飲んだ。
「ダメだよ。お腹壊すよ。」
「理由そこかよ?」
窘められるとシャンタルの瞳の赤い光はふっと消えまた愛らしい見た目に戻る。
「アメリか。久しいの。」
「シャンタル様、お久しぶりです。」
「アメリさん、家の2階に行くだけなんですよね。ってか毛玉に『様』?」
「食わぬまでもひと噛みしておく。」
ガチガチと歯を噛み鳴らすシャンタルの背中を撫でてなだめておく。本気ではないと思う・・・たぶん。
「今から用事があるからとりあえず我慢して。」
「とりあえずじゃねぇ。ってかいろいろ口やかましいな、毛玉。」
「これ以上シャンタル怒らせないで。知らないよ。」
なんだかんだでなんとかエリックをシャンタルに謝罪させると叔母さんが呆れた生ぬるい表情でこちらを見ていた。
「そろそろ出発したいんだけどね。」
「ふむ、視界が高いとは良いもの。」
小さな見た目とは裏腹にいつのまにかシャンタルはエリックの首に巻き付くようにしてのほほんとしていて気配を察知しきれなかったエリックがぎょっとした顔をした。
(狐の襟巻きみたい、って言ったら拗ねるな。確実に。)
ほんの10段ほどの短い階段なのになんだかしんとして人を避けるような気配が漂っている。
「エマは戻ってから奥の応接間で寝起きしてたろう。」
2階は散らかっているからと中庭に面した応接間で寝起きするように言われていた。祖父は商品の加工があるからと店舗奥の作業場にいたし体調を崩してからは私と入れ替わって病室にしていた。
「父さんもいずれは話すつもりだったと思うよ。ま、今となっては言っても詮無い。まぁ百聞は一見に如かず。さ、行くよ。」
アメリ叔母さんは狩人の中でもトップレベルの実力を持つ猛者です。
エリックは狩人歴5年駆け出しは卒業した期待の若手くらいのレベルの設定です。
シャンタルの見た目はダックスフンドのようなものです。




